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……どうか、僕にも――
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「……ごめんね、深影さん。迷惑かけちゃって」
「……どうか、謝罪などなさらないでください。言わずもかな、鈴珠さんは何も悪くないのですから」
「……深影さん……うん、ありがと」
玲瓏たる月の輝く、ある宵のこと。
布団の中で覚束なくそう伝えると、苦痛を湛えた表情で答えてくれる深影さん。そんな彼の手は、優しく私の手を包んでいて……うん、落ち着くなぁ。
あの時、ふっと倒れたらしい私を深影さんがすぐさま医師の下へと連れて行ってくれたみたいで。そして、その診断結果は――
「……まあ、分かってたけどね。あんな仕事をしてんだし、いつかはこうなることくらい」
「……鈴珠さん」
そう、仄かに微笑み告げる。診断結果は、性病――それも、極めて重度な症状で。
「……ほんとにごめんね、深影さん。知ってると思うけど……私、たくさんの男性と交わってきたから、きっとその時にどこかで……だから、ひょっとすると深影さんにも移しちゃってるかも……」
「……どうか、謝罪などなさらないでください、鈴珠さん。そんなの、貴女の責任ではありませんし……そもそも、僕から移してしまった可能性だって……」
「……うーん、絶対とまでは言わないけど……でも、多分それはないかなって。だとしたら……深影さんが先に性病を持ってたのなら、貴方にも今その症状が出てると思うし……」
「……それは、確かに……」
その後、再び謝意を述べると、いっそうの悲痛を浮かべ答える深影さん。彼の言うように、彼側からの可能性もゼロとまでは言わないけど……それでも、私側からの可能性が遥かに高いかなと。あくまで、私の感覚ではあるけれど……それでも、妓楼に来るまでさほどそういう経験がなかった――それが、最初に身体を重ねた際に彼に抱いた印象で。……まあ、正直どっちでもいいんだけどね。どっちであっても、そこには何の意味もないんだし。そんなことより――
「……ねえ、深影さん。ここで、お別れしよ?」
そう、覚束ない口調で告げる。すると、ハッと目を見開き……そして、今にも泣きそうな表情で私を見つめる深影さん。……うん、ありがと。……だけど――
「……自分でも、分かるの。きっと、私の生命は直に終わる。だから、今更だけど……ここまで巻き込んでおいて、本当にごめんなんだけど……これからは、自分の人生を生きて、深影さん」
そう、辛うじて告げる。優しく包んでくれているその柔らかな手を、ぎゅっと掴みながら。……ほんと、今更にもほどがある。こんなにも巻き込んでおいて、本当に今更にも――
……でも、これで解放できる。まだ、バレてはいないはず。ならば、私がいなくなればもう……いや、大丈夫とは言えない。言えないけど……それでも、彼への危険性は格段に減るはず。だから、せめてここで解放し――
「……でしたら、鈴珠さん。僕も、貴女と共に」
「…………へっ?」
すると、ぎゅっと私の手を握り返しそう口にする深影さん。……えっと、共に? いったい、どこに……っ!!
「……最期、だなんて絶対に信じたくありません。絶対に治ると……今日のように、ただ二人で柔らかな陽の下を……そんな穏やかな日々が、これからもずっと……そう、心から願っています。
……それでも……もし本当に最期なのであれば……僕は、貴女と共に旅立ちたい。貴女の……鈴珠さんのいない世界に生きる意味など、僕にはもはや皆目ないのですから」
「……っ!! ……深影、さん……」
そう、穏やかに微笑む深影さん。……ほんとに、馬鹿だなぁ。ほんとに……ほんとうに馬鹿だなぁ。
「……鈴珠さん」
すると、ポツリと私の名を呼ぶ深影さん。そして、陽だまりのような微笑を浮かべて告げる。
「……どうか、僕にも病気をください。どうか、貴女と同じ死を迎えさせてください」
「……どうか、謝罪などなさらないでください。言わずもかな、鈴珠さんは何も悪くないのですから」
「……深影さん……うん、ありがと」
玲瓏たる月の輝く、ある宵のこと。
布団の中で覚束なくそう伝えると、苦痛を湛えた表情で答えてくれる深影さん。そんな彼の手は、優しく私の手を包んでいて……うん、落ち着くなぁ。
あの時、ふっと倒れたらしい私を深影さんがすぐさま医師の下へと連れて行ってくれたみたいで。そして、その診断結果は――
「……まあ、分かってたけどね。あんな仕事をしてんだし、いつかはこうなることくらい」
「……鈴珠さん」
そう、仄かに微笑み告げる。診断結果は、性病――それも、極めて重度な症状で。
「……ほんとにごめんね、深影さん。知ってると思うけど……私、たくさんの男性と交わってきたから、きっとその時にどこかで……だから、ひょっとすると深影さんにも移しちゃってるかも……」
「……どうか、謝罪などなさらないでください、鈴珠さん。そんなの、貴女の責任ではありませんし……そもそも、僕から移してしまった可能性だって……」
「……うーん、絶対とまでは言わないけど……でも、多分それはないかなって。だとしたら……深影さんが先に性病を持ってたのなら、貴方にも今その症状が出てると思うし……」
「……それは、確かに……」
その後、再び謝意を述べると、いっそうの悲痛を浮かべ答える深影さん。彼の言うように、彼側からの可能性もゼロとまでは言わないけど……それでも、私側からの可能性が遥かに高いかなと。あくまで、私の感覚ではあるけれど……それでも、妓楼に来るまでさほどそういう経験がなかった――それが、最初に身体を重ねた際に彼に抱いた印象で。……まあ、正直どっちでもいいんだけどね。どっちであっても、そこには何の意味もないんだし。そんなことより――
「……ねえ、深影さん。ここで、お別れしよ?」
そう、覚束ない口調で告げる。すると、ハッと目を見開き……そして、今にも泣きそうな表情で私を見つめる深影さん。……うん、ありがと。……だけど――
「……自分でも、分かるの。きっと、私の生命は直に終わる。だから、今更だけど……ここまで巻き込んでおいて、本当にごめんなんだけど……これからは、自分の人生を生きて、深影さん」
そう、辛うじて告げる。優しく包んでくれているその柔らかな手を、ぎゅっと掴みながら。……ほんと、今更にもほどがある。こんなにも巻き込んでおいて、本当に今更にも――
……でも、これで解放できる。まだ、バレてはいないはず。ならば、私がいなくなればもう……いや、大丈夫とは言えない。言えないけど……それでも、彼への危険性は格段に減るはず。だから、せめてここで解放し――
「……でしたら、鈴珠さん。僕も、貴女と共に」
「…………へっ?」
すると、ぎゅっと私の手を握り返しそう口にする深影さん。……えっと、共に? いったい、どこに……っ!!
「……最期、だなんて絶対に信じたくありません。絶対に治ると……今日のように、ただ二人で柔らかな陽の下を……そんな穏やかな日々が、これからもずっと……そう、心から願っています。
……それでも……もし本当に最期なのであれば……僕は、貴女と共に旅立ちたい。貴女の……鈴珠さんのいない世界に生きる意味など、僕にはもはや皆目ないのですから」
「……っ!! ……深影、さん……」
そう、穏やかに微笑む深影さん。……ほんとに、馬鹿だなぁ。ほんとに……ほんとうに馬鹿だなぁ。
「……鈴珠さん」
すると、ポツリと私の名を呼ぶ深影さん。そして、陽だまりのような微笑を浮かべて告げる。
「……どうか、僕にも病気をください。どうか、貴女と同じ死を迎えさせてください」
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