玲瓏たる月の下、命懸けの恋を貴方と

暦海

文字の大きさ
32 / 32

二人だけの世界で

しおりを挟む
「……ねえ、深影みかげさん。気持ちいい?」
「……はい、とっても。鈴珠すずさんは?」
「……うん、私も」


 それから、数十分ほど経て。
 そう、息を切らしつつ会話を交わす。これが本心だということは、今はもう疑う余地もなく伝わって。そんな彼の言葉に、心に、私の胸にも暖かな熱が広がって。そんな柔らかな安らぎの中、ふとこれまでのことに想いを馳せる。これまでの、私の人生ことに。


 ……ほんと、色々あったなぁ。当然、両親に売られ何も知らない世界に……そう言えば、どうしてるかなぁ二人とも。幸せであってくれたらいいんだけど。

 それで、とにかく日々を生きるために頑張って頑張って働いて……でも、理由なんてなかった。生きてる理由なんて、きっと。……お姉さまの言うように、きっと諦めていたのだろう。人生そのものに、見切りをつけていたのだろう。

 だけど、ある日――私の世界は、一変した。深影さんと出逢ったあの日から、私の世界に鮮やかな色彩いろがついた。
 もちろん、苦痛が全てなくなったわけじゃない。生憎のこと、人生はそう楽ではないようで。それでも……それでも、貴方がいたから、私は生きてこられた。その時は――つい一ヶ月前までは、その理由は分からなかったけど……それでも、貴方が心を砕き助けてくれていたことは流石に分かっていた。それが、どれほどの支えになって……そして、いつしか理由になっていた。いつか、貴方と共に二人で……それが、私の生きる理由になっていたんだ。……だから、ほんとに……ほんとにありがとう、深影さん。


 ……うん、折角だし言ってみようかな。きっと困らせちゃうだろうけど……まあ、最期なんだし。そういうわけで、ゆっくりと口を開いて――

 
「……ねえ、深影さん。私のこと、好き?」


 そう、ゆっくりと尋ねる。……いや、尋ねてるわけでもないか。だって、返事こたえを求めてるわけじゃないし。なので、改めて口を開き――


「……これが、最期のわがまま……だから、嘘でいいから好きって言って。私のことを、誰よりも好きだって」
「……鈴珠さん」

 そう、ぎゅっと手を握り口にする。……そう、嘘でいい。今だけの、この場限りの嘘でいい。だから……どうか、最期に――


「……好きです、鈴珠さん。誰よりも、貴女のことを愛しています」
「……っ!! ……深影、さん……」

 刹那、胸が急激に熱くなる。……返事こたえなんて、求めてなかった。だって、欲しい返事こたえが得られるなんて思ってなかったから。

 ……だけど、流石に分かる。これが……私をぎゅっと抱き締め告げる彼の言葉が、紛れもなく本心だということが。だから――

「……うん、ありがとう、深影さん。私も……私も大好きだよ」

 そう、震える声で口にする。もう抑えきれないこの想いが少しでも強く伝わるように、ぎゅっと彼を抱き締めながら。……うん、ありがとう、深影さん。もう、大丈夫。もう、十分に……ううん、これ以上もなく幸せだから。


 そっと、灯りが消える。そして、輝く月の光が照らす二人だけの世界で、優しい温もりに包まれそっと目を閉じた。







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...