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二人だけの世界で
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「……ねえ、深影さん。気持ちいい?」
「……はい、とっても。鈴珠さんは?」
「……うん、私も」
それから、数十分ほど経て。
そう、息を切らしつつ会話を交わす。これが本心だということは、今はもう疑う余地もなく伝わって。そんな彼の言葉に、心に、私の胸にも暖かな熱が広がって。そんな柔らかな安らぎの中、ふとこれまでのことに想いを馳せる。これまでの、私の人生に。
……ほんと、色々あったなぁ。当然、両親に売られ何も知らない世界に……そう言えば、どうしてるかなぁ二人とも。幸せであってくれたらいいんだけど。
それで、とにかく日々を生きるために頑張って頑張って働いて……でも、理由なんてなかった。生きてる理由なんて、きっと。……お姉さまの言うように、きっと諦めていたのだろう。人生そのものに、見切りをつけていたのだろう。
だけど、ある日――私の世界は、一変した。深影さんと出逢ったあの日から、私の世界に鮮やかな色彩がついた。
もちろん、苦痛が全てなくなったわけじゃない。生憎のこと、人生はそう楽ではないようで。それでも……それでも、貴方がいたから、私は生きてこられた。その時は――つい一ヶ月前までは、その理由は分からなかったけど……それでも、貴方がただ私のために心を砕き助けてくれていたことは流石に分かっていた。それが、どれほどの支えになって……そして、いつしか理由になっていた。いつか、貴方と共に二人で……それが、私の生きる理由になっていたんだ。……だから、ほんとに……ほんとにありがとう、深影さん。
……うん、折角だし言ってみようかな。きっと困らせちゃうだろうけど……まあ、最期なんだし。そういうわけで、ゆっくりと口を開いて――
「……ねえ、深影さん。私のこと、好き?」
そう、ゆっくりと尋ねる。……いや、尋ねてるわけでもないか。だって、返事を求めてるわけじゃないし。なので、改めて口を開き――
「……これが、最期のわがまま……だから、嘘でいいから好きって言って。私のことを、誰よりも好きだって」
「……鈴珠さん」
そう、ぎゅっと手を握り口にする。……そう、嘘でいい。今だけの、この場限りの嘘でいい。だから……どうか、最期に――
「……好きです、鈴珠さん。誰よりも、貴女のことを愛しています」
「……っ!! ……深影、さん……」
刹那、胸が急激に熱くなる。……返事なんて、求めてなかった。だって、欲しい返事が得られるなんて思ってなかったから。
……だけど、流石に分かる。これが……私をぎゅっと抱き締め告げる彼の言葉が、紛れもなく本心だということが。だから――
「……うん、ありがとう、深影さん。私も……私も大好きだよ」
そう、震える声で口にする。もう抑えきれないこの想いが少しでも強く伝わるように、ぎゅっと彼を抱き締めながら。……うん、ありがとう、深影さん。もう、大丈夫。もう、十分に……ううん、これ以上もなく幸せだから。
そっと、灯りが消える。そして、輝く月の光が照らす二人だけの世界で、優しい温もりに包まれそっと目を閉じた。
「……はい、とっても。鈴珠さんは?」
「……うん、私も」
それから、数十分ほど経て。
そう、息を切らしつつ会話を交わす。これが本心だということは、今はもう疑う余地もなく伝わって。そんな彼の言葉に、心に、私の胸にも暖かな熱が広がって。そんな柔らかな安らぎの中、ふとこれまでのことに想いを馳せる。これまでの、私の人生に。
……ほんと、色々あったなぁ。当然、両親に売られ何も知らない世界に……そう言えば、どうしてるかなぁ二人とも。幸せであってくれたらいいんだけど。
それで、とにかく日々を生きるために頑張って頑張って働いて……でも、理由なんてなかった。生きてる理由なんて、きっと。……お姉さまの言うように、きっと諦めていたのだろう。人生そのものに、見切りをつけていたのだろう。
だけど、ある日――私の世界は、一変した。深影さんと出逢ったあの日から、私の世界に鮮やかな色彩がついた。
もちろん、苦痛が全てなくなったわけじゃない。生憎のこと、人生はそう楽ではないようで。それでも……それでも、貴方がいたから、私は生きてこられた。その時は――つい一ヶ月前までは、その理由は分からなかったけど……それでも、貴方がただ私のために心を砕き助けてくれていたことは流石に分かっていた。それが、どれほどの支えになって……そして、いつしか理由になっていた。いつか、貴方と共に二人で……それが、私の生きる理由になっていたんだ。……だから、ほんとに……ほんとにありがとう、深影さん。
……うん、折角だし言ってみようかな。きっと困らせちゃうだろうけど……まあ、最期なんだし。そういうわけで、ゆっくりと口を開いて――
「……ねえ、深影さん。私のこと、好き?」
そう、ゆっくりと尋ねる。……いや、尋ねてるわけでもないか。だって、返事を求めてるわけじゃないし。なので、改めて口を開き――
「……これが、最期のわがまま……だから、嘘でいいから好きって言って。私のことを、誰よりも好きだって」
「……鈴珠さん」
そう、ぎゅっと手を握り口にする。……そう、嘘でいい。今だけの、この場限りの嘘でいい。だから……どうか、最期に――
「……好きです、鈴珠さん。誰よりも、貴女のことを愛しています」
「……っ!! ……深影、さん……」
刹那、胸が急激に熱くなる。……返事なんて、求めてなかった。だって、欲しい返事が得られるなんて思ってなかったから。
……だけど、流石に分かる。これが……私をぎゅっと抱き締め告げる彼の言葉が、紛れもなく本心だということが。だから――
「……うん、ありがとう、深影さん。私も……私も大好きだよ」
そう、震える声で口にする。もう抑えきれないこの想いが少しでも強く伝わるように、ぎゅっと彼を抱き締めながら。……うん、ありがとう、深影さん。もう、大丈夫。もう、十分に……ううん、これ以上もなく幸せだから。
そっと、灯りが消える。そして、輝く月の光が照らす二人だけの世界で、優しい温もりに包まれそっと目を閉じた。
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