復讐の始まりは、“怒り”と共に~捨てられたダンジョンの最奥で、俺は最強の継承者となる~

異世界叙事詩専門店【Geist】AP支部

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第一章 選ばれし者よ。汝の望みは、如何ほどか。

第三話 咆哮する原初

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 意識が浮上する。

 冷たい石の床、湿った空気、血の味が口の中に広がっていた。
 だがそれ以上に、心臓が焼けつくように熱い。
 内側から煮えたぎるような衝動が、全身を突き動かしていた。

「俺は……裏切られたんだ。」

 忘れられない。あの冷たい声。振り返らずに去っていった背中。
 誰一人、俺を振り返ろうとはしなかった。

「なぜだ。俺はあんなに、皆のために……。」

 喉元までこみ上げてくる怒りを、押し殺す必要はなかった。
 むしろ、それは俺を導く声に変わった。

『選ばれし者よ。汝の怒りは、如何ほどか。』

 その問いに、俺は無意識に手を伸ばしていた。
 黒剣に、何かに――いや、“力”に。
 祭壇に突き立てられたそれは、まるで俺を待っていたようだった。

 そして、触れた瞬間、世界が裏返った。

 黒い奔流が、俺の内側を満たしていく。
 理性が揺らぎ、感情が渦巻き、かつてないほど“自分自身”を感じていた。

 これは怒りじゃない。
 怒りそのものになっていく。

《原初スキル:憤怒ラース

《効果:精神統制解除・魔力増幅・自己再生・形態変化・怒炎顕現》

《制限:感情値の昂りにより発動/程度により使用中は自己制御不能》

 情報が脳に焼き付けられる。だがその意味を解析する余裕はない。
 ただ分かるのは、俺が変わり始めているということ――。

「グッ……はぁっ……!」

 腹の底から絞り出すような呻きが漏れる。
 皮膚が焼け、血が沸き立つ。
 筋肉が膨張し、骨が軋みを上げる。
 理性の壁が崩れ、代わりに心の奥底から湧き出る“本音”が姿を現す。

「全員ぶっ壊してやる……。」

 あの傲慢なガルヴァンも、見下しながら笑ってたゼドも、冷たく目を逸らしたユレイラも。
 俺の存在を記録係としか思ってなかったロカも。

 この怒りを、見せつけてやる。

 視界の端が赤黒く染まった。
 俺の足元にあった石床が、知らぬ間に砕けている。
 踏みしめただけで、そこが陥没するほど力が増していた。

 そのとき、周囲の魔素がざわめいた。

 ……何かが来る。

 俺は剣を構えた。
 自分の意思じゃない。身体が勝手にそうしていた。

 影が現れた。
 異形の魔獣。
 牙と爪と甲殻に覆われた、常識では測れないサイズの化け物だ。
 こいつが、ダンジョンの奥に潜んでいた真の脅威か――?

「来いよ……。」

 低く、吐き捨てるように呟いた。
 理性がどんどん遠ざかっていくのが分かる。
 けれど、それが怖くなかった。

 寧ろ、気持ちよかった。
 これまでに無いほどに。

「全部壊してやる……俺を捨てた、この世界ごと……!」

 魔獣が突進してくる。
 地響きを立てながら迫る巨体。
 だが俺は一歩も退かなかった。

 剣を振り上げ、黒い魔力を纏わせた。
 ――その瞬間、轟音が響いた。魔獣の肩が裂け、甲殻が吹き飛ぶ。

 強い……これが、憤怒の力か……。
 身体が熱い。叫びたいくらいに、今の自分が“生きている”と感じる。

 このまま、全部ぶつけてやる。
 怒りも、憎しみも、裏切られた痛みも。

 そのために、この力は俺に与えられたのだ――!

 思考が、燃えていた。

 目の前の魔獣の唸り声も、踏み鳴らす音も、もう耳には入らない。
 ただ、この拳、この剣、この力で叩き潰すべき“対象”としてしか認識できなかった。

 速い……でも、見える……全部、見える。

 魔獣が跳躍し、爪を振り下ろす。
 だが俺はそれを見切り、体をひねって回避。すぐさま右腕に力を集中させる。

 黒い魔力が奔る。
 剣ではなく、拳を使った。
 振り上げた拳が空気を裂き、直撃した魔獣の頭部が爆ぜた。

 甲殻の破片が飛び散り、血と臓物があたりに撒き散る。
 俺の頬を、体を、それらが汚していくが――どうでもよかった。

 楽しい……。

 口元が笑っていた。
 笑い声すら漏れそうだった。
 こんなにも力に満ちている。
 誰にも邪魔されず、何もかもを壊せる。

 これが……“自由”か……。

 怒りが、呪いではなく翼に思えた。
 痛みも、裏切りも、喪失も、すべてを燃料に変えて飛翔する。
 《憤怒》は、そういう力だった。

 ――だが。

『警告。感情値、閾値を超過。』

 突如として、脳裏に冷たい警告音が鳴る。

『制御不能領域に到達。精神同調を分離開始――。』

 何かが、切れる音がした。
 意識が、ぼやけた。
 自分が自分ではなくなる。
 世界がぐにゃりと歪んでいく。

「……あれ? 俺は、何をして……た?」

 血塗れの腕が見えた。
 知らない場所に立っている。
 崩れた柱、砕けた石畳、燃え上がる魔力の残滓。
 気づけば、魔獣は跡形もなく消し飛んでいた。

「やったのか……俺が?」

 喉が乾いていた。背筋が寒くなる。

 自分が“何をしたのか”を、正確に思い出せない。

 あのとき、どんな動きだった?
 どういう力で倒した?

 いや、それよりも――。

「……もし、あの場に、仲間がいたら……?」

 想像しただけで、背筋が凍った。
 この力を、あのまま振るっていたら。
 怒りのままに暴れ続けていたら――
 俺は、誰かを殺していたかもしれない。

 目を閉じた。
 深呼吸。
 酸素が足りない。

 だが、ようやく冷静さが戻り始めていた。

「……なるほどな。」

 これは“ただの力”じゃない。
 《憤怒》とは、怒りの感情に応じて力を与える代償に、“その怒りに支配される”スキルだ。

 強さと引き換えに、俺は“自分自身”を手放しかけた。

「危ねぇな……けど。」

 それでも、手に入れた意味は大きい。
 これほどの力があれば、ガルヴァンたちに届く。いや、超えられる。

 だが同時に、この力の扱いを誤れば――

 ……俺は俺じゃなくなる。

 それが、今の最もリアルな恐怖だった。

 祭壇の側に戻ると、黒剣はすでに赤い光を失い、ただ静かに突き立っていた。

 “力”は得た。
 代償も、理解した。

 なら次にすべきは――

「……上へ戻る方法を探すか。」

 地下の深層は静かだった。
 だがその静寂の奥底に、ルクスの決意がしっかりと根を下ろしていた。

 ここから這い上がってやる……一歩ずつでも。あいつらの背中を追いかけるんじゃない、俺が……。

 ――踏み躙る。

 怒りと共に、ルクスは動き出した。
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