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第八節:灯火の祭壇
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火山帯にほど近いヘスティの故郷は、かつて『朱の谷』と呼ばれていた。赤茶けた岩肌と、硫黄を含んだ風が山から流れている。
だが、山間の村はその中でも美しい景観と魔術の伝統を守っていた。
森であって炎と共に生きる民。ヘスティもその一人だった。
村に着いたユリウスは、まず空を見上げた。空は薄曇りで、谷に反響する風の音が不気味に耳に残る。
彼の記憶では、村は祭りのように賑やかで、火花のように笑いが絶えなかった。けれど今、その気配はまるで残っていなかった。
「……ヘスティ……ここに帰ってきてたんだよな?」
道の脇には、古びた魔術の碑文が残されていた。風に磨かれて文字は読み取りづらくなっていたが、かすかに彼女の名と
――『灯火は、ただ温かくあれ』という言葉が刻まれていた。
碑の隣に、赤い布が結ばれていた。それはかつて、ヘスティが髪を束ねていたリボンと同じ色。
ユリウスはその場に膝をつくと、空を仰ぎながら目を閉じた。すると、記憶の中から声がよみがえる。
『私たち、いつかは消えるけど……でも、あなただけは残って。ねえ、ユリウス。あなたの物語は、ここからなんだよ』
あの時、何気ない会話だったように思えた。けれど今にして思えば、それはまるで別れの挨拶のようでもあった。
「ヘスティ……本当は、あの時から分かってたんだろ?」
彼はつぶやく。
「でも、それでも僕には……笑って送り出してくれた」
ふと、背後で小さな火花がはじけた。振り向くと、祭壇の近くに置かれていた魔導具が、微かに赤い光を放っていた。
それは、ヘスティが最後まで手放さなかった小さな杖だった。
ユリウスはゆっくりとその杖を手に取ると、胸に抱いた。
「……大丈夫だよ。君の魔法は、まだここにある」
風が一瞬止まり、静寂が訪れた。谷全体が、彼の言葉を聞いているかのようだった。
ユリウスは立ち上がり、谷を後にする。ヘスティの気配は、空に溶け、静かに遠ざかっていった。
――そして、彼の旅は最後の地へ向かう。癒し手・セレネの故郷。
もう誰もいない、小さな村での再会を求めて。
だが、山間の村はその中でも美しい景観と魔術の伝統を守っていた。
森であって炎と共に生きる民。ヘスティもその一人だった。
村に着いたユリウスは、まず空を見上げた。空は薄曇りで、谷に反響する風の音が不気味に耳に残る。
彼の記憶では、村は祭りのように賑やかで、火花のように笑いが絶えなかった。けれど今、その気配はまるで残っていなかった。
「……ヘスティ……ここに帰ってきてたんだよな?」
道の脇には、古びた魔術の碑文が残されていた。風に磨かれて文字は読み取りづらくなっていたが、かすかに彼女の名と
――『灯火は、ただ温かくあれ』という言葉が刻まれていた。
碑の隣に、赤い布が結ばれていた。それはかつて、ヘスティが髪を束ねていたリボンと同じ色。
ユリウスはその場に膝をつくと、空を仰ぎながら目を閉じた。すると、記憶の中から声がよみがえる。
『私たち、いつかは消えるけど……でも、あなただけは残って。ねえ、ユリウス。あなたの物語は、ここからなんだよ』
あの時、何気ない会話だったように思えた。けれど今にして思えば、それはまるで別れの挨拶のようでもあった。
「ヘスティ……本当は、あの時から分かってたんだろ?」
彼はつぶやく。
「でも、それでも僕には……笑って送り出してくれた」
ふと、背後で小さな火花がはじけた。振り向くと、祭壇の近くに置かれていた魔導具が、微かに赤い光を放っていた。
それは、ヘスティが最後まで手放さなかった小さな杖だった。
ユリウスはゆっくりとその杖を手に取ると、胸に抱いた。
「……大丈夫だよ。君の魔法は、まだここにある」
風が一瞬止まり、静寂が訪れた。谷全体が、彼の言葉を聞いているかのようだった。
ユリウスは立ち上がり、谷を後にする。ヘスティの気配は、空に溶け、静かに遠ざかっていった。
――そして、彼の旅は最後の地へ向かう。癒し手・セレネの故郷。
もう誰もいない、小さな村での再会を求めて。
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