9 / 12
第九節:白き静寂の村
しおりを挟む
高原の風が、乾いた音を立てて草を揺らす。
その村は、白い石灰岩で作られた家々が斜面に点在し、どこか時の流れから取り残されたように静まり返っていた。
癒し手――セレネの故郷。ユリウスが最後に訪れる仲間の地だった。
彼は重たい足取りで坂を登り、村の中央にある小さな祈りの泉へと向かった。水は澄みきっていて、底の白砂まで透けて見える。
昔、セレネが笑いながら話していた。
『ここの水はね、痛みを癒すんだよ。ちっちゃい頃、転んでばっかりだった私を、村の人がいつもここに連れて来てくれたの』
ユリウスは泉の縁に腰を下ろし、そっと両手を水に浸した。ひんやりとした感触が指先に伝わる。けれど、それは何の痛みも癒してはくれなかった。
泉のそばには、小さな花束が置かれていた。白い百合と、ラベンダー。
そして、束ねていた紐には、セレネがよく身につけていた銀のブレスレットが絡まっていた。
「……セレネ」
風の音にかき消されそうな声で、彼は名を呼ぶ。
そのとき、背後から懐かしい声が響いた。
『もう……泣いてるの? 情けないなぁ』
振り返ると、誰もいなかった。だが、声は確かにそこにあった。
優しく、穏やかで、どこか母のような――癒しの声。
『私がいなくても、あなたはちゃんと歩いていける。
だって……私が癒したいのは、誰よりも、あなたの未来なんだから』
ユリウスはゆっくりと立ち上がる。目を閉じると、彼の中にセレネの笑顔が浮かぶ。
「ありがとう、セレネ。君の想いは、もう――」
風がふわりと吹き抜ける。まるで白い羽根が舞ったような、優しい風だった。
村を離れる道すがら、ユリウスはふと振り返る。そこには誰もいなかった。だが確かに、心の奥に残された気配が、温かく彼を見送っていた。
――そして、全ての旅が終わった。
仲間たちの地を巡り、彼は一人、かつて自分たちが出発した『始まりの場所』へと帰っていく。
そこに残されたものは、静寂と、記憶だけだった。
その村は、白い石灰岩で作られた家々が斜面に点在し、どこか時の流れから取り残されたように静まり返っていた。
癒し手――セレネの故郷。ユリウスが最後に訪れる仲間の地だった。
彼は重たい足取りで坂を登り、村の中央にある小さな祈りの泉へと向かった。水は澄みきっていて、底の白砂まで透けて見える。
昔、セレネが笑いながら話していた。
『ここの水はね、痛みを癒すんだよ。ちっちゃい頃、転んでばっかりだった私を、村の人がいつもここに連れて来てくれたの』
ユリウスは泉の縁に腰を下ろし、そっと両手を水に浸した。ひんやりとした感触が指先に伝わる。けれど、それは何の痛みも癒してはくれなかった。
泉のそばには、小さな花束が置かれていた。白い百合と、ラベンダー。
そして、束ねていた紐には、セレネがよく身につけていた銀のブレスレットが絡まっていた。
「……セレネ」
風の音にかき消されそうな声で、彼は名を呼ぶ。
そのとき、背後から懐かしい声が響いた。
『もう……泣いてるの? 情けないなぁ』
振り返ると、誰もいなかった。だが、声は確かにそこにあった。
優しく、穏やかで、どこか母のような――癒しの声。
『私がいなくても、あなたはちゃんと歩いていける。
だって……私が癒したいのは、誰よりも、あなたの未来なんだから』
ユリウスはゆっくりと立ち上がる。目を閉じると、彼の中にセレネの笑顔が浮かぶ。
「ありがとう、セレネ。君の想いは、もう――」
風がふわりと吹き抜ける。まるで白い羽根が舞ったような、優しい風だった。
村を離れる道すがら、ユリウスはふと振り返る。そこには誰もいなかった。だが確かに、心の奥に残された気配が、温かく彼を見送っていた。
――そして、全ての旅が終わった。
仲間たちの地を巡り、彼は一人、かつて自分たちが出発した『始まりの場所』へと帰っていく。
そこに残されたものは、静寂と、記憶だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる