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第六節:夢の残響
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長い旅の日記を書き綴る毎日。
季節が一つ終わろうとしている。
夜は深く、月も雲に隠れていた。ユリウスは眠れず、書庫の椅子に座ったまま静かに目を閉じていた。焚き火のようなランプの光だけが、机上の書をぼんやりと照らしている。
どこか遠くで風が鳴った。それはまるで、名を呼ぶような響きだった。
――夢の中で、ユリウスはひとりの女性に出会う。白いローブを纏い、目元を覆ったその女性は、どこか見覚えのある佇まいで、彼に語りかけてきた。
「この世界には、もう誰もいません。けれど、記憶はまだ残っています」
その声は冷たくも、温かくもない。ただ、正確に『記録』することだけを目的とした響きだった。
「あなたは、『最期の生存者』です。あなたの記憶が、この世界のかけらを繋ぎとめています」
ユリウスは戸惑いながらも、口を開く。
「……君は、誰なんだ?」
「私は『記録者』――この世界の終わりを観測する者。あなたの旅路を、記憶を、存在の意味を、収める役割」
「旅は……もう終わった。仲間たちは……」
彼の言葉に、女性は静かに首を振った。
「あなたは、まだ理解していません。誰がどこで、どう別れたのか。それを受け入れていない」
世界の景色が歪む。目の前に広がったのは、かつての戦場だった。魔王の城の最奥、赤黒く染まった瓦礫と崩れた玉座。血のにじんだ床の上に、仲間たちの影が揺れている。
「これは……」
「記憶です。あなたが無意識に見ないようにしてきた、真実の断片」
そこには、剣を手にして倒れ伏すレオ。身体の一部を欠いたまま、それでも前に立ちふさがったヘスティ。誰かを庇い、笑みを残して崩れ落ちたセレネの姿。
「なぜ……嘘だ、みんな故郷に帰った、誰もそんな事……!」
ユリウスが叫ぶ。だが、その声は戦場の風に溶け、空へと散っていった。
「彼らは、あなたに生きてほしかった」
記録者の声が届く。
「真実に縛られて立ち止まるより、希望のままに歩んでほしかった」
「……それが、本当に正しかったのか……!?」
記録者は言葉を継がなかった。ただ、掌に一冊の白い書を浮かべ、それをユリウスに差し出した。
「あなたの記憶が、全てを閉じる鍵となる。けれど、それを『綴る』のは、あなた自身です」
ユリウスがそれを受け取った瞬間、夢は崩れるように終わった。
朝日が差し込んでいた。書庫の窓から、柔らかな光が部屋を照らしている。
夢だったのか。現実だったのか。ただ、掌の感触だけが――書物の重みだけが――確かに残っていた。
ユリウスは、立ち上がる。
「……僕たちはまだ、終わっていない」
小さく呟いて、彼は歩き出した。
世界が終わるその前に。
仲間たちの『真実』を、自分の手で記すために。
季節が一つ終わろうとしている。
夜は深く、月も雲に隠れていた。ユリウスは眠れず、書庫の椅子に座ったまま静かに目を閉じていた。焚き火のようなランプの光だけが、机上の書をぼんやりと照らしている。
どこか遠くで風が鳴った。それはまるで、名を呼ぶような響きだった。
――夢の中で、ユリウスはひとりの女性に出会う。白いローブを纏い、目元を覆ったその女性は、どこか見覚えのある佇まいで、彼に語りかけてきた。
「この世界には、もう誰もいません。けれど、記憶はまだ残っています」
その声は冷たくも、温かくもない。ただ、正確に『記録』することだけを目的とした響きだった。
「あなたは、『最期の生存者』です。あなたの記憶が、この世界のかけらを繋ぎとめています」
ユリウスは戸惑いながらも、口を開く。
「……君は、誰なんだ?」
「私は『記録者』――この世界の終わりを観測する者。あなたの旅路を、記憶を、存在の意味を、収める役割」
「旅は……もう終わった。仲間たちは……」
彼の言葉に、女性は静かに首を振った。
「あなたは、まだ理解していません。誰がどこで、どう別れたのか。それを受け入れていない」
世界の景色が歪む。目の前に広がったのは、かつての戦場だった。魔王の城の最奥、赤黒く染まった瓦礫と崩れた玉座。血のにじんだ床の上に、仲間たちの影が揺れている。
「これは……」
「記憶です。あなたが無意識に見ないようにしてきた、真実の断片」
そこには、剣を手にして倒れ伏すレオ。身体の一部を欠いたまま、それでも前に立ちふさがったヘスティ。誰かを庇い、笑みを残して崩れ落ちたセレネの姿。
「なぜ……嘘だ、みんな故郷に帰った、誰もそんな事……!」
ユリウスが叫ぶ。だが、その声は戦場の風に溶け、空へと散っていった。
「彼らは、あなたに生きてほしかった」
記録者の声が届く。
「真実に縛られて立ち止まるより、希望のままに歩んでほしかった」
「……それが、本当に正しかったのか……!?」
記録者は言葉を継がなかった。ただ、掌に一冊の白い書を浮かべ、それをユリウスに差し出した。
「あなたの記憶が、全てを閉じる鍵となる。けれど、それを『綴る』のは、あなた自身です」
ユリウスがそれを受け取った瞬間、夢は崩れるように終わった。
朝日が差し込んでいた。書庫の窓から、柔らかな光が部屋を照らしている。
夢だったのか。現実だったのか。ただ、掌の感触だけが――書物の重みだけが――確かに残っていた。
ユリウスは、立ち上がる。
「……僕たちはまだ、終わっていない」
小さく呟いて、彼は歩き出した。
世界が終わるその前に。
仲間たちの『真実』を、自分の手で記すために。
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