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01 護国の騎士らしからぬ女
しおりを挟む護国の騎士。そう呼び称されるのは、王国騎士にとって最大の誉れである。
とある騎士もまた、その称号を手にした者だった。幾度の困難な戦場で自軍を守り抜き、千の竜騎兵相手ですら倒すことはできないと謳われた。まさしく最強の騎士、であった。
しかし、その騎士は女だった。
男と比較にもならないほど華奢な体躯で、国の一般的な女性よりも低い背で、あどけない少女のような顔立ちをしていた。とても強そうには見えないその姿から、ついた通り名は偽花の騎士イメリ。少々悪意のある名だった。
そんな彼女を、護国の騎士として、奇跡的に誕生した傑物として、民は称えた。
誰よりも強い女騎士様はきっと、高潔で思慮深く、女神や聖母のような美しさを備えているのだろう、と。
なお現実は、……そんなことはなかった。
「ほーんと、ムカつく!」
ガリガリと音を立てながら、紙面を抉るようにペン先が突き立てられる。まるで彼女の苛立ちを表しているかのように。
「確かにお互い不本意なお見合いだったけど、あんな態度はないと思うんだ。“近くで見るとより女性とは思えない身体つきだね”なんて……」
がつん。大きな音を立てて彼女がペンを突き立てると、みしりと嫌な音がする。手を離したペンは紙を貫通し机に突き刺さったまま直立していた。
「武功を挙げ続けた女騎士にたわわな胸部が備わってると思っているのか! 私の戦歴を千回読んでから出直してこい!」
虚空を指差しながら声を張り上げた可憐な少女……のような女性は小さく息をつくと、机に刺さったペンを軽く抜き去る。そして再び新しい書類にインクを滲ませた。
「と言って平手打ちを喰らわせて帰ってきたよ」
「イメリ殿の平手打ちとは、相手の方の首はご無事でしたか」
「心配すべきは無礼な馬の骨じゃなくて、傷心中の敬愛する先輩だろう!? きりもみ回転しながら花壇に頭から突っ込んだけど、ちゃんと加減したから生きてはいると思うよ」
そうですか、と彼女の愚痴を聞いていた男性は興味なさげに頷いた。素っ気ないその反応は予想通りだったが、慰めてもらえなかった彼女、イメリはむっと頬を膨らませる。
目の前にいる美男子の名は騎士クラクス。イメリにとって後輩にあたる騎士であり、王国でも貴重な竜の血族であり、数年前より戦場でもこういう書類仕事でも一緒になることが多い人物だった。
彼もイメリに劣らぬ名声の持ち主で、先の大戦での功績から灰燼のクラクスなんて仰々しい通り名まで浸透し始めている。その赤髪に似合った名前ではあるが、普段は大人しく礼儀正しい彼には少し厳つい気もする。
「冷たいなぁ、クラクス。もしかしてわたしのこと嫌い?」
「もちろん、敬愛しておりますよ。何せ貴女はこの国最強の騎士、憧れない騎士は…………まぁ、少なくはないはずです」
「なんだよその妙な間は」
護国の騎士とも呼ばれるイメリは、彼女を知らない人々からは絶世の美貌と超人的な戦闘能力を備え、性格も騎士さながらの高潔さを持った傑物、というように想像される。
しかし実際は、勧められた縁談で相手を平手打ちし、それを無関係の後輩に愚痴るくらい、粗野で俗に染まった人物だった。ちなみに体格は少年のように華奢で、その胸は実に平坦であった。
「それに、以前も私は言いました。イメリ殿に貴族の方は合わないと」
「確かに私は剣奴の出身で、貴族様方とは相性悪いとは思うけど……今回は我らが姫君のご厚意だったから断れなかったの」
「姫は貴女に恥をかかせたくて仕方がないのです。あまり真に受けない方がよろしいですよ」
優しく諭すようにクラクスは言う。姫の予想通り縁談で散々な顛末を迎えたイメリを、一応心配してはくれているのだろう。
「真剣にわたしの心配をしてくれるのは君だけだよ。ところで、貴族連中がダメっていうなら君もダメってことになるんだけど、遠回しにわたしはフラれてるのかな?」
「私は……養子ですから」
簡潔なクラクスの返事に、イメリはニヤリと笑う。風穴の空いた執務机から立ち上がると、作業をしている彼と向かい合うように座った。
「それってどういう返事? 養子だから貴族じゃないってこと? それとも養子でも貴族ってこと? はっきり言ってくれよ~」
「仕事してください。終わらないでしょう」
話を逸らすかのように、クラクスは再び真剣な表情で書類と向かい合ってしまう。基本的にこの男は不真面目なイメリとは対照的に、超がつくほどの真面目だった。
あしらわれたイメリはつまらないという様子で頬杖をつく。そして何を思ったか、片手で右足のブーツの紐を解き始める。
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