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07-01 料理と薬
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何度目かのトコエの戦闘を眺め、彼は両手を合わせてその無事を祈る。まだ彼女のエネルギー問題に決定的な解決法を打ててない以上、戦闘の長期化は絶対に避けたい。
しかし非戦闘員である彼は見ているしかできないのだ。
幸いにもその日も彼女は鮮やかな身のこなしで一瞬のうちに戦闘を終わらせる。彼女以上のエヴァンジルは他にも多くいたらしいが、そう思うとエヴァンジルがもっと長く生きられれば、間違いなくこの戦争に多大なる影響を与えたことだろう。
戦闘を終えた彼女は何事もなく皿の上を飛び渡って降りてくる。両手を広げて迎え入れるポーズを取れば、彼女は綺麗な顔をしかめた。
「飛び込んできてくれたっていいじゃないか。今回も生き延びたんだから」
ほら、と促してもトコエは嫌そうな顔をするばかり。仕方なく自分から彼女を抱き寄せる。
するっとスカートの裾を上げてデレイの消耗具合を確認する。相変わらず余裕がないといえば余裕がない状態だ。
「シャワーを浴びたらまた良くしてあげる。一番早いのは僕とえっちすることなんだけど」
「今日は今まで食べたことないのが食べたい」
「えっ」
無理難題をぽろっと吐き出して、彼女はさっさと自室へと帰っていく。
「トコエのわがままにも困ったものだ」
そう言いながらもルザは心底嬉しそうに笑った。
◆
コシュマールの食料事情は二通りある。携帯食料、レーションの類のように、ほとんど調理が必要ないもの、ないしは加熱程度ができれば食せるもの食べること。もう一つは真っ当に食材から料理を作ることだ。
お察しの通り、後者を選択する者はかなり希少だ。そもそも防衛戦線だというのに、兵士の指揮を維持するのに最も重要であるはずの食事提供システムが存在しないというのはいかがなものか。暇を持て余した兵士が自炊でもすると思っているのか。
トコエもルザが来るまではレーションを食い漁って生きていたようだ。当然味はそこまで酷いというわけではないのだが、美味しくもない。それに何年も食べていれば飽きる。
食材から作るのは面倒ではあるが、他の兵士が真似することがない故に、多量の食材を好きにできるという大きな利点がある。
「僕も別に料理は得意というわけではないんだけど……」
元々器用なルザはなんだかんだ家事全般をこなせてしまっていた。簡単に作り味付けしたものでも、レーションを食べ飽きたトコエにとっては美味しいらしく、食いつきはかなり良い。
「にしても食べたことないものか、食べたことないもの……」
巨大な冷蔵庫、冷凍庫等の食材置き場を前に彼は悩む。食材の管理は一応ラゾがしているらしく、悪くなっている食材とかはない。
「炒めて味を付ける、くらいだったからな。もっと複雑な工程が必要なのか?通信端末が欲しいなぁ」
着任早々、いろんな情報にアクセスできる端末は、とラゾに聞いたのだが、電波通信の類は侵略者の介入を受けるだとかなんとかで使用できないらしい。例外なのが配置されたラゾなのだが、施設内であれが管理しているものは地中やら壁の中で全て有線で繋がっているらしい。
「あ、君!」
突然背後から声をかけられ、ルザは振り返る。トコエと一緒にいることもあって他の兵士たちはルザに近寄ってこないのだが。
そこに立っていたのはいつぞやの女性。派手なメイクは着任初日に会った時と変わらない。
「最近めっきり見ないからもうベルに殺されちゃったものかと」
「ちゃんと上手くやってるとも。彼女の世話で忙しくてね」
「へぇー……」
心底驚いたように彼女はぽかんとした顔をしている。
「なに、もうベルとはやっちゃったの?」
「ははは、まさか~」
半ば自嘲気味に彼は笑う。
未だに本番は拒否され続け、今となっては挿れたいという意思表示は手や口でいっぱい良くして欲しい、みたいなそんな意味になっていた。
でも本当にしてくれるからびっくりだ。
「ふーん。じゃあまだドーテーなんだ」
「そうなるねぇ」
「約束、いつになったら果たしてくれるの?そろそろちゃんと突っ込んでみたいでしょ」
ルザの手を取って彼女は自身の下腹部をさするように誘ってくる。しかし今は不味い。腹を空かせたトコエが部屋で待っているのだ。
「ごめんね、今はちょっと忙しいんだ」
「なによ」
「機嫌悪くしないで。料理が完成したらお裾分けするから」
「え、料理すんの……!?」
またもや彼女は驚く。
「といっても、彼女からは“今まで食べたことないものが食べたい”って言われてしまってね。何を作ったものかと考えあぐねていたところだよ」
「なるほどねぇ……。そんなら、地下書庫にレシピくらいあるんじゃないの?」
「そうか、書庫があったなぁ……」
すっかり忘れていた。といっても、ラゾはほとんど誰も使ってないから埃被ってるなどと言っていた気がする。
「ありがとう、探してみるよ」
「ん」
軽く手を挙げて彼女は答える。そしてじっとルザを見つめると、ポケットから何か小さな薬包のようなものを取り出して彼に向かって軽く投げた。
なんとかそれをキャッチしたルザは首をかしげる。
「なに、これ?」
「君、どうせベルとするまでは他の誰とも寝る気無いでしょ」
「……良く分かったね」
「だからさっさと済ませていっぱいサービスしてもらおうってね」
呆れたように彼女は笑う。済ませて、ということはつまりこの薬っぽいものはもしかして。
「媚薬だよ」
「まぁ、あるとは思ってたけど……」
性行為自体は推奨されているようなものなのだから、媚薬だとか精力剤だとか、そういうものはここでは必需品に入るはずだ。
「効くの?」
「とにかく試してみなよ。昔他のエヴァンジルも使ってたみたいだし、大丈夫だと思うけど」
じっとルザはそれを見つめる。薬で堕とすというのは自分としては有りなのだろうか。
「(けれど、次の戦闘でまた限界に陥ることも有り得る。ラブラブセックスは回数を重ねてから……)」
ニヤニヤとひと目も気にせず怪しげに笑うルザに、彼女はくすくすと笑う。
「本当にベルのことが好きなんだね、君」
「そうだね。大好きだよ」
「なのにあたしと寝ても良いとか言っちゃうんだ」
「そうだねぇ」
トコエならば嫌がるのだろう。身体は好きになった人だけに捧げるものなのだと。
けれどルザにとっては違う。
「身体は、僕が持てる唯一の武器だよ。貞操を守るとかなんとか言っていたら、今僕はここには居ない。生きるためなら誰にだって差し出すとも。だから別にいいんだ」
彼の回答に彼女の顔から笑みが消える。不味いことを聞いてしまったと、そう思っているのだろう。
「相当苦労してきたんだね」
「別に気を遣わなくてもいいよ。奉仕するのと愛でられるのは得意だから」
全く他意のないルザの言葉に彼女は苦笑いを浮かべる。
「ま、とにかく暇になったら遊んでよ。あたしも結構、君のこと好きだから」
「そう……。いろいろ世話になっているし、名前を聞かないのは失礼だよね。教えてくれる?」
思えば名前を知らないことにようやく気付いた。といっても名前を聞かなかったのは、そこまでトコエ以外の人間に関心を持てなかったからだ。
「カーリャ。君は?」
「ルザ。よろしくね」
挨拶のような気軽さでカーリャに口付けをする。照れるように頬を染めるカーリャを可愛らしいなと、なんとなくそう思った。
しかし非戦闘員である彼は見ているしかできないのだ。
幸いにもその日も彼女は鮮やかな身のこなしで一瞬のうちに戦闘を終わらせる。彼女以上のエヴァンジルは他にも多くいたらしいが、そう思うとエヴァンジルがもっと長く生きられれば、間違いなくこの戦争に多大なる影響を与えたことだろう。
戦闘を終えた彼女は何事もなく皿の上を飛び渡って降りてくる。両手を広げて迎え入れるポーズを取れば、彼女は綺麗な顔をしかめた。
「飛び込んできてくれたっていいじゃないか。今回も生き延びたんだから」
ほら、と促してもトコエは嫌そうな顔をするばかり。仕方なく自分から彼女を抱き寄せる。
するっとスカートの裾を上げてデレイの消耗具合を確認する。相変わらず余裕がないといえば余裕がない状態だ。
「シャワーを浴びたらまた良くしてあげる。一番早いのは僕とえっちすることなんだけど」
「今日は今まで食べたことないのが食べたい」
「えっ」
無理難題をぽろっと吐き出して、彼女はさっさと自室へと帰っていく。
「トコエのわがままにも困ったものだ」
そう言いながらもルザは心底嬉しそうに笑った。
◆
コシュマールの食料事情は二通りある。携帯食料、レーションの類のように、ほとんど調理が必要ないもの、ないしは加熱程度ができれば食せるもの食べること。もう一つは真っ当に食材から料理を作ることだ。
お察しの通り、後者を選択する者はかなり希少だ。そもそも防衛戦線だというのに、兵士の指揮を維持するのに最も重要であるはずの食事提供システムが存在しないというのはいかがなものか。暇を持て余した兵士が自炊でもすると思っているのか。
トコエもルザが来るまではレーションを食い漁って生きていたようだ。当然味はそこまで酷いというわけではないのだが、美味しくもない。それに何年も食べていれば飽きる。
食材から作るのは面倒ではあるが、他の兵士が真似することがない故に、多量の食材を好きにできるという大きな利点がある。
「僕も別に料理は得意というわけではないんだけど……」
元々器用なルザはなんだかんだ家事全般をこなせてしまっていた。簡単に作り味付けしたものでも、レーションを食べ飽きたトコエにとっては美味しいらしく、食いつきはかなり良い。
「にしても食べたことないものか、食べたことないもの……」
巨大な冷蔵庫、冷凍庫等の食材置き場を前に彼は悩む。食材の管理は一応ラゾがしているらしく、悪くなっている食材とかはない。
「炒めて味を付ける、くらいだったからな。もっと複雑な工程が必要なのか?通信端末が欲しいなぁ」
着任早々、いろんな情報にアクセスできる端末は、とラゾに聞いたのだが、電波通信の類は侵略者の介入を受けるだとかなんとかで使用できないらしい。例外なのが配置されたラゾなのだが、施設内であれが管理しているものは地中やら壁の中で全て有線で繋がっているらしい。
「あ、君!」
突然背後から声をかけられ、ルザは振り返る。トコエと一緒にいることもあって他の兵士たちはルザに近寄ってこないのだが。
そこに立っていたのはいつぞやの女性。派手なメイクは着任初日に会った時と変わらない。
「最近めっきり見ないからもうベルに殺されちゃったものかと」
「ちゃんと上手くやってるとも。彼女の世話で忙しくてね」
「へぇー……」
心底驚いたように彼女はぽかんとした顔をしている。
「なに、もうベルとはやっちゃったの?」
「ははは、まさか~」
半ば自嘲気味に彼は笑う。
未だに本番は拒否され続け、今となっては挿れたいという意思表示は手や口でいっぱい良くして欲しい、みたいなそんな意味になっていた。
でも本当にしてくれるからびっくりだ。
「ふーん。じゃあまだドーテーなんだ」
「そうなるねぇ」
「約束、いつになったら果たしてくれるの?そろそろちゃんと突っ込んでみたいでしょ」
ルザの手を取って彼女は自身の下腹部をさするように誘ってくる。しかし今は不味い。腹を空かせたトコエが部屋で待っているのだ。
「ごめんね、今はちょっと忙しいんだ」
「なによ」
「機嫌悪くしないで。料理が完成したらお裾分けするから」
「え、料理すんの……!?」
またもや彼女は驚く。
「といっても、彼女からは“今まで食べたことないものが食べたい”って言われてしまってね。何を作ったものかと考えあぐねていたところだよ」
「なるほどねぇ……。そんなら、地下書庫にレシピくらいあるんじゃないの?」
「そうか、書庫があったなぁ……」
すっかり忘れていた。といっても、ラゾはほとんど誰も使ってないから埃被ってるなどと言っていた気がする。
「ありがとう、探してみるよ」
「ん」
軽く手を挙げて彼女は答える。そしてじっとルザを見つめると、ポケットから何か小さな薬包のようなものを取り出して彼に向かって軽く投げた。
なんとかそれをキャッチしたルザは首をかしげる。
「なに、これ?」
「君、どうせベルとするまでは他の誰とも寝る気無いでしょ」
「……良く分かったね」
「だからさっさと済ませていっぱいサービスしてもらおうってね」
呆れたように彼女は笑う。済ませて、ということはつまりこの薬っぽいものはもしかして。
「媚薬だよ」
「まぁ、あるとは思ってたけど……」
性行為自体は推奨されているようなものなのだから、媚薬だとか精力剤だとか、そういうものはここでは必需品に入るはずだ。
「効くの?」
「とにかく試してみなよ。昔他のエヴァンジルも使ってたみたいだし、大丈夫だと思うけど」
じっとルザはそれを見つめる。薬で堕とすというのは自分としては有りなのだろうか。
「(けれど、次の戦闘でまた限界に陥ることも有り得る。ラブラブセックスは回数を重ねてから……)」
ニヤニヤとひと目も気にせず怪しげに笑うルザに、彼女はくすくすと笑う。
「本当にベルのことが好きなんだね、君」
「そうだね。大好きだよ」
「なのにあたしと寝ても良いとか言っちゃうんだ」
「そうだねぇ」
トコエならば嫌がるのだろう。身体は好きになった人だけに捧げるものなのだと。
けれどルザにとっては違う。
「身体は、僕が持てる唯一の武器だよ。貞操を守るとかなんとか言っていたら、今僕はここには居ない。生きるためなら誰にだって差し出すとも。だから別にいいんだ」
彼の回答に彼女の顔から笑みが消える。不味いことを聞いてしまったと、そう思っているのだろう。
「相当苦労してきたんだね」
「別に気を遣わなくてもいいよ。奉仕するのと愛でられるのは得意だから」
全く他意のないルザの言葉に彼女は苦笑いを浮かべる。
「ま、とにかく暇になったら遊んでよ。あたしも結構、君のこと好きだから」
「そう……。いろいろ世話になっているし、名前を聞かないのは失礼だよね。教えてくれる?」
思えば名前を知らないことにようやく気付いた。といっても名前を聞かなかったのは、そこまでトコエ以外の人間に関心を持てなかったからだ。
「カーリャ。君は?」
「ルザ。よろしくね」
挨拶のような気軽さでカーリャに口付けをする。照れるように頬を染めるカーリャを可愛らしいなと、なんとなくそう思った。
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