福音よ来たれ

りりっと

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番外2-10 お仕置き*※

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※完全女性優位、SMっぽい

「おかしくない……?」


 ぐっとルザは椅子に縛り付けられ固定された腕を動かそうとするも、びくともせずに項垂れる。


「なんかいい感じで終わった風だったよね?」
「七割くらい浮気したようなものなんだからお仕置きに決まってるでしょ」


 え……?とルザは純粋に首を傾げた。

 ここは自室だった。いっぱい交わって腰を打ちつけあって何度も絶頂を迎えて、胎の中にもう精が収まり切らなくなっても続けて、終わりの見えない行為を打ち止めにしたのは襲撃だった。

 その後は大変だった。幸いそこまでの強敵ではなかったものの、初動が遅れたこともあって敵は早急に全てトコエの投擲で仕留められた。たださんざんルザに吐き出された精がだらだらと溢れ落ちてきてしまい、少し手こずってしまったのだが。帰りは何かを悟った兵士たちの生温い視線を受けながら足早に自室へと戻ってきたのだ。

 入浴して身体を綺麗にした後、トコエに椅子に座りなさいと言われ、それで縛られて今に至る。


「浮気、してない、よ?」
「二時間もカーリャとエムリ、三人でするなんて。そんなの仕事じゃない」


 その言葉にルザは苦笑いを浮かべる。

 確かにあれは女性や希望する男性をもてなす彼の仕事とは全然違う。お互いの身体を使って気持ちよくなって、いろいろと発散させるためのものだった。そういう意味では、彼女の仕事ではないという表現は正しい。


「(仕事じゃなくて、でも浮気でもなくて、なら何だって話だからな……)」


 ただよろしくやっていただけ、などそれこそ浮気のようなものだろう。


「弁明して、ルザ。それにやってる最中にわたしと感覚共有までして、当て付けのつもり?」


 トコエの口調にルザはまた不思議そうに首を傾げた。彼としてはトコエに欲求不満だというのを知ってもらいたいが為だったのだ。実際に彼女も溜まった身体を引きずって乱入してきて、その後ラブラブセックスで蕩けあい、目的は果たせたと言える。


「……いらいらしてきた」
「お、落ち着いてトコエ。ちゃんと説明するから」


 見たことない顔で苛立ちを伝えてくるトコエに焦り、ルザは経緯を説明する。

 エムリのわがままから始まった三人プレイ。ルザはトコエに対する欲求不満を発散させる意図で了承し、トコエにそれを伝える目的で行為中ずっと彼女のことばかりを考えていたこと。


「(カーリャのことは……まぁ、プライベートなことだし、トコエには黙っておくけど)」


 サンザとカーリャの関係は何かしら変化するだろう。それがカーリャにとって良いものであることを願うばかりだが。


「欲求不満を伝えるため、ねぇ?」
「うっ……ご、ごめんよ、まさかそんなに本気で怒るとは、思ってなくて」


 ルザの想像ではそれはもう可愛らしく怒って嫉妬してくれるものだと思っていた。だがその自分の認識を悔いるばかりである。これでは世の浮気者と全く同じではないか。


「君が別の女の子としてる時、それを一人部屋で感覚だけ伝わってくるわたしの気持ちをちゃんと考えたことある?」


 自分の立場だったらと考えてみて、と言われルザは正直に想像してみる。

 もしもトコエの方にも共振があって、彼女が他の男との行為で感じているのを一方的に共有され続ける。大好きなトコエの中に知らない男の性器があるのも、それで彼女が感じているのも、絶頂を迎えて喘いでいるのだと想像できてしまうのだ。

 それは腹わたが煮え繰り返りそうな仮定だった。


「絶対に相手を殺しに行く自信がある」
「はぁ……」


 呆れたようにトコエはため息をつく。

 つまりは彼女も同じように思っていたのだろう。ルザが他の女と気持ちよくやっているのだと、その感覚だけが伝わって来るのだ。ルザが何を考えているかまでは分かるはずがない。当て付け、そう思ってもおかしくはないだろう。


「……、最初からそう言ってくれれば、すぐにやめたよ」


 トコエはいつも肝心なことはなかなか口にしない。感覚の共有も、彼女が苦しいほど嫉妬しているのだと知っていれば、すぐにでもやめたはずだ。そも、男娼のようなこの仕事は彼女の慈悲によって行われているようなものなのだから。


「そんなに嫉妬してるの、隠したかったの?」
「面倒な女って思われたくない」
「そんな……っ、僕は、トコエが嫉妬してるって分かると、愛されてるんだなぁって思うよ。面倒なんて思わない。もっと嫉妬してほしいし、僕のこと束縛して欲しい……」


 通常運転のルザに彼女はため息をつく。その嫉妬されたい、束縛されたいという感覚のズレがこういう事態を引き起こすのだろう。ルザの方は嫉妬すれば誰彼構わず噛みつこうとするのに。


「君も困った子だね、ルザ」
「……ごめんなさい」
「次からはちゃんと気をつけてね」


 ルザに近寄ると彼を胸に抱きしめ、その頭を撫でてやる。ルザは幸せそうに笑い、その柔らかな感触を楽しむように頬を摺り寄せた。


「今回で君がどんな風に他の子としてるのか、知ってしまったわけだけど」


 トコエの頭に浮かぶのはあの光景。驚いたのとショックを受けたのと同時に、少しだけ愛おしく思ってしまったのだ。

 情事の最中でも自分の姿を見れば焦りや戸惑いよりも喜びを表現してしまうところ。他の女性とは一線を引くように使わなくてもいい避妊具を使って、面倒くさがらずにそれを徹底しているらしいところ。自分の快楽を得るための行為は極限まで相手にしてもらわないところ。


「そんなの、自己満足だよ。……でもまぁ、考えては、くれてるんだなって」
「うぅ、ごめんなさい、トコエ。ちゃんと直すよ……」
「ん、だからいろいろ含めて、お仕置き」


 そう言うとトコエはしゃがみこみ、ルザの服に手をかける。シャツの前を開き、ベルトに手をかけたところあたりでルザはじわりと頬を赤くする。ぐぐっとスラックスの布を押し上げ彼の欲望が大きく膨れ上がり始め、それを目にしたトコエはわずかに目を伏せる。


「何を期待しているのかな、ルザ」
「だ、だって、僕の服脱がせて、何をするのか……」


 想像してしまったと、それにくすりと彼女は微笑む。

 否、これはトコエが彼にいじわるをするときの顔だ。

 ジッパーを下ろし、開いた前から覗く下着を撫でる。既に最大まで膨れた男根が先走りを滲ませていて、それをぐりぐりと指先で押すように擦れば、じわじわとそれは広がっていく。


「こんなに濡らして、……ちんちん付いてるのに女の子みたいだね、ルザ」
「うっ、んんっ……」


 彼女の口から出たはしたない言葉にルザはふるりと震える。ぴくぴくと震える屹立を下着の上から指先でなぞられ、トコエは半笑いでその様を見つめる。


「このくらいで感じちゃってるの? 変態だね」
「ちがうっ、へんたいじゃないよ、あぅっ、んぅ、ぜんぜんかんじてない……っ」
「ふぅん……」


 下着を引っ張りずるっと勃ち上がったそれを露出させる。変わらず先走りが滲む鈴口ばかりを人差し指でくちくちと弄り、じっとルザの反応を見遣った。

 ルザの方は焦ったいその刺激に必死に耐えていた。トコエに触られているというだけで気分も気持ちも良いのだが、変態と罵られるのは頂けない。そう言われないためにも必死になって声を抑え、もどかしくて揺れてしまいそうになる腰を留めていた。

 だが彼の忍耐を表すように垂れ流される汁だけはどうしようもできない。

 たまにするっと、本当に輪郭をなぞるだけのように竿を擦られるが、すぐに鈴口への責めに戻ってしまう。トコエはすぐに飽きるものと思ったが、お仕置きと銘打っている以上そんな生半可なことはしてこないだろう。


「だらだらこんなに溢して、本当に男の子なのかなぁ」
「うぅ」
「べたべただね、ほら、もうこんなにびしょびしょ」


 つうっと指先が先走りに濡れた屹立を滑り、つんつんとつつかれる。物欲しそうな目でじっとトコエに請えば、彼女はようやくその掌を屹立に伸ばした。
 しかし直接それを握るようなことはせず、トコエはそこを愛でるように、扱くような仕草をする。触れているように見えるのに感触は無くて、大好きな彼女の手淫の快楽が得られないことにひどく切なくなる。


「いじわるっ、トコエ……っお願い、触って、トコエの手でここ、よしよしして……」
「……やらしい」


 その言葉にうぐっとルザは押し黙る。それでも彼女の手がすぐ自身のすぐそばにあるのだと思うと我慢できなくて、早くその手に包まれたいと思ってしまう。


「ん、触ってないのに、震えてる。いっちゃいそう?」
「そんなこと、ない」
「そうだよねぇ、まだ先っぽ弄られただけだもんね」


 また再びくりくりと鈴口を弄られる。焦ったさが増して、ルザはきゅっと自身の唇を噛んだ。
 なかなかの生殺しだ。なんて恐ろしいお仕置きだろう。
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