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監 禁

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 暗いマンションの一室に制服姿の少女が倒れている。

 その傍らに龍という男が、カップラーメンに湯を注いで時間を待っている。三分ほど待ってから容器の蓋を外し、ズルズルと面を啜りだした。

 その音に反応するかのように少女はゆっくりと目を開ける。

 彼女の名前はヒロミと言った。都内の女子高校に通う十七才の学生である。
 学校で一限目の授業を受けている最中に実家より連絡があった。
 そして彼女の父が交通事故により危篤との連絡を受け迎えに来た車に乗り、母と二人父が運び込まれた病院に向かった筈であった。

 途中、前から来た車に自分達の乗る車が追突し炎上したまでの記憶はあるのだが、そこから後が思い出せない。

「よう、お嬢さん、お目覚めか?」その声で部屋に見知らぬ男がいることに気づく。

「貴方は、誰?」ヒロミは臼暗闇の中でラーメンを啜る男の姿に恐怖を感じて、ゆっくりと後退りする。

「俺か、俺はお前の夫になる男だ」

「夫!?私は結婚などしません」男の突然の申し出に背筋が凍りつく。

「お前の気持ちなど、どうでもいいのだ。お前を一目見た時から俺が決めたのだから」また男はラーメンを啜りだした。

「だ、誰か!助けて!誰か!!」

「あはははは、誰も助けに来んよ。この部屋の声は外には聞こえない」

「そ、そんな!!」

「黙って俺の物になれ、お前ほど美しい女を俺は見たことが無いのだ。あの日からお前の事を片時も忘れた事など無い」

「い、いや!!」ヒロミは立ち上がると玄関に走りドアノブひ掴み開こうとするが、ドアは開かない。鍵が掛かっているのかと解錠を試みるが、そのドアは内側からも鍵を使わないと開けられない仕組みになっているようであった。

「ああ、ああ、誰か……助けて」ヒロミは玄関の踊場に崩れ落ちた。

「逃げようとしても無駄だ。お前は俺と一緒に俺の里に行くのだ。そうすればもう二度とこの世界に帰ってくる事は出来なくなるだろう。観念するのだな」龍という男はヒロミの制服の上着を掴むと、持ち上げるように奥の部屋に引きずるようにして連れていった。

「や、止めて……、お願いだから、
止めてください。何もしないで……」ヒロミは号泣しながら懇願する。

「泣きじゃくる姿も美しいのお、お前は!」人差し指でヒロミの顎を持ち上げるようにした。そして唇を重ねようとするが、ヒロミは瞳を閉じて横を向いた。

「ふん!まあ、良い、どうせその記憶は消してしまうつもりだからな」龍はヒロミの体を軽く突き飛ばすと椅子に座り足を組んだ。

「記憶を……消す……ですって?」ヒロミは男の言葉の意味が解らなかった。

「そうだ俺の術式を使えば、人の記憶など簡単に歪める事ができるのだ。例えばお前が俺を愛しているように思い込ませる事も……」

「どうして、そんな酷い事をするのですか!?」

「それは俺がお前を愛してしまったからだよ」

 男のその言葉を聞いて、ヒロミの心は絶望感に犯されていった。
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