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超爆激神モード

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 レオの連続ジャンプが終わり地面の上に着地する。 

 ゆっくりと目を開けると、そこは祐樹の家の前であった。レオはゆっくり祐樹の体を地面に下ろした。

「きゃー!」唐突に家の中から悲鳴が聞こえる。この声は、祐樹の母の声だった!母の声は今まで耳にしたことの無いような強烈な悲鳴であった。

「母さん!」慌ててドアを開いた、鍵はかかっていない。家の中に駆け込む。 

「母さん・・・・・・ 」目の前には胸を長い槍のようなもので貫かれて、棒立ちの母の姿があった。
 母を貫いていた槍が引き戻されるように上空に消えた。母の体が崩れるように倒れていく。スローモーションのようにその光景が目に映る。目の前が真っ白になり全身が震えが止まらない。
 廊下の天井には大きな穴が開いている。天井裏を何かが走るような音がする。

「母さん!母さん!」母の元に駆け寄る。抱き上げた両手が鮮血に染まる。
「ゆっ、祐ちゃん・・・・・・」母が何かを握り締めている。さっきレオが言っていたペンダント。

「ちっ。遅かったわ!」レオが家の中に駆け込んでくる。
レオは天井を見上げたかと思うと様子を確認してから右手を上に向けた。その掌から赤い光線のようなものが天井に向かって発射された。その光線は天井を突き抜けていった。

「ぐへっ!」異様な声がしたかと思うと、上から何か大きな物体が落ちてきた。
 床の上に仰向けになり倒れている。ゲコゲコと声をあげるとピョンと跳ねて地に手をつけて着地した。それは大きな蛙のような姿をした生き物であった。こちらに背を向けてしゃがんでいる。頭には黒い頭髪、一応服は着ている。その服装はなんだか見たことあるものであった。いや、見たことがあるなんてものではない、それは西高女子の制服。その生き物はゆっくりとこちらを振り返る。

その顔は・・・・・・。

「えっカエル・・・・・・いや、黒岩さん・・・・・・?」その顔は、クラスメイトの黒岩 瑤子に似ているような感じがした。
 ただ、その顔はいつもの天使の顔では無く、口が大きく裂けて、まさに蛙のような顔であった。気持ち悪い笑いを浮かべて口から長い舌を露出していた。 
 母の胸を貫いた長い槍は、こいつの舌であった。

「一体、何だ、これは?」祐樹は目の前の状況を理解出来ないで母の体を抱きとめながら呆然として動けない状態であった。

「祐樹さん、そのペンダントを首に掛けて!私とシンクロするのです!」レオが黒岩 瑤子に向かって光線を発射し攻撃を続ける。 
 黒岩 瑤子は大きなガマ蛙のように部屋の中を飛び回る。相変わらず気持ちの悪い笑いを浮かべている。

「ゆっ、祐ちゃん・・・・・・、あの娘《こ》の言う通りにして・・・・・・」母がもう一度、ペンダントを差し出した。呼吸が整わないようで苦しそうであった。口から頬に大量の血が吹き出て流れている。

「母さん!」母はペンダントを祐樹の首に掛けようと両手でペンダントを持ち上げた。

「くっ・・・・・・!」言われるままに、ペンダントを首に掛ける。 

「ありがとう・・・・・祐ちゃん・・・・・・、ごめんね・・・・・・」その瞬間、母は軽く微笑んだかと思うと祐樹の頭をゆっくりと撫でた。
 次に瞬間、祐樹の頭から手が下に落ちてガクリと体からも力が抜けた。

「母さん・・・・・・、母さん!」動かなくなった母の体にしがみついて祐樹は泣いた。いくら呼びかけても母の返事は返ってこない。涙が止めなく流れ落ちてくる。たぶん祐樹が生まれてから今日が一番泣いた日になるであろう。

「シンクロ・レオって叫んでください!」レオは戦いを継続しながら叫ぶ。

「ううう・・・・・ 」母の体にしがみついたまま祐樹は泣き続けている。

「祐樹さん!お母様を無駄死にさせたいのですか!早く!」レオは泣きじゃくる祐樹に活を入れる。

「分かった・・・・・・!シンクロ・レオ!」涙を拭い、言われたままに叫ぶと、祐樹の体は赤色に輝いた。それと同時にレオの体も真っ赤に光った、次の瞬間レオは一気に拡散するように消えた。目の前で起こった現象に、祐樹は目をパチクリさせている。

「れっ、レオ・・・・・・? 」そう問いかけた瞬間、祐樹の体が真っ赤に燃えるような炎に包まれた。

「うわー!」祐樹は予測しない事態に悲鳴をあげた。

「メタルガイダー・レオ!」レオの声が聞こえる。祐樹の体は、赤とシルバーのメタリックボディに変身していた。全身に力がみなぎる。

「なんだ、この体は・・・・・・!」祐樹は自分の手や足を見て驚愕する。先ほどまでの学生服ではなく、ロボットのような手、足。いつの間に服を着替えたのか自分でも分からなかった。ただ、体に一切の負荷がなく、まるで何も身につけていないような感じであった。祐樹は、まるで狸にでも化かされたような顔をしていた。

「貴方は、私達ガイダーとシンクロすることによりメタルガイダーに変身したのです! 
さぁ、私と一緒に、お母様の仇を・・・・・・あいつを倒すのです!」祐樹の視線の横にモニターが現れ、レオの顔が映しだされた。母の仇と聞いて、祐樹は歯を食いしばった。

「どうして、どうして母さんを!」化け物を睨みつける。しかし、もう一度目の前の生物を見て躊躇した。
「あれは・・・・・・、黒岩 瑤子なのか?」目の前の化け物は、見れば見るほど同級生の黒岩 瑤子に似ている。 ただその口からは長い舌が飛び出し、口は左右に大きく裂けていた。 両手を地面につき中腰の姿勢でしゃがんでいる。 まるでこの世のものとは思えない、まさに化け物である。

「あれは、貴方を捕らえる為に地球に派遣されたバンガーよ!貴方を油断させる為に、クラスメートの黒岩 瑤子として潜り込んでいたのよ!」モニターの中でレオが解説した。

「俺を捕まえる為に?」祐樹は目の前の化け物に向かって、両手を構えて牽制した。祐樹は自分の為に、母が殺されたという事実を突きつけられて愕然とする。

「やはり、ガイダーが現れたのね、小松原君!貴方を連行するわ!お友達でしょ、私達! グヘヘヘヘ!」その声は、黒岩 瑤子の声に似てはいたが、微妙に違うものであった。天使の声ではなく、地獄から聞こえてくる心地の悪い声であった。
 化け物は口を大きく開けると、唾液のようなものを飛ばして攻撃してきた。

「避けて!祐樹さん!右よ!」レオの声に従い、体を右によける。避けた唾液が壁に当たる。その場所は泡を発生させて溶けていった。

「なんだ、これは!」祐樹は溶けていく壁を見て驚きの表情を見せる。

「奴の攻撃に気をつけて!」レオが叫ぶ。

「見ればわかるよ!」狭い家の中では動きが制限されると考え、祐樹は外に飛び出す。 
幸い、辺りに人の姿は見えない。メタルガイダーを追いかけて、化け物も表に飛び出してきた。
「グヘヘヘヘヘ!逃がさないよ!」
 化け物の長い舌が伸びて、後ろから祐樹の体に絡みつく。

「しまった!」祐樹の顔が苦痛で歪む。

「祐樹さん!」レオの声が響く。

「ぐぐぐ!」祐樹の両腕が締め付けられていく。体から湯気のようなものが発生する。

「このまま、連行するよ!グヘヘヘヘヘ!」化け物の声が、後ろから響く。

「体が・・・・・・、溶ける!」体から何かが溶けていくような音が聞こえる。

「超爆激神モード、スタート!」モニターの中のレオが叫ぶ!
メタルガイダーの目が赤く光ったかと思うと全身が真紅の炎に包まれる。 全身の力を解放して、両腕を開き化け物の舌を引き裂いた。

「ウゲー!」血しぶきを上げて、化け物が叫ぶ。その瞬間、祐樹の体は化け物の背後に移動して、顔面に蹴りを食らわせる。
 蹴られた衝撃により、化け物は砂煙を上げて飛んでいった。飛ばされた先には既に、祐樹は移動しており、両手を組み化け物の頭に鉄槌をお見舞いした。

「イデー!」化け物は悲鳴を上げながら、地面に激突した。

「おのれー!ガイダーめ!」化け物は、傷ついた体を庇いながらゆっくり立ち上がった。
 祐樹は、化け物の言葉に答えず右手を上から下に振り下ろした。その手には長剣が握られていた。 
 長剣の刃から赤く強い光が発生する。
 先ほど引き千切れたはずの舌が再生し、化け物の舌が再び祐樹に襲い掛かる。祐樹は長剣を左右に振り、その攻撃をかわす。

「祐樹さん!剣に思いを込めて!」モニターに映し出されたレオが叫ぶ。

(母さん!)祐樹の頭の中に、優しい母の笑顔が蘇る。その頬に涙が流れる。
祐樹は右肩を突き出し、しゃがみ込み勢いよく前に飛び出した。

「ええい!」

 長剣の光が勢いを増した。祐樹は刃を後方から横一文字にして振り切った。

「畜生!」化け物は後ろを振り返り逃げようとするが間に合わず二つに切り裂かれる。
ドッサと二つの分かれた化け物の体は地面に落ちた。
祐樹は化け物が再び起き上がってこないことを確認する。

「黒岩・・・・・・!」化け物の顔が、黒岩 瑤子の顔に戻っていた。 教室でいつも見る美しい少女の顔であった。
 彼女の辺りは血の海と化している。その状況を見て、祐樹は頭がクラクラして気が遠くなりそうになった。

 遠くで荷物が落ちる音が聞こえた。祐樹が音のした方向に目をやると両手で口を覆った女性が立っていた。彼女の足元には、買い物したと見られる食材が散乱していた。

「キャー!・・・・・・誰か!」激しい悲鳴が響いた。近所の主婦に見られた。

「まずいわ!逃げるのよ!」脱力している祐樹を叱咤する声でレオが叫ぶ。

「・・・・・・」祐樹は虚ろな目をして黒岩 瑤子の顔を見つめていた。

「祐樹さん!早く!」更に激しくレオは声を出した。 

「あぁ・・・・・・」祐樹はレオの言葉に従い、その場から飛び上がり姿を消した。
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