上 下
6 / 35

レオ(赤髪の少女)

しおりを挟む
 一日の授業が終わった。

 教科書を鞄に無造作につめてから家に帰る。黒岩瑤子の席に目をやると、もう既に帰ったようだった。今朝の会話から、なんとなく一緒に帰れるのではと祐樹は期待していたのだが・・・・・・。

(うーん、残念)心の中で祐樹は呟いた。
 奈緒は空手部の練習がある為、帰りは一緒ではない。祐樹は仕方なく一人家路につく。

 いつもの時間、いつもの帰り道。 
 しかしいつもとは違い、なぜか回りに他の生徒達の姿が見えない。7組が終わるのが他のクラスより早かったのであろうか。そんな事はないはずだが・・・・・・、そこまで考えて、どうでもいいやと思った。

 少し俯き、地面を眺めながら歩き続ける。何かを探す訳では無いのだが一人で歩くといつも下を見て歩いてしまう。母からもシャキッとしなさいと、いつも怒られる。ただ、何度か財布を拾ったこともあるので、あながち下を見て歩くのも悪いことばかりでは無いと思う。

 気を抜いていると、視線の先に茶色いブーツが見えた。
 頭をゆっくりと上げると、赤い服を着た少女がいつかと同じ場所に立っていた。服装も前と同じ赤いジャケットに黒いズボンにブーツ。スタイル、顔立ちも美しい、モデルか女優のような容姿であった。黒岩 瑤子といい、祐樹は最近、綺麗な女の子を見る機会が多いと少しデレっと顔が緩んだ。

 祐樹の視線が彼女を捕らえると同時に彼女はこちらに歩いてきた。

(道でも聞いてくるのだろうか?)祐樹は少し緊張した面持ちで立ちつくしている。

「小松原 祐樹さんですね」少女が、祐樹の名前を読み上げるように言った。

「はい、あっ、俺は小松原ですが・・・・・・」新手の勧誘かと思ったが名前を知っているのが腑に落ちない。祐樹の顔は思いっきり警戒顔に変わった。
 祐樹が返答するや否や彼女はその場に肩膝《かたひざ》を地面について頭を垂れた。

「お目にかかれて光栄です。私は、貴方の僕《しもべ》『レオ』と申します。以後、お見知りおきを・・・・・・」レオと名乗る少女は丁寧《ていねい》に自己紹介をした。
「・・・・・・なっ、なんですか、一体?」祐樹はドッキリテレビか何かと思い周りを見回したが、カメラが出てくる気配は無い。相変わらず、辺りに人影は見えない。

「私は貴方の一族をお守りする為に造られた『ガイダー』という存在です」レオという少女が下から見上げ呟いた。

「ガイダー・・・・・・、ですか」訳の分からない用語で一気に胡散臭い感が増幅する。

「貴方の回りに危機が迫っています。今後、お側で護衛をさせていただきます」レオという少女は、唐突に説明を始めた。

「貴方は、銀河の命運を握った『コア』という存在なのです。貴方が死ぬとこの銀河も破滅してしまいます」レオはスクッと立ち上がると、いきなりスケールのデカイ話を始めた。

「銀河ですか・・・・・・」普段の生活ではなかなか使わない単語だ。

「貴方のご先祖は、銀河が生まれた時に銀河と分裂しました。まさに銀河と運命共同体という存在なのです。本来、私達が然《しか》る場所でお守りするのが決まりだったのですが、貴方のお父様がこの星の女性と恋に落ちて状況が変わってしまったのです」レオは、そう言うと祐樹の家の方向に向かって歩き始めた。 

「貴方の一族は、子供が出来ると『コア』の役割を引き継いでいくのです。貴方が生きている限り銀河は、生き続けるのです」レオは祐樹の反応を無視して話を続けた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!なんの事だかさっぱり分からないよ」祐樹は、レオの話を止めた。

「お母様からは、何も聞いていないのですか?」レオは、振り向いて聞いてきた。

「母さんが・・・・・・・、聞いたこと無い」祐樹は素直に返答した。

「まさか、貴方はメタル・コアの事も知らないのですか!」レオは言うと同時に、祐樹の学生服の胸元を掴み、左右に開いた。 その瞬間、学生服のボタンが飛び、祐樹の胸が露出する。

「なにを、するんだ!」祐樹は抵抗して彼女の手を払った。

「無い!メタル・コアが無い!お父様のペンダントを、貴方は持っていないの! 」レオは激しい口調で聞いてきた。 その口調に祐樹は驚きを隠せなかった。

「親父の・・・・・・、そういえば、母さんがそんな物を持っていたような・・・・・・」そう言いかけた瞬間レオは祐樹の体を、お姫様抱っこのように抱えたかと思うと、空中にジャンプした。脇の辺りにレオの胸が当たる。

「えっ!」祐樹は、何が起きているのか理解できずに怖くて目をつむっていた。

「お母様が危ないかもしれない!」レオはジャンプを繰り返し、他人の屋根の上を駆け抜けていく。

「えっ、母さんが!なぜ?」彼女は祐樹の質問に答える余裕が無い様子であった。

しおりを挟む

処理中です...