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自己紹介

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「いい加減にしなさい!パンが来てくれなかったら危なかったのよ!」レオは腕を組み、両足を肩幅に開いて立っていた。 

 レオの目の前で二人は正座の姿勢で、少しうつむき加減で座っている。祐樹とパンはベッドの上に腰を下ろして座っていた。

「すまん!あまりにもこの漫画が面白かったから、つい・・・・・・」青い服を着た、ダンという少女が手を目の前で合わせて言い訳をした。ボーイシュな声、口調が男のようだった。その手には祐樹の秘蔵の漫画本が握られていた。

「同じく、ゲームが面白かったので・・・・・・ 」白い服の少女は、ソラという名前だそうだ。彼女は言葉には感情がこもっていない。

「まさか、レオが負けそうになるなんて思わなかったから・・・・・・」ダンが小さな声で呟く。その目は部屋の隅に向けられている。

「それは、その油断したのよ・・・・・・!」レオは珍しく恥ずかしそうに顔を赤らめた。腕組みをして天井を見上げている。

「ちょっと、いいかな?」祐樹は状況が理解出来なくて質問をした。

「いいぜ!」ダンが自分の立場をわきまえずに返答する。レオがキッとダンを睨みつける。ダンは視線を逸らして口笛を吹いた。

「彼女達も、レオと同じガイダーなのか?」

「ええ、彼女達の名前はパン、ダン、ソラ。 私と同じガイダーです。私達四人で貴方をお守りします」流暢な口調でレオがガイダー達の紹介を始めた。

「貴方が、シンクロする時に私達の名前を呼ぶと、色々な能力を持ったメタルガイダーに変身する事が可能となります。それぞれの特性を考慮して、貴方が選択してください」

「特性って・・・・・・?」祐樹は素直に思った疑問をレオにぶつけた。

「私とパンの特性は既にご存知の通りです。ダンはスピードを強化します。彼女の武器は銃です」レオの説明が一息つく。
 ダンは右手で拳銃のような形を創り祐樹に向かって「パーン!」とウインクをしながら銃を撃つ真似をした。

「ソラは念動力を発揮します。彼女とシンクロすると不思議な力が使えます」ソラは両手の平を上に向けて少しだけニコっと微笑んだ。彼女は幸が薄そうな感じであった。

「どうも・・・・・・ 」祐樹は頭に手を添えるとペコリと頭を下げた。

「私達は、生まれた時からガイダー候補として教育されてきました。その中で特性・体力・行動力が優秀な四人が選ばれ、地球に来ると同時に、過去の記憶は消去されて、コア・・・・・・、祐樹さんへの忠誠を植え付けられました。私達の存在意義は貴方を守り続けること。私達の命に代えても、貴方を守ります」ガイダー達が祐樹の目の前に膝まずいた。

「貴方に私達の命を捧げます」彼女達は呟いた。

「そんな事が・・・・・・ 」祐樹は唐突な話に驚きを隠せない様子であった。

 部屋の外から、バタバタバタと駆け足が聞こえる。
 祐樹の頭に少し嫌な予感が過った。
「祐ちゃん・・・・・・!」奈緒がいきなりドアを開けた。その光景を見て奈緒は唖然とした。

「・・・・・・ 」少しの沈黙が続いた。

「いや、奈緒これには訳が・・・・・・! 」言った瞬間、祐樹の顔が奈緒の足に踏みつけられていた。

「ここはハーレムか!」奈緒はグリグリと足をひねる。その顔は歯を食いしばり怒りを堪えているようであった。

「奈緒、パ、パンツが・・・・・・」祐樹の視線の先で奈緒の下着が丸見えになっていた。踏まれながらも祐樹の顔が真っ赤に染まる。

「うるさいわ~!」奈緒は躊躇せずに顔を踏み続ける。

「ご主人様!」パンが祐樹のそばに駆け寄る。パンの勢いに驚いて奈緒は祐樹の顔から足を退けた。祐樹は踏みつけられたゴキブリのようにピクピクしている。しばらくしてから、祐樹は起き上がった。

「だいりょうぶ、だいりょうぶ!」祐樹は顔をさすりながらパンに答えた。

「ご主人様って・・・・・!祐樹、この人達は一体なんなの?」少女達を順番に見回す。   
 赤、青、黄、白と部屋の中はカラフルな色合いになっている。また、少女達それぞれが魅力的で、まるでテレビのアイドルが祐樹の部屋を占拠しているのかと奈緒は思った。こんな可愛い娘ばかりをよく集めたものだとすこし感心にも似た感覚に襲われる。

「この人達は・・・・・・、親戚のお姉さん達なんだ」祐樹が思いついたように言い放った。祐樹は鼻の辺りをさすっている。鼻血は出てない様子であった。

「親戚?そんなの聞いたこと無かったわよ・・・・・・ 」奈緒は不審な顔をした。

「母さんが亡くなったから、俺の面倒を皆で見てくれることになったんだよ」祐樹は少し斜め上を見つめた。

「でも、さっきその子は、祐樹のことを『ご主人さま』って言っていたわよ」奈緒は口を尖らしている。

「奈緒の聞き間違いだよ・・・・・・なっ、パンちゃん」ウインクをして、パンに合図を送る。

「はい! ご主人様!・・・・・・あっ!」ダンがスリッパでパンの頭を軽く叩いた。

「ほら、言った!」パンを指差して奈緒は祐樹に詰め寄る。

「いや・・・・・・、昔遊びで、ふざけてメイドごっこしてパンちゃんが僕のことを、『ご主人様!』っていっていたのが癖になっているんだよ! なっ、パンちゃん」

「はい!ご主人様!」もう一度、ダンがパンの頭を叩いた。祐樹の頭の中にメイド姿のパンが微笑む。少し祐樹の鼻の下が伸びた。

「う、うん!」レオが軽く咳払いをした。その途端、祐樹は現実に引き戻される。

「どえらい、マニアックな遊びを子供の頃からしてたのね・・・・・・、まあ、こんな綺麗なお姉さん達と、メイドごっこや、お医者さんごっこしたら、それは楽しかったでしょうね!」

「いや・・・・・お医者さんごっこは・・・・・・」祐樹が否定すると、奈緒は更に激しく睨みつけた。

「・・・・・・ご紹介をして頂いても良いですか? 」レオが終わらない漫才に業を煮やして、口をはさんだ。

「あぁ、御免、こちらは篠原 奈緒。隣に住んでいる僕の幼馴染だ」祐樹の言葉に合わせて、奈緒は軽くお辞儀をした。

「奈緒です。ヨロシクお願いします」少し仰々しい感じがした。

「こちらが、レオ・・・・・さん。・・・・・・一つ上のお姉さんだ」なんとなくレオはお姉さんキャラかなと祐樹は常々思っていた。

「この子がパンちゃん。中学生で妹みたいな感じかな」頬をかきながら祐樹は続けた。適当に設定を頭の中で考えながら紹介をする。

「妹みたいだなんて、ご主人様・・・・・・」パンは頬を赤らめて喜んでいるようだった。 ダンがパンの頭を叩いた。なんだかダンはスリッパがお気に召したようであった。

「それと、こちらがダンさんとソラさん。僕らと同じ歳だ」

「なに、俺達の紹介は適当だな! 」そう言ったのはダン。やはり口調が男のようだった。

「別に、どうでも良いんじゃないの・・・・・・ 」ソラは、相変わらず起伏の無い声で呟いた。

「なんか、祐ちゃんの世界は薔薇色って感じだね・・・・・・ 」少し頬を膨らませて奈緒はムッとしているようだった。奈緒は、今までライバルの存在を意識したことは無い。小さい時から自分だけが祐樹の事を見続けてきたとの自負が奈緒にはあった。
 それが今晩、音を立て崩れていったような気持ちになった。

「皆さん、学校はどうしているのですか? 」奈緒は何気なく疑問を口にした。パンという少女は中学生だから仕方がないが、学校で彼女達の姿を見たことは一度も無い。こんな美女達が学校にいれば知らない訳が無い。

「俺達、学校は・・・・・・ 」ダンがそこまで言ったところで、祐樹が遮るように言い出した。

「あぁ、レオさん達は西高とは違う学校なんだよ! 今は、俺の面倒を見てくれる為に、休学してくれたんだよ」取って付けたような説明だと祐樹は自分で思った。

「中学生も・・・・・・?」奈緒はさり気なく、パンの方に目を送った。パンは、何のことだろうとキョトンとしている。

「なっ、なんだよ」しくじったと祐樹は思った。さすがに、中学生が親戚の不幸の為とはいえ、長期休日を取るのは無理がある。祐樹は少しあたふたとした。

「パンは、アメリカの学校で日本の大学相当の教育課程は既に修了していますので、本当は学校に通う必要がないのです。私達より、彼女のほうが優秀なのです」レオが本当か嘘か解らないような説明をした。なんだかパンが誇らしげに胸を張っているように見える。分かっているのかどうかは疑問であった。

「ふ~ん、そうなんだ・・・・・・」鋭い視線で奈緒が祐樹を睨んだ。あからさまに疑っていますというオーラを発している。

「・・・・・・奈緒は、何しに来たんだよ! 」この話題を変えようと祐樹は口を開く。

「あっ、そうそう、大島神社に、パトカーがいっぱい来ていたから、祐樹の家は大丈夫かと思って・・・・・・」まさか、その原因が目の前にいるとは、奈緒は全く考えてはいない。

「奈緒・・・・・・、ありがとな!」自分の事を心配してくれた事を知ると、少し奈緒の事が愛おしく感じた。

「いいよ、別に・・・・・・、私は帰るけど、変なことしては駄目よ!」腕組みをしながら、奈緒は少し顔を赤らめていた。

「なんだよ、変なことって?」祐樹は奈緒の言っている意味がよく理解できない様子であった。

「その様子なら、大丈夫かな・・・・・・ レオさん、祐ちゃんをお願いしますね」奈緒はレオに向かってペコリと頭を下げた。レオが一番信頼出来ると思ったようだ。

「はい、お任せください」レオはニコリと微笑んだ。

「じゃあね」そう言うと奈緒は祐樹の部屋を退出して家に帰っていった。
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