上 下
17 / 35

私が守るんだから!

しおりを挟む
 夜になり急に雨が降ってきた。

 戦いに疲れて祐樹はベッドの上に横たわり目を閉じていた。
 しかし興奮が冷めやらない状態で、眠ることが出来ない。ダンはゲーム、ソラは漫画を読み続けている。レオとパンは夕食の準備をしている。
 ガイダー達も人間と同じ物を食べてエネルギーに変換するそうだ。

 ダンとソラは、料理が苦手でもっぱら準備は、レオとパンの当番になったようだ。

「祐樹!」いきなり部屋のドアが開く。部屋の入り口には、奈緒が仁王立ちで立っていた。

「奈緒・・・・・・」プライバシーも何もあったものじゃないと祐樹は思った。
奈緒はツカツカと祐樹の前に立つと顔を一発殴った。奈緒の正拳突きは強烈で、祐樹の体は部屋の隅まで転がった。

「痛って!何するんだよ!」祐樹は奈緒を睨みつけた。
 奈緒の瞳に涙が溜まり、今にも溢れ落ちそうな勢いであった。その瞳を見て祐樹の目をそらすように床を見た。

「奈緒・・・・・・」殴られた頬を押さえながら奈緒の名を呟いた。

「祐ちゃん、一体どうしたのよ? 学校で、茶原って転校生の子に喧嘩を売ったって・・・・・・、そんなの祐ちゃんらしくないよ!」奈緒の目から雫がこぼれ落ちた。騒動を聞いて、レオとパンが部屋に飛び込んできた。

「俺らしいって、一体なんなんだよ・・・・・・」祐樹は右腕を大きく振り部屋の壁を叩いた。

「綺麗なお姉さん達と一緒で、いい気になって・・・・・、祐ちゃんは変になってるんだよ!」奈緒は怒りに任せて床を踏みしめた。

「俺は、いい気になんかなってない!」

「祐ちゃんは、『俺』なんて言わなかったよ。私の知っている祐ちゃんと貴方は違うわ! 」奈緒は激しく首を振った。今の祐樹の存在を否定しているかのようであった。

「お前に、俺の何が解るって言うんだ! 俺には俺の事情があるんだよ!」

「・・・・・・私、ずっと祐ちゃんと一緒で、祐ちゃんの事は誰よりも理解していたつもり・・・・・・でも、今は祐ちゃんの事が解らない・・・・・・ 」そう言うと奈緒は泣きながら部屋から出て行った。

「なんなんだ、あいつ・・・・・・」祐樹は少し呆れたように言い放った。

「祐樹さん、追いかけなさい!」レオが奈緒を追うように即す。その顔は明らかに怒っているようであった。

「ええっ!」祐樹は、レオの意外な言葉に驚く。まさか、ガイダーから泣いた女の子を追いかけろなどという言葉が出るとは予測しなかった。記憶を消されていても、そういう男女の駆け引きは解るのかと少し感心した。

「早く!」レオは両手で祐樹の背中を押した。押された勢いで祐樹は前のめりに倒れそうになる。足を踏ん張り何とか体制は維持した。

「あっ、ああ・・・・・・」そう言うと、祐樹は部屋を飛び出して奈緒を追いかけた。
 玄関を飛び出すと、電柱の前で雨の中で奈緒がしゃがんで泣き崩れていた。

「奈緒・・・・・・、俺、いや僕が悪かった・・・・・・」奈緒の前に同じように、しゃがみ陳謝した。

「ばか!」言いながら、奈緒は祐樹の体に抱きついた。その反動で祐樹は地面に尻餅をついた。雨のせいでズボンのお尻の辺りがずぶ濡れになった。

「色々な事があって、まだ整理出来ていないんだ・・・・・・御免、奈緒」祐樹は奈緒の体を受け止めたまま彼女の頭を撫でた。

「祐ちゃんは、私が守るから・・・・・・、私が守るんだから・・・・・・」奈緒は祐樹の胸に顔を埋めて泣き続けた。祐樹の胸の中で、奈緒はいつの間にか祐樹が、男のたくましい体になっていたのだなと思い、複雑な気持ちになった。思えば、祐樹が虐められるのを見て奈緒は強くなろうと空手を始めた。小さい頃は誰にも負けず無敵であったが、中学校に入った頃から、男子に組み手で勝てないようになったのと体が女の体になり、まともに組み手も男子とは出来なくなってきた、やはり自分は女なのだと思い知らされる事が多くなった。 
 祐樹を守るという自分の誓いは意味をなさなくなってきていた。

「祐ちゃん・・・・・・・ 」奈緒は、何度も祐樹の名前を呟き泣き続けた。
しおりを挟む

処理中です...