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自宅謹慎

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 学校に到着した祐樹は、いつものように7組の教室に向かった。
 扉を開けて教室に入った瞬間、祐樹の目は釘付けになった。

「おっ、お前・・・・・・?」茶原が、何も無かったように教室の席に座り、鞄の中から教科書を取り出して、机の中に片付けている。茶原は祐樹を一瞬見たかと思うと、教科書を開いて予習を始めた。

「お前、一体なんのつもりだ!」祐樹が茶原の机を大きな音がするほど叩いた。
 その言葉が引き金になって、教室の中の騒音はピタリと止まった。

「いきなり何だよ、小松原君・・・・・・」怯えた表情を浮かべて茶原は見上げた。
 木の枝に3匹の猫が飛び移った。その場所から教室の中の異変に気づき青い猫が毛を逆立たせて威嚇するような声を上げる。その行動を赤い猫が制止する。

「ふざけるな!この野郎!」茶原の胸ぐらを握り、引き上げ祐樹は拳を握り締めた。

「おっ、おい! 小松原、やめろよ!」北が祐樹の拳が発射される前に止めた。

「貴方達、何をやっているんだ!」担任の松下が教室に飛び込んできた。その後ろを教育実習生の紫村が澄ました表情で歩いていく。

「お前達、職員室へ来い!紫村先生、ホームルームお願いします!」そう言うと松下は祐樹と茶原の耳たぶをひっぱる。「はい」と紫村は返答を返した。

「イテテテ!」祐樹は痛みに表情をゆがめる。茶原は、口を斜めに傾けたが声は上げなかった。

「北!お前もだ!」松下は、茶原に向かって職員室へ来るように促した。

「俺もですか・・・・・・」北はガクリと肩の力を落としながら3人の後ろを歩いていった。

 職員室に移動した祐樹達は、松下にこってりと搾られた。
 騒ぎの原因を聞かれたが答える事が出来ずに祐樹は沈黙を続けた。茶原は、自分は訳が判らず突然、祐樹に因縁をつけられた被害者だと主張した。
 北は状況説明に徹した。北の身の潔白は、祐樹が証明しお咎めは無かった。
 結局は喧嘩両成敗ということで、祐樹と茶原は一週間の自宅謹慎を命じられた。
 祐樹達が教室に戻ると、昼休みの時間になっていた。昼食を食べていた生徒達は、祐樹達の姿を確認するとザワザワと騒いだ。
祐樹は鞄を回収すると、ガンっと一発机の上を殴ってから教室を後にした。
 祐樹が去った教室は暫くの間、沈黙に包まれていた。

 祐樹は朝来た道を引き返していく。
 何気なく、いつもは行かない河川敷に足を向けた。芝生の上に寝転ぶと頭を抱えて両マブタを閉じた。3匹の猫が近づき、周りに人がいないことを確認してから少女の姿に変わった。3人の少女は祐樹の両脇に彼をガードするかのように腰掛けた。

「祐樹さん、危険なことはしないでください」レオは祐樹を諭すように呟いた。

「あいつが、レオが苦戦した奴か!」ダンは両手のポキポキ間接を鳴らしながら息巻いた。

「ちょっと、油断しただけよ!」レオが顔を真っ赤にして反論している。

「・・・・・・油断大敵・・・・・」ソラが感情を込めない口調で呟いた。

「茶原の奴、なぜ平気な顔をして学校に来ていたんだ」祐樹は疑問を口にした。

「よほどの自信があるのでしょう。あの時、私が不甲斐ないばかりに・・・・・・ 」レオが申し訳なさそうに祐樹に謝った。

「レオの責任ではないよ。その後、パンが手伝ってくれたから助かったし・・・・・・でも、普通なら正体がばれてるのに学校に来る意味があるのかと思ってさ」両腕を組み祐樹は考える。バンガーがわざわざ、学生に混じるメリットはなんなのか。人間社会に溶け込むには、それなりの時間も必要なはず、ましてや転校の手続きなど、あんな化け物が容易くできるものなのであろうか。

「祐!次は俺とシンクロしてくれよ!コテンパンにしてやるからさ!」ダンは自分の拳を左手で受けながらパンパンと音を鳴らした。いつの間にか呼び捨てになっていた。

「・・・・・・私も、戦いたい。祐樹様と合体して・・・・・・フフフフフ 」ソラは相変わらず同じ口調であった。ただ珍しく、幸の薄い笑いを浮かべている。

 その様子を見て、「ありがとう・・・・・」と言って祐樹は軽く微笑んだ。



「とんでもない事をしてくれるな、君は・・・・・・」背後から声がする。祐樹たちが振り返ると茶原がズボンのポケットに両手を入れて立っていた。その気配に祐樹達は気づかなかった。

「お前、一体なぜ学校に来たんだ! まさか、学校の皆を・・・・・・!」立ち上がると祐樹は茶原を睨みつけた。

「まさか! 僕のターゲットは君だけだよ。他の者に危害を加える気持ちは無いよ」
不敵な笑みを茶原は見せた。

「ならば・・・・・・、なぜ母さんを殺したんだ!」憎しみを込めて祐樹は睨みつけた。

「あれは僕では無い。黒岩 瑤子が独断でやった事だ。功を焦った結果だ」淡々と語る口調が憎たらしいと祐樹は思った。祐樹の表情は更に険しくなっていた。

「おい、蜘蛛野郎! 俺と勝負しろ! 」二人の間を割ってダンが怒鳴り散らした。その口調は完全に男のものであった。その美しい容姿とは不似合いであった。

「ほう、君は新しいガイダーか。綺麗だけど、喧嘩早そうだな」茶原はそう言うと額の目を現した。額の眼球が濃い血の色に輝く。

「祐! 頼む!」ダンが両手を握り締める。
「シンクロ!ダン!」祐樹が叫ぶと、ダンの体が砕け散り祐樹の体が青く包まれた。

「メタルガイダー・ダン!」祐樹の姿は、メタルガイダーに変身した。
目に前では、茶原が既に蜘蛛の化け物に変わっていた。

「もう少し学生生活をエンジョイしたかったのだが、君が望むのであれば、すぐにでも連行してあげるよ! グヘヘヘヘ! 」そう言うと茶原は糸を口から吐き出した。祐樹とレオ、ソラは左右に分かれて攻撃から逃げた。レオは右手に赤いレーザーの刃を手に、ソラは両手に光の玉を発生させていた。

(レオ! ソラ! 手をだすなよ! 俺と祐に任せておけ!)ダンの声がレオの頭に届く。
「本当に、大丈夫かしら・・・・・」言いながらレオは刃のレーザーを消した。

(オラオラオラオラ!)祐樹の体は宙を舞い、茶原に向かって飛び蹴りを試みる。茶原は八本の足を操り、その場から移動した。祐樹の蹴りは茶原がいなくなった地面に蹴りをめり込ませた。
(畜生!)ダンは怒りで冷静な判断が出来ないようであった。

「おい、落ち着けよ! ダン! 勝手に俺の体を操るな!」祐樹はからだの主導権を戻すように命令する。

(あいよ・・・・・・)残念そうな声を上げて、ダンが返答をした。
次の瞬間、祐樹に主導権が戻る。勇気は茶原と対峙する。
手に力を込めると、両手に銃が現れた。

「・・・・・・ 」暫く沈黙が続く。

 先に動いたのは茶原であった。口から再度、白い糸を吐き出した。祐樹は体を反転させてかわして銃を構えた。その銃を発射する前に、再び糸で攻撃してくる。祐樹はその場から、上空に飛び上がった。

 宙で体を回転させて、銃を一発発射させた。その玉を茶原は残像が残るぐらいの速さで防いだ。

「早い!」祐樹は驚愕の声を上げた。

(よし! 超爆激神モード、スタート! )メタルガイダーの目が青色に輝く!
祐樹の体も、茶原と同様に残像を残して体を移動させる。茶原が前足を槍のように伸ばして、祐樹の体を攻撃してくる。側転の要領で片手を着きながら、銃の引き金を引いた。
弾丸が宙を切り、茶原の右の目に命中する。

「ギョエエエエエ! 」この世の者とは思えない悲鳴が響き渡る。

「とどめだ! 」祐樹は銃を構えて狙いを定める。
その時、空中から七色の光が発せられて祐樹を攻撃してきた。祐樹は後方に飛び退いてこれをかわした。その隙を突いて、茶原は姿を消した。

「畜生! 何者だ! 」祐樹は光が発射した方向を目を細めて見上げた。太陽の逆光により、その姿を確認することが出来なかった。

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