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姉 妹

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 直美が先に家に入り様子を確認する。

「幸太郎君、大丈夫そうだよ」直美は小さな声で合図した。その声を聞いて俺は急いで家の中に飛び込んだ。階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込む。

  猫を見ると相変わらず、苦しそうであった。

「直美、悪いけどタオルを取ってきてくれないか!」俺の制服も猫の血で少し汚れていた。

「分かったわ、ミルクも飲むかな?」直美は言いながら、部屋を飛び出していった。
 頭を撫でてやると猫は少し落ち着いたように呼吸が少しずつ整ってきたようだ。

「持ってきたよ」そう言うと、直美は手に持ったタオルを差し出してきた。脇に牛乳パックを抱え、もう片方の手に皿を持っていた。彼女からタオルを受け取ると、俺は猫の体を丁寧に拭いてやった。どうやら傷口は塞がっている様子で血は止まっていた。
 体の汚れを拭き取ってから、部屋にあったクッションの上に寝かせてやると薄っすらと目を開けてこちらを見た。

「牛乳飲めるかい?」言いながら皿に少し注ぎ、猫の近くに置いてやった。
 猫はゆっくりと皿のミルクを舐めた。

「やった! 飲んだ!」直美が嬉しそうに声を上げた。 その瞬間、部屋の扉が開いた。

「なに、なにかあったの?」部屋の入り口から声が聞こえた。

「あっ詩織姉さん・・・・・・」振り返るとセーラー服を着た詩織さんが立っていた。ドアも閉めずに騒いでいたので、気がつくのは当たり前である。
 詩織さんは、俺達の二歳上の高校三年生。直美のお姉さんだ。

「なに、猫を拾ってきたの? ・・・・・・また、汚い猫ね!」猫を見ながら言った。 
 詩織さんの言葉を聞いた瞬間ミルクを舐める猫の動きが止まった。少し機嫌が悪くなったような顔をした。まるで人間の言葉が分るかのようであった。

「詩織姉さん! お母さんには内緒にして! お願い!」言いながら俺達は拝むように両手を合わせた。

「うーん、・・・・・・・分ったわ。でも怪我が治るまでよ、それでよくて?」言いながら詩織さんも猫の頭を撫でた。俺達は顔を見合わせて微笑んだ。

「有難う詩織さん!」俺がお礼を言うと、詩織さんは優しく微笑んだ。 その微笑は凄く心地の良いものであった。

「幸太郎お兄ちゃん! 遊ぼう・・・・・・・あれ、猫ちゃんだ!」突然末っ子の愛美《いつみ》ちゃんが部屋に飛び込んできた。
 愛美ちゃんは二つ年下の中学校二年生の女の子。中学生の割には、精神年齢は小学生のようである。いつも、甘えた口調で語りかけてくる。

「まずいわね・・・・・・・」詩織さんは少し顔をゆがめた。

「猫ちゃんだ、猫ちゃん飼うの?」愛美ちゃんは猫の前にしゃがみ込む。
 猫はミルクが気に入ったようで鼻で皿を突いてお代わりを要求した。直美ちゃんが皿にミルクを注ぐ。

「愛美ちゃん、叔母さんには内緒だよ。・・・・・・・見つかるときっと飼えなくなるよ。この猫」俺は諭すように愛美ちゃんに言った。

「うん、分かった! 愛美頑張る」言いながら彼女は人差し指を唇にあてた。

「詩織、直美、幸太郎ちゃん、愛美、帰っているの?」一階から叔母さんの声が聞こえる。パートタイムの仕事から返ってきた様子だ。

「ええ、皆帰っているわ! 私が皆の宿題を見ているから大丈夫よ」詩織さんが返事をした。

「そう、珍しいわね。お母さんは夕食の買い物に行ってくるから、仲良く遊ぶのよ!」叔母さんが元気な声で返してきた。彼女にとって俺達は何時までも子供のようである。
 詩織さんは悪戯っぽくウインクをした。俺には彼女のその仕草がすごく大人に見えて見惚《みと》れてしまった。 
その横で俺の顔を見て何故か直美が頬を膨らませている。

「どうかしたか、直美?」彼女の不自然な表情の意味が読み取れないでいた。

「なんでもないですよー」直美はアカンベーをした。

「お兄ちゃん、この猫ちゃんの名前は?」愛美ちゃんが猫の頭を撫でていた。 いつの間にか猫は気持ち良さそうに眠っていた。

「・・・・・・モンゴリー」なぜか、その名前が頭の中に響いた。

「なにそれ、変な名前! じゃあモンちゃんだね!」言いながら愛美ちゃんは微笑んだ。
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