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使い魔

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「コウちゃん、遠慮しないで食べてね」叔母さんが微笑みながら言った。

「は、はい」俺は遠慮がちに返事をした。
 直美は相変わらず機嫌悪そうにしている。俺が目を合わせるとプイッと向こうに顔を向けた。

「あら、その服良く似合うわね、詩織のかしら?」叔母さんの目がキラキラ輝いていた。

「あ、はい」俺は、詩織さんの部屋着を借りていた。 自分の服を着ようとしたが、なんだかシックリこないので彼女の服を着ることにした。

「直美のだと少し胸の辺りが窮屈かも知れないものね」詩織さんが上品に食事をしている。

「ああ、そうです・・・・・・・ぐへっ!」そこまで言ったところで直美のボディーブローが俺の腹部に炸裂した。

「まあ、二人とも本当に仲が良いのね」叔母さんは満足げに微笑む。

「わーい! 今日は女だらけの大食事会だね!」愛美ちゃんがはしゃいでいる。 叔父さんは仕事が忙しくていつも帰りが遅い。

「ご飯食べたら、お風呂に入いったら? お湯が少なめだから直美とコウちゃん二人で入ってね」

「ぶー!」俺はご飯を噴出した。

「お、お母さん、なにを言っているの?!」直美も驚きの声を上げる。

「いいじゃないの、女の子同士なのだから、それともコウちゃん、私と入る?」叔母さんは頬杖を突いて笑っていた。

「えええっ・・・・・・・」俺の頭の中に叔母さんの裸体がぼんやりと浮かびあがる。 ちなみに叔母さんと言っても、彼女は三十歳半ば。彼女も娘達に劣らぬ見事なプロポーションである。俺の顔が少しだけにゆるんだ。

「ぐえっ!」ドスッ! 再び、直美のボディーブローが俺の腹に食い込む。

「直美が嫌なら、私と一緒でもいいわよ」お茶を啜りながら詩織さんは冷静な口調で言った。

「それなら愛美が一緒に入る!ね、コウお姉ちゃん、愛美と入ろうよ!」愛美ちゃんが、俺の服の裾を掴みながら催促する。

「い、いや、俺、・・・・・・・私は・・・・・・」

 ドン! 机を叩く音がする。 音がした先には、手を突きながら立っている直美がいた。

「私が、入ります!」

「「「どうぞ、どうぞ」」」皆が一斉に掌を直美に向けた。

「あっ」直美は顔を真っ赤に染めていた。

「ちょ、ちょっとこっちを見ないでね!」脱衣所に直美と二人。 この家の男は俺と叔父さんだけで、さすがに叔父さんと風呂に入ることは無いので、この家の風呂に他人と入るのは初めてであった。

「わ、判っているよ・・・・・・」俺も服を脱ぐ。 胸のボタンを外すと大きな谷間が現れた。その見事な光景に俺の目が釘付けになる。

「なに自分の体見て興奮しているのよ!」直美は呆れた口調で言った。

「だ、誰が興奮して・・・・・・」振り返ると上半身裸の直美がいた。二つの大きなボールを目の当たりして俺は興奮のあまり卒倒しそうになった。 「げほっ!」
 ドスッ! 直美の膝蹴りが炸裂する。

「こっちを見るなって言ったでしょう! このスーパーど変態!!」胸を両手で押さえながら、直美の体がワナワナと震えている。
 俺は腹を押さえながらその場でくの字に体を折っていた。

「私は先に入って体を洗うから、合図をしてから入ってよね」少し怒りながら浴室の中に飛び込んでいった。
 シャワーの音が響く。

(ああ、一体どうしてこんなことに・・・・・・・)俺はどうすればいいのか判らず体をモジモジさせていた。中でどんなパラダイスが繰り広げられているのか・・・・・・・。もう一度、自分の胸元に目をやると、深い谷間があった。 やはり・・・・・・・溜息しか出てこない。

「えっ?!」いきなり目の前が真っ暗になる。

「ちょ、ちょっといきなり灯りを消さないでよ!」直美が怒涛の如く怒る。

「俺じゃないよ!」灯りのスイッチを探すが、全く回りの様子を確認することが出来ない。

「敵が現れたようだ、出かけるわよ!」いきなりモンゴリーの声が聞こえる。どうやら足元にいるようだ。

「急に、びっくりするじゃないか!」彼女を踏まないように、足をそっと動かす。

「直美、変身するのだ、コウも魔法衣を装着して!」モンゴリーに言われるまま、俺達は指輪に触れた。 浴室の中が眩しく光り輝き桃色の髪の少女ナオミが姿を現した。
 俺も元々変身した姿ではあったが、服装が魔法衣に変わっていた。魔法衣に変わることにより力が発揮されて、暗闇の中でも周りの様子が確認できるようになった。

「敵って、何者なの?」

「今回の敵は獣魔だ。 雑魚だがほっておくと電気を食い尽くされる。 私についてきて!」モンゴリーの後を追いかけて、外に飛び出す。宙に飛び上がると町中の電気が消えているようで辺りは真っ暗になっていた。

「この停電はその・・・・・・・獣魔って奴のせいなのか?!」俺はモンゴリーに聞く。

「獣魔は、それぞれ特徴を持っている。今回の相手は電気を吸収するのだ」
 大きな畑が一面に広がる。 そこに数機の鉄塔が立ち並んでいた。空に星は見えない。

「あそこよ!」モンゴリーが呟く。モンゴリーは示した先にある鉄塔の上が激しい光を放っていた。

「凄い、激しい光!」ナオミが目を細めた。鉄塔の下に着地すると神戸の姿があった。

「モンゴリー、遅かったわね」神戸は鉄塔の上を見上げていた。

「二人連れてきたわ、様子はどうなの?」

「まだ子供のようね。 力は弱いわ」神戸は俺達のほうを見ながら呟くと同時に、上空に掌をかざした。 掌が激しく輝いたかと思うと、激しい光が鉄塔の上目掛けて飛んでいく。

「キー!」何かに命中したようで、上空から何かが落ちてきた。

「コイツ、なんなんだよ?!」俺は落ちてきた物体を見て驚いた。
 小さな狐のような姿、体からは電気を発しているのか激しい光を発している。

「それが獣魔よ」神戸が返答した。

「きゃー! ・・・・・・・可愛いい!」ナオミが顔を真っ赤にして喜んでいる。
獣魔は目を吊り上げてこちらの様子を窺っている。神戸が再び掌を獣魔にかざし攻撃した。その攻撃を獣魔は器用にかわしていく。

「あなた達も加勢して!」神戸が叫ぶ。
 ナオミは両手をかざしてサイコキネシスで獣魔の動きを止める。 

「キー!」獣魔が動きを封じ込められてもがいている。 その姿が何故か哀れに思えた。
「ナオミさん! 上手いわ」神戸は空中で金縛りのように固まっている獣魔に攻撃を仕掛ける。

「えっ!」ナオミが神戸の行動を見て金縛りを解いた。 体が自由になった獣魔は神戸の攻撃を避けた。

「何をしているの!」神戸が叫ぶ! 次の瞬間、獣魔は激しい電撃をナオミに向かって放電した。

「危ない!」俺は身を挺してナオミを庇った。俺の体を電流が貫く。「うおおおおおー!!」

「コウ君!」

「ナオミさん! 今近づいては駄目!」神戸がナオミの手を握り、動きを制止した。
 全身を貫いた電流により俺の体は脱力感に襲われた。
 獣魔は電気を放電しきった様子でグッタリとしている。

「年貢の納め時ね」神戸が獣魔の抹殺を試みる。

「や、やめろ・・・・・・!」気がつけば俺は獣魔を抱きしめていた。

「なにをしているの! そいつは敵なのよ」神戸は苛立ちを口にした。

「コウ君・・・・・・」ナオミが心配そうな目で俺を見ている。

「コイツは怯えているんだ。 さっきの電流と一緒にコイツの心が流れてきた。助けて、助けてって・・・・・・・」この獣魔に攻撃された時に、俺はシンクロしたような感覚になった。この獣魔は突然人間界に放り出されて、右も左も解らずに泣き出しそうになっていたのだ。 まるで迷子の子供のように・・・・・・。

「でも・・・・・・敵なのよ!」神戸は歯ぎしりをしながら呟く。

「大丈夫、コイツは友達だ・・・・・・・」俺は獣魔の頭をゆっくり撫でた。

「キー」獣魔は気持ち良さそうに目を細めた。

「どうやら力の移譲が行われたようだ。 コウに電撃使いの力が備わったようだわ」唐突にモンゴリーが囁いた。なぜかこの猫が微笑んだような気がした。
 俺は自分の掌を眺めた。手の上を電気が踊っているように見えた。

「そう、判ったわ・・・・・・。今回は特別、あなたの使い魔ってところね。コウ君、あなたは少し情を捨てないと今後破滅するわよ」そう言い残すと神戸は暗闇の中に姿を消した。

「破滅・・・・・・・」俺はその言葉を噛締めた。

「キー」獣魔は俺の頬をペロペロと舐める。

「あは、コショバイよ!」自然と顔の筋肉が緩んだ。

「帰るわよ」モンゴリーがそう言うと歩き出した。

「コウ」なんだかナオミが微笑みながら俺の腕に絡み付いてきた。

「な、なんだ?」突然のナオミの行動に俺は驚いた。ナオミの胸が腕に当たる。物凄く柔らかい。

「別に、何となくね」彼女は上機嫌である。獣魔は俺の頭の上に乗っていた。彼も上機嫌のようである。

「ただいま!」直美は、家の前で変身を解いて玄関を開けた。やはり俺の変身は解けないようである。

「お帰りって、一体何処に行って・・・・・・・」そこまで言ったところで叔母さんの動きが止まった。「もしかして・・・・・・・あなたその格好で、出かけていたの?」

「えっ?!」そういえば、俺達は風呂に入っていた所で、モンゴリーに連れて行かれたのであって・・・・・・・俺は、直美の姿を見る。彼女は生まれたままの姿であった。

「いやー!!!!」直美の強烈なパンチが俺の顔面に決まった。

「なにこの子?!」愛美ちゃんのテンションが上がっている。

「こいつは・・・・・・・・」

「キーちゃんよ」直美が勝手に名前をつけていた。

「キーちゃん?」俺はその名前に少し違和感を覚えて聞きなおした。

「キー!」キーちゃんは鳴き声を上げた。どうやら本人は気に入ったようだ。
 キーちゃんは、普通の人間には姿が見えないようだ。叔母さんはその存在に全く気がつかない様子であった。俺の事が気に入ったようで、俺の肩の上が彼の指定席となった。
 愛美ちゃんが手を伸ばして頭を撫でようとするが、まだ警戒している様子であった。

「ちぇっ」愛美ちゃんは少し不服そうであった。

「あなたの使い魔ね・・・・・・・・」詩織さんはモンゴリーの説明を聞いて納得した様子であった。

「詩織! もう遅いから皆寝なさい」叔母さんが階段を上がってきた。「下の部屋に布団を敷いておいたから、コウちゃんは直美と一緒に寝てね」

「「えっ?!」」俺と直美はシンクロするように声を上げた。

「俺、いや私は、空いているその部屋で・・・・・・・」言いながら自分の部屋を指差した。

「幸太郎君が留守の間に、勝手に使ったら彼も怒るわよ。 それに男の子の部屋で寝るのは抵抗があるでしょう」叔母さんは笑っている。

「え、いや、それは・・・・・・・」直美が顔を真っ赤にしている。

「なに、それなら私と一緒に寝る?」詩織さんが腕組をしながら呟く。

「はい! はい! 愛美が一緒に寝る! 私、一緒の布団がいい!」愛美ちゃんは右手を挙手しながらはしゃいでいる。

「待って! ・・・・・・私が一緒に寝るわ!」直美が咄嗟に言葉を口にした。

「「どうぞ! どうぞ!」」すでにこのやり取りがパターン化しつつあった。
 俺は詩織さんに借りたジャージの上下を着用していた。 流石にあのネグリジェは抵抗がったので遠慮することにした。
 二つ並んだ布団に目をやる。 まるで新婚初夜の寝床のようであった。

「お母さん、解っていてやっているんじゃないよね・・・・・・・」直美は顔を赤く染めて俺の顔を見た。何故かすごく恥ずかしそうな顔をしている。

「ん? 早く寝ようぜ、今日は疲れたよ。なあ、キーちゃん」大きな欠伸をしたせいで少し涙が出た。

「キー」返答するように鳴き声を上げた。
 俺は布団の中に潜り込む。 うつ伏せに寝ると胸が邪魔なので、仰向けで眠ることにする。 キーちゃんも布団に潜り込んできた。

「この、鈍感男!」

「えっ?」彼女の言葉の意味は皆目解らなかった。

「知らない!」そう言うと直美も自分の布団に潜り込んだ。
 今日一日色々なことがあった。 俺の体は蓄積した疲労のせいもあり、目を瞑るとあっという間に眠りの底に落ちていった。
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