振り返るといつもの君がいたような気がした。僕が助けた少女は有名なシンガーソングライターだった。『君の歌と僕の夢……。』

上条 樹

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君と背中

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 あの音楽の流れる商店街に到着。この商店街には並行するように歓楽街が並んでいる。その通りをZX10Rで往復する。「畜生!どこなんだ!!」桃子の姿はどこにも見つからない。

 しばらく捜索を続けて諦めかけたその時、ラブホテルの前で揉めているカップルの姿が目に入る。独特の瓜型の腹をした中年男性が少女の手を鷲掴みにして無理やりホテルの中に連れ込もうとしている。そして、抵抗している少女は桃山桃子であった。

「見つけた!!」それはまさに奇跡のようなタイミングであろう。俺はZX10Rをホテルの目の前に停車させて飛び降りサイドスタンドを下した。

「りょ、亮ちゃん!?どうしてここに!」ヘルメットは外していないがZX10Rを見て俺である事を認識したようであった。

「桃子ちゃん!なにしてるんだよ!!」俺は桃子の腕を掴んで引き寄せる。反対の腕を握っていた男がフラフラする。

「お前!一体何を・・・・・・・!」男がそこまで言ったところで反射的にその顔面に拳をぶち込んでいた。男は桃子の腕を離してホテルの前にあったブルーのゴミ箱に激突した。俺は無言のまま、桃子を引き寄せるとZX10Rの後ろに乗せて、その場から逃走した。

 桃子は疾走するZX10Rの後ろで、俺の背中に力強くギュッとしがみついていた。

 しばらくの距離を走ってから、家の近くにある川の土手の上にZX10Rを停車させて彼女を下す。

「あははははは!亮ちゃんなにやっているのよ!可笑しい」桃子はケラケラと笑っている。まるであの出来事が無かったかのような対応であった。

「何が可笑しいんだよ!何でこんなことをやってるんよ!桃子ちゃんは何でこんな事をするんだよ!」俺は気が動転して同じような言葉を繰り返すだけであった。血が逆流して彼女に対して怒りが込み上げてくる。表情を悟られない為に、ヘルメットは被ったままにしていた。

「・・・・・・」桃子は急に押し黙ったように静かになった。

「何か言えよ!?なぜなんだ!」

「ちっ、何も知らないくせに・・・・・・。こんな事ってなんだよ!」久しぶりに桃子がこのモードに入った。急に人が変わったように機嫌が悪くなり俺の事を睨みつけている。

「こんな・・・・・・、お、男と寝ないとお前は仕事が出来ないのかよ!!」俺がその言葉を発した瞬間、彼女は俺の胸の辺りを小さなコブシで力いっぱい叩いた。

「何よ!!何も知らないくせに・・・・・・・、私の事を何も知らないくせに・・・・・・!そうよ!どうしてくれるのよ!これで芸能界に居られなくなったらどうしてくれるのよ!!責任を取ってくれるの!!」彼女は俺の胸ぐらを男のように掴み上げた。俺はその手を払いのける。

「ああ、知らねえよ!!そんな事は知りたくもない!そんな芸能界なんて糞くらえだよ!!」最近、美桜や昌子、そして作品を作ろうとする周りのスタッフ達が仕事に取り組む姿を見て、芸能界とはキラキラした世界なのだなと感じていた。

「そう・・・・・・、もう私の事はほっておいて!!」そう言い残すと彼女は逃げるように歩いていく。その表情はなぜか悲しそうに見えた。

「勝手にしろ!!」俺は再びZX10Rにまたがりエンジンをかける。

 そのまま走りだそうとしたが、やはり彼女をこのまま置き去りにしていくことは出来ない。
 結構な距離を歩いて行った桃子の前までZX10Rを走らせ停車する。「とにかく・・・・・・後ろに乗れよ」彼女にZX10Rの後ろに乗るように即す。

「・・・・・・」返答は無い。彼女は俺の言葉に反応せずに沈黙している。その瞳には少し涙が溜まっているように見える。

「早く乗れよ!置いていくぞ!」

「・・・・・・」相変わらず返答は無かった。俺も無言で首を振り、もう一度後ろに乗るように即した。

 彼女は無言のまま、ゆっくりとZX10Rの後ろに跨った。こんな時になんだが、彼女のミニスカートの中の白い下着がバックミラーに映り少しドギマギする。「もう、イヤらしいわね!」言いながら俺のヘルメットをパチンと叩いた。

「うるせー!み、見てねえよ!!」俺は明らかにわかる嘘を吐きながらZX10Rを走らせた。桃子はもう一度俺の背中に強くしがみついた。揺れているのが彼女の震えなのかZX10Rの振動なのかは今の俺には判らなかった。
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