振り返るといつもの君がいたような気がした。僕が助けた少女は有名なシンガーソングライターだった。『君の歌と僕の夢……。』

上条 樹

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君と覆面

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「昌子・・・・・・、大丈夫か?」俺はマットの上に脳天から落ちたように見えた昌子の身体を心配した。

「大丈夫、大丈夫・・・・・・、ずっと受け身を教えてもらっていたから・・・・・・、でも一瞬だけ星が飛んだわ」昌子はクスクス笑いながら、ショートケーキを頬張《ほおば》る。

「昌子ちゃん、本気でプロレスやってみる気ない?私、きっとあなたを一流のレスラーにしてあげるわ」有紀は恋する乙女のような目でアプローチしている。

 スパーリングを終えてから俺達は、スタジオの近くの喫茶店に移動していた。ずいぶん疲れたのか昌子が甘いものが食べたいと言い出したので、四人で場所を変えたという事だ。

「でも昌子、すげえな!あんなに動けるなんて正直驚いたよ」俺は思ったままを口にした。

「いやあ・・・・・・・」昌子は照れ臭そうに頭を掻いている。なぜかその横で有紀が不機嫌そうな顔をしている。

「ちょっと、なに君は・・・・・・・、馴れ馴れしい。綾ちゃんの彼氏なら気安く私の昌子ちゃんに話しかけないでよね」有紀は大きく頬を膨らませて怒っているようであった。いや、俺別に綾の彼氏と違うし・・・・・・。隣の綾を見ると嬉しそうに頬を染めてコーヒーを飲んでいる。否定せんかい!

「いや!俺、綾さんの恋人じゃねえし・・・・・・・」

「はあ?うそでしょ。綾が好きでも無い人の前で仕事以外でスカート履くわけないじゃん!」

「ちょ、ちょっと!有紀ちゃん!!」珍しく綾が動転している。そうだ、今日はきっとズボンを全部洗濯していたから、スカートしかなかったんだ。

「ふーん、そうなんだ・・・・・・、ところで最近、亮介は社長の事をって呼ぶようになったよね・・・・・・・」スプーンを口に銜えて昌子は俺の顔を少し睨みつける。なに止めて、俺を石に変えるつもりなの・・・・・・・。

「そうね、綾が男に下の名前で呼ぶ事を許すって、相当よね」有紀は腕組をして椅子の背もたれに体重を移動する。

「い、いや・・・・・・・、そんなことないよ。お父さんだって、親戚のお兄ちゃんだって・・・・・・・、私の事を綾って呼ぶし・・・・・・・」なにそれ、男の部類に入るの。いや、たしか俺が自発的に言ったのではなくて、そう呼べと言われたような気がするのだが・・・・・・・。

「綾はさあ、そいつで我慢してさぁ。昌子ちゃんは私に頂戴よ」結構しつこいなこの女。俺は人知れず舌打ちをしそうになった。

「昌子君はどうなんだ。タレントとプロレスラーどちらを選ぶんだ」選択を迫られる昌子。いや、どちらも昌子の選んだ道じゃないでしょ。俺はなぜか少し理不尽さを感じた。

「いや・・・・・・・、初めは無理やりプロレスって感じでしたけど・・・・・・・。なんだか楽しくなってきたような気もするし・・・・・・・・」昌子は頬杖をついて少し考えているようだ。

「お、おい昌子君!困るよ!!」綾が少し慌てている。そりゃ彼女を映画のヒロインにする為に、修行を兼ねて預けたのに横取りされては元も子も無いと言うところであろう。

「でも、せっかく亮介と同じ仕事が出来るようになったんだから・・・・・・・、タレント続けたいかな」昌子は何かを試すかのように俺の顔を見た。彼女の真意はよく解からなかった。

「そんなあ・・・・・・・、この男は昌子ちゃんの一体何なんだ・・・・・・・、まさか!?」有紀は俺に答えを求めるように見た。

「あっ、ただの友達です・・・・・・・、痛て!!」いきなり脛に激痛を感じた。どうやら目の前に座る昌子が俺の足を蹴ったようだ。

「ふーん、だいたいの関係は解かったよ・・・・・・、でももったいない。タレントを続けながらプロレスもって訳ではどうだろう?」いや、素人の俺が考えてもそれは大変だろう。どちらも片手間で出来るような職業ではない。

「でも、完全にそのイメージがついてしまうのもな・・・・・・・」綾はやはり躊躇しているようだった。

「それなら、前座でいいから・・・・・・・、正体、いや顔が解からないように覆面レスラーでいこう。それなら問題ないだろう?昌子ちゃんも少しは、プロレスに興味を持っているみたいだし・・・・・・・」有紀はおねだりする子供のような顔で昌子を見つめた。

「うーん、そうですね・・・・・・・。やってみようかな・・・・・・・」どうやら満更でもない様子であった。

「そうね。今後もアクション系の配役があるかもしれないから、格闘とかは出来るようにしといた方がいいかもしれないわね・・・・・・・・」綾は渋々自分に言い聞かせるように呟いた。

「やったー!決まりね!!じゃあ私が可愛い昌子ちゃんに似合うマスクとコスチューム探しておくわね。キャラづくりも任せてね」有紀は満足した顔をして目の前のケーキにかぶりついた。

 いや、何だか解からないが俺の頭の中を不安という名の列車が通過していった。


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