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面 影

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 まどかにデートをすっぽかされた日から数日が過ぎた。

 雨が降ると、やはり無意識にまどかの事を思い出す。

 一応失恋した俺は彼女への想いを振り払う如く頭をかきむしった。

 それでも、もう一度だけでもいいから彼女に会いたい……。

 自分がこれ程、未練がましい男であったことを初めて知る。

 まどかととの破局のあと、反比例するように幸恵との仲はそれなりに良好ではある。

 それでも、日常会話を交わす位のレベルで一般の夫婦と比較すると、ほぼ会話が無いに等しいかもしれない。

「あら、これ何?」幸恵は俺の机に無造作に置いていた両親の写真を手にしていた。

 俺は横から覗き込むように写真を見た。幸恵は少し、鬱陶《うっとう》しそうに頭を傾ける。

 その仕草に多少腹がたったが、ここから喧嘩に発展するのも憂鬱《ゆうつ》なので触れないことにした。

「ああ、それはこの間、実家に行った時に持って帰ってきたんだ……」改めて見た両親の写真の母に俺は釘付けになった。

「似ている……」絶句する俺をよそに、幸恵の興味は写真から遠退いたようであった。テレビの韓国ドラマに、興味は移っていた。

写真に写る微笑んだ母の顔。

歳こそ少し上のようだが、あの少女、まどかに瓜二つであった。たしか、母が俺の父親と結婚をしたのは19歳の頃だと聞いている。

 ということは、この写真に写った母はまどかより2つ、3つ上というところか。

「どうしたの?」幸恵は不思議そうに、俺の様子を伺っていた。テレビの画面にはコマーシャルが流れている。

「い、いや別に……なんでも無い」誤魔化すように俺は呟いた。
 幸恵にまどかの話をする気にはなれなかった。
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