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7.(二宮side)

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僕は沢山の人間を見てきた。

いや、正確に言うと
沢山のきたない人間を。

僕が名家の子供だと分かると、すぐに態度を変え、媚を売る人間。
僕の容姿を、気色悪い目で見てくる人間。
嘘をついて、僕に近づこうとする人間。

そんな人間を見てると、とても吐き気がした。

僕を見る目。平気で嘘を吐こうとする口。差し出してくる手。
全てが気持ち悪かった。

そんなとき、きれいなものをみると心が癒やされた。

庭に咲いている花。花のみつを吸う蜂。
木にとまっている鳥。

自然の中にいるきれいなものたちは、僕のことを気にせず、そこにいる。ましてや僕に話しかけたりしない。
嘘をつかないし、気色悪い目で見られることもない。

そんなきれいなものが僕は好きだった。




そして僕は、高校生になった。

入学式の日。
僕の周りには人だかりができていた。

二宮家に近づこうと話しかける者。
親に言われて話しかけている者。
興味本位で話しかけている者。

正直、鬱陶しかった。

しかし、僕は愛想良く振る舞う。
僕もきたない人間の仲間入りをしていた。

二宮家のイメージを壊さないために…
いや…僕の立ち位置を壊さないために。

僕はそんな僕が、とても嫌いだった。



そんな僕に、一人の天使が現れた。

「新入生代表挨拶、三上薫。」
「はい!」

名前を呼ばれ、とても透き通る声で返事をした天使は、肩まである髪をサラリとなびかせ、壇上へと上った。

その姿は凛々しく、とても美しかった。


そんな天使は、僕の隣の席だった。

(天使が隣にいる…!やばい、どうしよう…)
内心、とてもドキドキしていた。


そんなとき、自己紹介をすることになった。

(天使に、僕を知ってもらえるチャンスだ!)
天使に少しでも僕のことを覚えてほしくて、インパクトのある自己紹介をしようとした。
しかし、全く思いつかず僕の順番となった。

「二宮千夜です。きれいなものが好きです!よろしくお願いします!」

何も考えず、勢いで言った。

(何、意味のわからないことを言っているんだ…きれいなものが好きって、幼稚園児かよ!)
自分の言った言葉に後悔しながら着席すると、周りがヒソヒソと話し始めた。

「あれが二宮家の末っ子?」
「えー、あれが?」

(全部聞こえてるんだけど…)

僕は天使の反応が気になり、ちらっと横を見た。

「くすっ…」

天使はコソコソ話をするわけでも、ジロジロと見るわけでもなく、静かに笑っていた。

天使に笑ってもらえただけで嬉しくなった。



そして、自己紹介が天使の番になった。

「三上薫です。食べることが好きです!特に甘いものが大好きです!よろしくお願いします!」

天使は僕の言い方を真似したように、自分の好きなものを言っていた。

そして言い終わったあと、天使の瞳は僕の方へと向けられた。
それは、きれいでとても真っ直ぐな瞳だった。

僕は目があった瞬間驚き、次の瞬間、無意識のうちに笑っていた。

久しぶりに、自然に笑っていた。




「三上くん!隣の席の二宮です。これからよろしくね。」

ホームルームが終わって、僕は天使に近づきたくて話しかけた。

「三上です!こちらこそ、よろしくね!」

天使はそう言って、にこりと微笑んだ。
とてもきれいな笑顔だった。

僕も天使に向けて、ニコリと笑った。
天使の前だと自然と笑える自分がいた。

「それじゃあ、僕は用事があるから帰るね。明日いっぱい話したいな!それじゃあ、ばいばい!」
天使はそう言って鞄をからった。

(「明日いっぱい話したいな!」なんて、明日も話せるんだ!)

とても嬉しく思いながら、天使の背中を見つめる。
すると天使は、何かを思い出したかのようにくるりと後ろを向くと、僕のほうを見た。

「きれいなものが好きって言ってたけど、二宮くんが一番きれいだと思うよ!それじゃあ、ばいばい!」

そう言って、教室を出ていった。

(えっ…天使からきれいって言われた…)

「…っ…やばい…やばすぎる。」

自分の顔がどんどん熱くなっているのが分かる。その顔を冷ますように手を添えた。


『二宮くんが一番きれいだと思うよ!』

突然言われたあの言葉。
僕はきれいじゃないよ。汚い人間だよ。

一番きれいなのは…
「三上くんの方だよ…」

誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


天使のようなきれいな人間になりたい。

そのためにも、僕の目標として、道標として、三上くん、あなたは今のままでいてください。

今の天使のようなままで。




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