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十三話
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「ハァ~。これから何しよっかな…」
三日月に頼まれて家を出たはいいが、これといっていく当てもない。目的もなくとぼとぼと昼の街を歩くのも自販機で缶コーヒーを購入し、ベンチに腰掛けた。
コーヒーを一口飲んで前に向き直ると、その光景は初めて見たもののように思えた。
街中で忙しそうにすたすたと動いているの中で自分だけが世界から切り離されたような妙な感覚だった。
俺も数週間前までは完全に向こう側の人間だった。そこから三日月のおかげで抜け出すことができた。それについてはとても感謝をしているが、今のようにふとした瞬間に向こう側に疎外感や寂しさを感じた。
ちらっと腕時計に目をやる。思ったよりも時間は過ぎていなかった。向こう側の人間と違って俺の時間はゆっくりと過ぎていく。
______________________________________
缶コーヒーの中身がなくなってきたころに俺は見覚えのある人物に気が付いた。
「あのー、先輩、俺ですよ。覚えてますか?」
俺は後ろから先輩の肩を叩いて声を掛けた。
先輩は振り向くとすぐに俺のことを分かったようだった。
「あれ?後輩君だよね?あれからいきなり会社辞めてびっくりしたよ。」
振り返った先輩は俺が会社勤めをしていたころとは印象が全く違っていて、目の下の大きなクマやよれよれの服を着て限界まで働いていた先輩ではなく、きちっと女性用のスーツを着こなし、化粧もしっかりとしていて、凄腕のキャリアウーマンといった感じだった。
「後輩君は会社辞めて今何をやっているの?てかその格好、ちゃんと働いているの?」
先輩は俺の私服を指さして言った。
先輩がそう思うのも無理はないだろう。こんな昼間に部屋着の延長のような格好でいたらだれでもそう思うはずだ。
「今はその…働いてなくてですね。ははは…」
俺は乾いた笑みを浮かべた。
「それはいいとして、先輩はどうしたんですか?そんなにきちっとした格好して、僕と一緒に働いていた時はそんな恰好はしなかったのに。」
とりあえず俺が今無職なのを疲れると嫌なので話題を先輩のことに移した。
「私ね、あの会社辞めたの。あなたが会社を辞めて冷静になったわ。なんで私あんなところに勤めてるんだろうってね。別に働かなくても生きていくことはできるのに。」
「え?そうなんですか?」
「今のは忘れて頂戴。それで私はもう一度就職活動をやり直そうかと思ってね。だからきちっとした格好をしてるのよ。」
「そうなんですね。」
「それでなんだけどね、今日はもうやることも終わったしさ、私の家に来ない?私も君に会えて嬉しいしさ。」
「俺は良いですよ。先輩の家ってどこの辺なんですか?」
「ここから結構近いよ。歩いて数分。」
「俺も暇なんでお邪魔しますね。」
先輩の家に二人で歩いて向かった。
「ここよ。入ってどうぞ。」
先輩の家は意外なことに俺が以前住んでいたアパートの隣のアパートだった。
「お邪魔しますね。」
先輩の部屋は片付いているというよりもがらんとしていて女性の部屋というイメージから少しかけ離れたものだった。
「その辺に座って待っててね。なんか持ってくるからね。」
言われた通りに地べたに座って待っていると、先輩がせんべいと紅茶という何とも言えない組み合わせの物を持ってきた。
「なんかごめんね。こっちが誘っておいてろくなものも出さなくて。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺は紅茶もせんべいも好きですよ。」
「それならよかった。」
出された紅茶を一口飲んでみる。やっぱりあまり紅茶は口に合わないな。あれ?なんか頭がぼーっとしてきたな…
「すいません、先輩。なんか眠たくなってきました…」
バタン、そこで俺の意識は切れた。
三日月に頼まれて家を出たはいいが、これといっていく当てもない。目的もなくとぼとぼと昼の街を歩くのも自販機で缶コーヒーを購入し、ベンチに腰掛けた。
コーヒーを一口飲んで前に向き直ると、その光景は初めて見たもののように思えた。
街中で忙しそうにすたすたと動いているの中で自分だけが世界から切り離されたような妙な感覚だった。
俺も数週間前までは完全に向こう側の人間だった。そこから三日月のおかげで抜け出すことができた。それについてはとても感謝をしているが、今のようにふとした瞬間に向こう側に疎外感や寂しさを感じた。
ちらっと腕時計に目をやる。思ったよりも時間は過ぎていなかった。向こう側の人間と違って俺の時間はゆっくりと過ぎていく。
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缶コーヒーの中身がなくなってきたころに俺は見覚えのある人物に気が付いた。
「あのー、先輩、俺ですよ。覚えてますか?」
俺は後ろから先輩の肩を叩いて声を掛けた。
先輩は振り向くとすぐに俺のことを分かったようだった。
「あれ?後輩君だよね?あれからいきなり会社辞めてびっくりしたよ。」
振り返った先輩は俺が会社勤めをしていたころとは印象が全く違っていて、目の下の大きなクマやよれよれの服を着て限界まで働いていた先輩ではなく、きちっと女性用のスーツを着こなし、化粧もしっかりとしていて、凄腕のキャリアウーマンといった感じだった。
「後輩君は会社辞めて今何をやっているの?てかその格好、ちゃんと働いているの?」
先輩は俺の私服を指さして言った。
先輩がそう思うのも無理はないだろう。こんな昼間に部屋着の延長のような格好でいたらだれでもそう思うはずだ。
「今はその…働いてなくてですね。ははは…」
俺は乾いた笑みを浮かべた。
「それはいいとして、先輩はどうしたんですか?そんなにきちっとした格好して、僕と一緒に働いていた時はそんな恰好はしなかったのに。」
とりあえず俺が今無職なのを疲れると嫌なので話題を先輩のことに移した。
「私ね、あの会社辞めたの。あなたが会社を辞めて冷静になったわ。なんで私あんなところに勤めてるんだろうってね。別に働かなくても生きていくことはできるのに。」
「え?そうなんですか?」
「今のは忘れて頂戴。それで私はもう一度就職活動をやり直そうかと思ってね。だからきちっとした格好をしてるのよ。」
「そうなんですね。」
「それでなんだけどね、今日はもうやることも終わったしさ、私の家に来ない?私も君に会えて嬉しいしさ。」
「俺は良いですよ。先輩の家ってどこの辺なんですか?」
「ここから結構近いよ。歩いて数分。」
「俺も暇なんでお邪魔しますね。」
先輩の家に二人で歩いて向かった。
「ここよ。入ってどうぞ。」
先輩の家は意外なことに俺が以前住んでいたアパートの隣のアパートだった。
「お邪魔しますね。」
先輩の部屋は片付いているというよりもがらんとしていて女性の部屋というイメージから少しかけ離れたものだった。
「その辺に座って待っててね。なんか持ってくるからね。」
言われた通りに地べたに座って待っていると、先輩がせんべいと紅茶という何とも言えない組み合わせの物を持ってきた。
「なんかごめんね。こっちが誘っておいてろくなものも出さなくて。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺は紅茶もせんべいも好きですよ。」
「それならよかった。」
出された紅茶を一口飲んでみる。やっぱりあまり紅茶は口に合わないな。あれ?なんか頭がぼーっとしてきたな…
「すいません、先輩。なんか眠たくなってきました…」
バタン、そこで俺の意識は切れた。
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