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魔女のフルコース
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ジェイリーン邸に招待状が届いた。宛名は家族の皆様へ。差出人はミザリーという名のシェフだと書いてある。
『光る小石を辿ってお越しください』
この言葉に娘たちは飛び跳ねた。
『お代は一切いりません』
この言葉に妻は頷いた。
『最高の料理をお出しします』
この言葉に夫は襟を正した。
テーブル席はひとつ。四つの椅子にそれぞれが腰掛ける。
「お飲み物は何になさいますか?」
案内人がジェイリーン家族に問うた。メニューをまだもらっていないと妻が言うが、この店ではメニューは無いのだとすぐに答えられる。
「何でもご用意致します」
そして本当に家族が頼んだものがテーブルの上に並んだ。
ワルツ産発酵ビール、オレンジジュース、白桃のフラッペ、赤ワインは年代もぴたりと当ったものが出される。
「これは魔法か何かかな?」
「ご覧になりますか?」
案内人の計らいにて席を立つのは夫だ。二人の娘と妻は赤ワインの話で沸いていた。
緑の若葉と黄色の小花を模した飾り窓がある。その奥が厨房であると案内され、夫は両手を擦り合わせながら部屋の奥へと消えていく。
「お待たせいたしました。食前のサラダです」
大ぶりの焼き野菜が乗った食べ応えのありそうなサラダだ。コース料理によくある皿の真ん中に少し盛ってあるのとは違う。
これを見て娘たちは嫌な顔をした。野菜が好きではないという理由であまり手を付けなかった。ドレッシングも舌が受け付けないのだと嘆いている。
妻はこのサラダを気に入った。しかし食べ続けると胃がもたれて飽きも来た。
「メイン料理は何なのですか?」
「まあそう焦らずに。スープでお口直しなどいかがです?」
スープの出汁には種類があるそうだ。
「奥様の好みに合わせましょう」
厨房は裏手に。赤い夕日と紺色の三角屋根を模した飾り窓が目印だ。妻は立ち上がって娘たちに軽く手を振ってから、その部屋へと入っていった。
「こちら、スープとパンになります」
透明の金色に輝くスープからふわりと湯気が立つ。それは娘たちにとって大好きな味だった。パンも一番気に入ったと言う。
「ねえ、お姉ちゃんがひとつ貰ってあげよっか?」
「ダメよ。私のパンなんだから」
妹の方は取られまいと急いで最後のパンを口に入れた。姉は落ち込む前に賢く案内人を呼び寄せる。
「スープとパンをもっと食べたいわ」
「申し訳ございません。こちらは数に限りがございます」
「おかしいじゃない。何でも用意するって言ってたのに」
「左様ですが……そうだ、当店はメインディッシュが控えております。よろしければ少し大きめのものをご用意しましょうか」
姉は、そんなものは欲しくないと突っぱねていた。しかし案内人が耳打ちする。
「お客様だけ特別です。どうぞご自身で良いものを選び取ってくださいませ」
それを聞いたら姉は立ち上がった。白い鳥と水色の宝石を模した飾り窓を案内人が案内している。扉の向こうが厨房だ。
「お待たせいたしました。メインディッシュです」
出された皿には大きな魚を丸ごと使用した料理が乗っている。妹はひとりでこの皿を見てから、誰も手を付けようとしないので食べ方が分からなかった。
「あ、あの」
「はい。いかがしましたか?」
「お父さんとお母さんは……」
テーブルに着席するのは彼女のみ。空いた席には手付かずの料理が下げられずにそのまま並べられている。
焼き野菜に油をべったりかけたサラダ、塩と野菜の皮を煮込んだ薄いスープと硬いパン、丸ごと魚の揚げ焼き。メインディッシュには生花が添えられて美しく華やかだ。
「お客様、家族の皆様は厨房にいますよ。一緒に行きましょうか?」
案内人は厨房の方向を教えている。茶色の大木に紫の蝶を模した飾り窓がある。その奥に行けば、父も母も姉も居ると伝えている。
妹はここで待つと言った。ならば案内人は気を効かせた。
「先にデザートをお持ちいたしましょう」
「……あれ?」
案内人は誰もいなくなったテーブルに小さなアイスクリームを置いた。これにてコース料理は全て揃ったというのに、いつのまにかお客は誰も居なくなってしまったようだ。
これではせっかくの料理に意味がない。世界一のシェフ『ミザリー』が腹を立ててしまうじゃないか。
案内人は店の扉を開けて、お客が帰ってしまったのかを確認した。扉から大通りへ光る小石が道を作っていて、小雨がパラパラ降り注いでいる夜だ。
近くにお客の傘が四つ、まだ扉のところにかけてあった。ということは帰ってしまったわけではない。
「どうしたことか。また新しいお客を用意しなくちゃならない」
店の入り口で力が抜けていると、小道の向こうで見知らぬ家族が通り過ぎていく。
(((ありがとうございました!!
(((長編小説『最後の女王』毎週[月火]の2話更新
(((そちらもよろしくお願いいたします!!
Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
『光る小石を辿ってお越しください』
この言葉に娘たちは飛び跳ねた。
『お代は一切いりません』
この言葉に妻は頷いた。
『最高の料理をお出しします』
この言葉に夫は襟を正した。
テーブル席はひとつ。四つの椅子にそれぞれが腰掛ける。
「お飲み物は何になさいますか?」
案内人がジェイリーン家族に問うた。メニューをまだもらっていないと妻が言うが、この店ではメニューは無いのだとすぐに答えられる。
「何でもご用意致します」
そして本当に家族が頼んだものがテーブルの上に並んだ。
ワルツ産発酵ビール、オレンジジュース、白桃のフラッペ、赤ワインは年代もぴたりと当ったものが出される。
「これは魔法か何かかな?」
「ご覧になりますか?」
案内人の計らいにて席を立つのは夫だ。二人の娘と妻は赤ワインの話で沸いていた。
緑の若葉と黄色の小花を模した飾り窓がある。その奥が厨房であると案内され、夫は両手を擦り合わせながら部屋の奥へと消えていく。
「お待たせいたしました。食前のサラダです」
大ぶりの焼き野菜が乗った食べ応えのありそうなサラダだ。コース料理によくある皿の真ん中に少し盛ってあるのとは違う。
これを見て娘たちは嫌な顔をした。野菜が好きではないという理由であまり手を付けなかった。ドレッシングも舌が受け付けないのだと嘆いている。
妻はこのサラダを気に入った。しかし食べ続けると胃がもたれて飽きも来た。
「メイン料理は何なのですか?」
「まあそう焦らずに。スープでお口直しなどいかがです?」
スープの出汁には種類があるそうだ。
「奥様の好みに合わせましょう」
厨房は裏手に。赤い夕日と紺色の三角屋根を模した飾り窓が目印だ。妻は立ち上がって娘たちに軽く手を振ってから、その部屋へと入っていった。
「こちら、スープとパンになります」
透明の金色に輝くスープからふわりと湯気が立つ。それは娘たちにとって大好きな味だった。パンも一番気に入ったと言う。
「ねえ、お姉ちゃんがひとつ貰ってあげよっか?」
「ダメよ。私のパンなんだから」
妹の方は取られまいと急いで最後のパンを口に入れた。姉は落ち込む前に賢く案内人を呼び寄せる。
「スープとパンをもっと食べたいわ」
「申し訳ございません。こちらは数に限りがございます」
「おかしいじゃない。何でも用意するって言ってたのに」
「左様ですが……そうだ、当店はメインディッシュが控えております。よろしければ少し大きめのものをご用意しましょうか」
姉は、そんなものは欲しくないと突っぱねていた。しかし案内人が耳打ちする。
「お客様だけ特別です。どうぞご自身で良いものを選び取ってくださいませ」
それを聞いたら姉は立ち上がった。白い鳥と水色の宝石を模した飾り窓を案内人が案内している。扉の向こうが厨房だ。
「お待たせいたしました。メインディッシュです」
出された皿には大きな魚を丸ごと使用した料理が乗っている。妹はひとりでこの皿を見てから、誰も手を付けようとしないので食べ方が分からなかった。
「あ、あの」
「はい。いかがしましたか?」
「お父さんとお母さんは……」
テーブルに着席するのは彼女のみ。空いた席には手付かずの料理が下げられずにそのまま並べられている。
焼き野菜に油をべったりかけたサラダ、塩と野菜の皮を煮込んだ薄いスープと硬いパン、丸ごと魚の揚げ焼き。メインディッシュには生花が添えられて美しく華やかだ。
「お客様、家族の皆様は厨房にいますよ。一緒に行きましょうか?」
案内人は厨房の方向を教えている。茶色の大木に紫の蝶を模した飾り窓がある。その奥に行けば、父も母も姉も居ると伝えている。
妹はここで待つと言った。ならば案内人は気を効かせた。
「先にデザートをお持ちいたしましょう」
「……あれ?」
案内人は誰もいなくなったテーブルに小さなアイスクリームを置いた。これにてコース料理は全て揃ったというのに、いつのまにかお客は誰も居なくなってしまったようだ。
これではせっかくの料理に意味がない。世界一のシェフ『ミザリー』が腹を立ててしまうじゃないか。
案内人は店の扉を開けて、お客が帰ってしまったのかを確認した。扉から大通りへ光る小石が道を作っていて、小雨がパラパラ降り注いでいる夜だ。
近くにお客の傘が四つ、まだ扉のところにかけてあった。ということは帰ってしまったわけではない。
「どうしたことか。また新しいお客を用意しなくちゃならない」
店の入り口で力が抜けていると、小道の向こうで見知らぬ家族が通り過ぎていく。
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