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第一幕 アイスクリームスプーン(視点:グラニータ)
5人の女たち2
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私とドンドゥルマとの会話の中に堂々と入ってきた女性。次はこんな言葉を投げかけている。
「視野が狭いのね。事業家のご令嬢なのに数字が苦手でやっていける? あと、話し相手も選ぶべきじゃない?」
「……」
苦い顔になるのはドンドゥルマ。それから私。決してこの女性は、私を助けたわけじゃなかった。
ドンドゥルマより少し高い位置から見下ろし、それから私のことも上から下まで眺めて言う。
「はぁ……皆おんなじ格好をしているんだもの。そういう仮装パーティーなのかと思ったわ。ドレスコードにしては品が無いじゃない?」
「何ですって!?」
「あら、ドンドゥルマ。怒らないで? あなたにはピッタリよ。自社製のものが大好きだものね。そのイヤリングも靴も鞄も、あなた以外入手することが出来ない貴重品。素晴らしいですわ。周りによくよく見せびらかして。あなたのご家族もさぞ喜んでいらっしゃるでしょう。……でも、場所は劇場じゃなくて、社交パーティーに出掛けた方がもっと喜ばれるとは思うけれど」
ふん、と鼻を鳴らし、言葉巧みにドンドゥルマを黙らせることが出来るこの女性。その後ろにもうひとり、また別の女性が居るのを見逃すところだった。
「ね、ねえ、ソルベ。その辺りにしない?」
控えめに顔を出す彼女はファールーデ。薔薇の刺繍を施した伝統的なドレスを身に付けている。
彼女のヘアセットのリボンには、私やドンドゥルマと同じピシタチオの緑を付けていた。あまり裕福でもないファールーデが、ここはお金を出して手に入れた流行りの色だ。
そして。私を助けてくれたようで実は全くそうじゃないソルベ。彼女の衣服はというと、ピシタチオによる緑の要素は全く取り入れない。
爽やかな水色を基調に、ポイントカラーで黄色を合わせた、シースルーとシルクであつらえた大人っぽいシルエット。奇抜で新しいスタイルだと一部の女性の間で早くも話題に上がっている。
ソルベは自身のブティックも構えていて、こうなることは計算通りのようだ。同じ事業家として背比べをするドンドゥルマとソルベは秘かに燃えていた。
その影でファールーデはちょこまかと動いた。
「あ、あのね。グラニータとドンドゥルマ。ソルベはちょっと酔っているだけで本心で言っているんじゃないの。ね? そうよね、ソルベ?」
水色の裾を持ったファールーデだったけど、か弱い手はソルベに楽々振り落とされてしまう。
「本心ですって? 私、酔ってしまうと嘘が下手になる性格なのよね」
「ソルベ、あなたね!!」
「あらあら、怒ると頬のシワが残るわよ? ドンドゥルマ」
ソルベとドンドゥルマは相性が悪い。まるでお互い正反対の素材で出来ているみたいに。
言い合う二人をすり抜けて、ファールーデが私のところに寄って来た。
「グラニータ。ごめんなさいね……」
ファールーデは優しい女性だ。
二人が言い合うのも自分のせいだって落ち込んでいる。
「ううん。私は何とも思わないわ。ピシタチオの色は綺麗で好きだし、ファールーデのリボンもとっても可愛らしいと思うの」
「あ、ありがとう。わ、私ってみんなからよく地味だって言われるから、少しでも馴染みたくって。えへへ」
するとファールーデは辺りをキョロキョロと見て気にした。それから私に耳打ちするために背伸びをする。
「リ、リーデッヒ様も可愛いって思ってくれるかしら?」
「……え?」
ファールーデはそれ以上は話さないでいて、私の目をただ見つめて返事を待たれた。
リーデッヒがファールーデを褒めるですって!? ……こんな時、ドンドゥルマやソルベなら、ズバッと断りの言葉を刺すことが出来そうだけど。
「そ、そうね……。きっと思ってくれると思うわ」
「本当!? わぁ、グラニータ、ありがとう!」
「う、うん……」
何を言っているの!? リーデッヒが可愛いと思う女性は私ひとりだけよ! ……なんて私はドンドゥルマみたいに堂々と叫ぶことが出来ない。ソルベみたいに賢くなって、愛情は平等だとか上手に言い繕うことも。
「ねえソルベ、聞いて! グラニータがね!」
子供のようにソルベの裾を引き、さっき私が苦し紛れにした施しを、とても嬉しそうにソルベに流しているファールーデ。
もちろんソルベは話を聞いても真に受けない。
氷のように冷ややかな視線は、ファールーデのことよりも、軽口を言ってしまう私のことを見ただろう。さらに軽蔑した瞳はドンドゥルマからも似たような視線を浴びせられた。
今この瞬間、もっともこの中で私が愚か者だわ……。
(((次話は来週月曜17時に投稿します
Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
「視野が狭いのね。事業家のご令嬢なのに数字が苦手でやっていける? あと、話し相手も選ぶべきじゃない?」
「……」
苦い顔になるのはドンドゥルマ。それから私。決してこの女性は、私を助けたわけじゃなかった。
ドンドゥルマより少し高い位置から見下ろし、それから私のことも上から下まで眺めて言う。
「はぁ……皆おんなじ格好をしているんだもの。そういう仮装パーティーなのかと思ったわ。ドレスコードにしては品が無いじゃない?」
「何ですって!?」
「あら、ドンドゥルマ。怒らないで? あなたにはピッタリよ。自社製のものが大好きだものね。そのイヤリングも靴も鞄も、あなた以外入手することが出来ない貴重品。素晴らしいですわ。周りによくよく見せびらかして。あなたのご家族もさぞ喜んでいらっしゃるでしょう。……でも、場所は劇場じゃなくて、社交パーティーに出掛けた方がもっと喜ばれるとは思うけれど」
ふん、と鼻を鳴らし、言葉巧みにドンドゥルマを黙らせることが出来るこの女性。その後ろにもうひとり、また別の女性が居るのを見逃すところだった。
「ね、ねえ、ソルベ。その辺りにしない?」
控えめに顔を出す彼女はファールーデ。薔薇の刺繍を施した伝統的なドレスを身に付けている。
彼女のヘアセットのリボンには、私やドンドゥルマと同じピシタチオの緑を付けていた。あまり裕福でもないファールーデが、ここはお金を出して手に入れた流行りの色だ。
そして。私を助けてくれたようで実は全くそうじゃないソルベ。彼女の衣服はというと、ピシタチオによる緑の要素は全く取り入れない。
爽やかな水色を基調に、ポイントカラーで黄色を合わせた、シースルーとシルクであつらえた大人っぽいシルエット。奇抜で新しいスタイルだと一部の女性の間で早くも話題に上がっている。
ソルベは自身のブティックも構えていて、こうなることは計算通りのようだ。同じ事業家として背比べをするドンドゥルマとソルベは秘かに燃えていた。
その影でファールーデはちょこまかと動いた。
「あ、あのね。グラニータとドンドゥルマ。ソルベはちょっと酔っているだけで本心で言っているんじゃないの。ね? そうよね、ソルベ?」
水色の裾を持ったファールーデだったけど、か弱い手はソルベに楽々振り落とされてしまう。
「本心ですって? 私、酔ってしまうと嘘が下手になる性格なのよね」
「ソルベ、あなたね!!」
「あらあら、怒ると頬のシワが残るわよ? ドンドゥルマ」
ソルベとドンドゥルマは相性が悪い。まるでお互い正反対の素材で出来ているみたいに。
言い合う二人をすり抜けて、ファールーデが私のところに寄って来た。
「グラニータ。ごめんなさいね……」
ファールーデは優しい女性だ。
二人が言い合うのも自分のせいだって落ち込んでいる。
「ううん。私は何とも思わないわ。ピシタチオの色は綺麗で好きだし、ファールーデのリボンもとっても可愛らしいと思うの」
「あ、ありがとう。わ、私ってみんなからよく地味だって言われるから、少しでも馴染みたくって。えへへ」
するとファールーデは辺りをキョロキョロと見て気にした。それから私に耳打ちするために背伸びをする。
「リ、リーデッヒ様も可愛いって思ってくれるかしら?」
「……え?」
ファールーデはそれ以上は話さないでいて、私の目をただ見つめて返事を待たれた。
リーデッヒがファールーデを褒めるですって!? ……こんな時、ドンドゥルマやソルベなら、ズバッと断りの言葉を刺すことが出来そうだけど。
「そ、そうね……。きっと思ってくれると思うわ」
「本当!? わぁ、グラニータ、ありがとう!」
「う、うん……」
何を言っているの!? リーデッヒが可愛いと思う女性は私ひとりだけよ! ……なんて私はドンドゥルマみたいに堂々と叫ぶことが出来ない。ソルベみたいに賢くなって、愛情は平等だとか上手に言い繕うことも。
「ねえソルベ、聞いて! グラニータがね!」
子供のようにソルベの裾を引き、さっき私が苦し紛れにした施しを、とても嬉しそうにソルベに流しているファールーデ。
もちろんソルベは話を聞いても真に受けない。
氷のように冷ややかな視線は、ファールーデのことよりも、軽口を言ってしまう私のことを見ただろう。さらに軽蔑した瞳はドンドゥルマからも似たような視線を浴びせられた。
今この瞬間、もっともこの中で私が愚か者だわ……。
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