クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

文字の大きさ
60 / 172
Ⅰ.ネザリア王国

決戦2

しおりを挟む
 中は明かりさえも付いていない無人であった。互いに背を預け合い、リュンヒンは先程の兵士二人を警戒しながら後退し、俺は部屋内へ進みながら辺りを見回した。
 戸棚にヤツが好んで飲んでいた葡萄酒の瓶が目に入った。しかしそれ以外は肖像画も家族写真も置かない部屋であった。
「……遊び心の無い部屋だ。まるで王が寝るような場所じゃない」
 俺の浅い推理にリュンヒンはすかさず返事をした。
「それにしては、だんだん手厚くなってきているけどね」
 いつの間にか集まってきた戦闘部隊が扉から中へ広がり、ついにはこの部屋の中で俺達を囲むようにして円陣を作った。やはり袋状のこの部屋の中で仕留めようという考えなのである。
 戦闘部隊は銀の兜からこちらを睨む。
「メルチの”王子”か」
 部隊の一人が声を出した。これにリュンヒンは失笑した。
「皆おそろいの衣装なんて君たちはとっても仲良しなんだね。でもずいぶん重装備に見えるけど、それじゃあ動きにくくないかい? それとも”王子”の剣に当たるのが怖いのかな?」
 先制させる挑発だ。相手の出方によってこちらは戦い方に工夫が出来る。姑息だが上手い戦い方をするではないかと、感心していたら戦闘部隊は動き出した。縦振りと横払いの攻撃を繰り出している。
 相手の腕は剣と剣がぶつかった時の重みで分る。初めの一手で俺は強い衝撃を食らった。彼らは途中で出会った兵士よりも桁違いに強かったのだ。
「なんだい。仲良しって言ったのがマズかったかな?」
「お、おいおい。あんまり逆立てるな!」
 やけに楽しんで剣を振っているリュンヒンに届いたのか届かなかったのか分からん。しかし俺とて相手が思いの外強かろうと負ける気などは無い。
 そんな時である。俺は攻撃を出したり交わしたりしながら、妙な動きをする者がいると気付いた。その者はさっきから剣を振り回しているものの、俺やリュンヒンまでなかなか届かせられないようであった。
 兵隊の中には何人か彼のようなサボり性がいることもある。しかし、彼の振った剣が見方の兜に当たったり、よろめいた拍子に見方の足を踏んだりと、傍から見ていて完全に足手まといだ。
 その間に戦闘部隊は鎮圧。命は取っていないため、兵士たちは床でのたうっている。最後に残しておいた足手まといの男に俺は剣を突き付けた。死んだふりをして倒れていても無駄だ。俺には分かっている。
「お前は俺を殺したいのか生かしたいのかどっちなんだ。アルバート」
 力ない笑いが銀の兜から漏れ出した。
 よいしょ、と身を起こして兜を外すと、悔しいくらい二枚目の顔が出てきた。常に猫目で笑っているように見えるが、この時は苦虫を噛み潰したような表情でいる。
「……ど、どのくらいで気付きました?」
「おかしいと思った瞬間からだ。お前ひとりだけ周りと連携が取れていない」
 リュンヒンもやってきた。
「知り合いかい?」
「ああ。少し世話してやったことがある」
 こいつは無言で勝手に居なくなったとリュンヒンに話し、アルバートを睨むと彼は再び兜をそろりと被りだした。
「その節のお詫びと言いますか、それまでの無礼を許してほしいと言いますか……」
 アルバートが口をこもらせながらブツブツ言っている。
「こんな場所で長居している時間はない。俺達はもう行く」
「お、王は聖堂へ行きました」
 俺とリュンヒンはピタリと足を止めた。アルバートがその聖堂があるらしい方向へ指を刺していた。その後ろでは、まだ動ける兵士たちが仲間に裏切り者がいると聞こえ、そろそろと立ち上がろうとしている。
 アルバートは本物の殺意に震えながら、俺達の横を通り過ぎて先に部屋を出ていった。逃げ足だけは誰にも追いつけない。どこまでも逃げていくことだろう。
「エセル様のことならこのアルバートにお任せ下さい!」
 角を曲がって見えなくなってから、そのような叫び声が届いた。ヤツはこの場に及んでもエセルひとりの味方なのだなと、俺は感心するあまりぼう然とした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...