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Ⅰ.ネザリア王国
決戦2
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中は明かりさえも付いていない無人であった。互いに背を預け合い、リュンヒンは先程の兵士二人を警戒しながら後退し、俺は部屋内へ進みながら辺りを見回した。
戸棚にヤツが好んで飲んでいた葡萄酒の瓶が目に入った。しかしそれ以外は肖像画も家族写真も置かない部屋であった。
「……遊び心の無い部屋だ。まるで王が寝るような場所じゃない」
俺の浅い推理にリュンヒンはすかさず返事をした。
「それにしては、だんだん手厚くなってきているけどね」
いつの間にか集まってきた戦闘部隊が扉から中へ広がり、ついにはこの部屋の中で俺達を囲むようにして円陣を作った。やはり袋状のこの部屋の中で仕留めようという考えなのである。
戦闘部隊は銀の兜からこちらを睨む。
「メルチの”王子”か」
部隊の一人が声を出した。これにリュンヒンは失笑した。
「皆おそろいの衣装なんて君たちはとっても仲良しなんだね。でもずいぶん重装備に見えるけど、それじゃあ動きにくくないかい? それとも”王子”の剣に当たるのが怖いのかな?」
先制させる挑発だ。相手の出方によってこちらは戦い方に工夫が出来る。姑息だが上手い戦い方をするではないかと、感心していたら戦闘部隊は動き出した。縦振りと横払いの攻撃を繰り出している。
相手の腕は剣と剣がぶつかった時の重みで分る。初めの一手で俺は強い衝撃を食らった。彼らは途中で出会った兵士よりも桁違いに強かったのだ。
「なんだい。仲良しって言ったのがマズかったかな?」
「お、おいおい。あんまり逆立てるな!」
やけに楽しんで剣を振っているリュンヒンに届いたのか届かなかったのか分からん。しかし俺とて相手が思いの外強かろうと負ける気などは無い。
そんな時である。俺は攻撃を出したり交わしたりしながら、妙な動きをする者がいると気付いた。その者はさっきから剣を振り回しているものの、俺やリュンヒンまでなかなか届かせられないようであった。
兵隊の中には何人か彼のようなサボり性がいることもある。しかし、彼の振った剣が見方の兜に当たったり、よろめいた拍子に見方の足を踏んだりと、傍から見ていて完全に足手まといだ。
その間に戦闘部隊は鎮圧。命は取っていないため、兵士たちは床でのたうっている。最後に残しておいた足手まといの男に俺は剣を突き付けた。死んだふりをして倒れていても無駄だ。俺には分かっている。
「お前は俺を殺したいのか生かしたいのかどっちなんだ。アルバート」
力ない笑いが銀の兜から漏れ出した。
よいしょ、と身を起こして兜を外すと、悔しいくらい二枚目の顔が出てきた。常に猫目で笑っているように見えるが、この時は苦虫を噛み潰したような表情でいる。
「……ど、どのくらいで気付きました?」
「おかしいと思った瞬間からだ。お前ひとりだけ周りと連携が取れていない」
リュンヒンもやってきた。
「知り合いかい?」
「ああ。少し世話してやったことがある」
こいつは無言で勝手に居なくなったとリュンヒンに話し、アルバートを睨むと彼は再び兜をそろりと被りだした。
「その節のお詫びと言いますか、それまでの無礼を許してほしいと言いますか……」
アルバートが口をこもらせながらブツブツ言っている。
「こんな場所で長居している時間はない。俺達はもう行く」
「お、王は聖堂へ行きました」
俺とリュンヒンはピタリと足を止めた。アルバートがその聖堂があるらしい方向へ指を刺していた。その後ろでは、まだ動ける兵士たちが仲間に裏切り者がいると聞こえ、そろそろと立ち上がろうとしている。
アルバートは本物の殺意に震えながら、俺達の横を通り過ぎて先に部屋を出ていった。逃げ足だけは誰にも追いつけない。どこまでも逃げていくことだろう。
「エセル様のことならこのアルバートにお任せ下さい!」
角を曲がって見えなくなってから、そのような叫び声が届いた。ヤツはこの場に及んでもエセルひとりの味方なのだなと、俺は感心するあまりぼう然とした。
戸棚にヤツが好んで飲んでいた葡萄酒の瓶が目に入った。しかしそれ以外は肖像画も家族写真も置かない部屋であった。
「……遊び心の無い部屋だ。まるで王が寝るような場所じゃない」
俺の浅い推理にリュンヒンはすかさず返事をした。
「それにしては、だんだん手厚くなってきているけどね」
いつの間にか集まってきた戦闘部隊が扉から中へ広がり、ついにはこの部屋の中で俺達を囲むようにして円陣を作った。やはり袋状のこの部屋の中で仕留めようという考えなのである。
戦闘部隊は銀の兜からこちらを睨む。
「メルチの”王子”か」
部隊の一人が声を出した。これにリュンヒンは失笑した。
「皆おそろいの衣装なんて君たちはとっても仲良しなんだね。でもずいぶん重装備に見えるけど、それじゃあ動きにくくないかい? それとも”王子”の剣に当たるのが怖いのかな?」
先制させる挑発だ。相手の出方によってこちらは戦い方に工夫が出来る。姑息だが上手い戦い方をするではないかと、感心していたら戦闘部隊は動き出した。縦振りと横払いの攻撃を繰り出している。
相手の腕は剣と剣がぶつかった時の重みで分る。初めの一手で俺は強い衝撃を食らった。彼らは途中で出会った兵士よりも桁違いに強かったのだ。
「なんだい。仲良しって言ったのがマズかったかな?」
「お、おいおい。あんまり逆立てるな!」
やけに楽しんで剣を振っているリュンヒンに届いたのか届かなかったのか分からん。しかし俺とて相手が思いの外強かろうと負ける気などは無い。
そんな時である。俺は攻撃を出したり交わしたりしながら、妙な動きをする者がいると気付いた。その者はさっきから剣を振り回しているものの、俺やリュンヒンまでなかなか届かせられないようであった。
兵隊の中には何人か彼のようなサボり性がいることもある。しかし、彼の振った剣が見方の兜に当たったり、よろめいた拍子に見方の足を踏んだりと、傍から見ていて完全に足手まといだ。
その間に戦闘部隊は鎮圧。命は取っていないため、兵士たちは床でのたうっている。最後に残しておいた足手まといの男に俺は剣を突き付けた。死んだふりをして倒れていても無駄だ。俺には分かっている。
「お前は俺を殺したいのか生かしたいのかどっちなんだ。アルバート」
力ない笑いが銀の兜から漏れ出した。
よいしょ、と身を起こして兜を外すと、悔しいくらい二枚目の顔が出てきた。常に猫目で笑っているように見えるが、この時は苦虫を噛み潰したような表情でいる。
「……ど、どのくらいで気付きました?」
「おかしいと思った瞬間からだ。お前ひとりだけ周りと連携が取れていない」
リュンヒンもやってきた。
「知り合いかい?」
「ああ。少し世話してやったことがある」
こいつは無言で勝手に居なくなったとリュンヒンに話し、アルバートを睨むと彼は再び兜をそろりと被りだした。
「その節のお詫びと言いますか、それまでの無礼を許してほしいと言いますか……」
アルバートが口をこもらせながらブツブツ言っている。
「こんな場所で長居している時間はない。俺達はもう行く」
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