クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

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Ⅰ.ネザリア王国

決戦1

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 決戦の日は小雨が降っていた。約束であるネザリア北部の台地にやってきた俺達は、既に到着していたネザリアの兵士の数に驚いている。
「話し相手にしては多いがな」
「戦う気は無さそうですね」
 その数、十人にも満たない。よく見渡せる広大な平地の一画にテントを張り、その辺で悠長に茶をすすっているのである。俺もカイセイも困ったものだと同時に溜息をついていた。
 前もって二人で予想していた通り、メルチの作戦はカイリュの耳に入っているようだ。敵視の矛先を完全にあちらに持っていかれたらしい。とりあえずここでは命拾いしたということにしておこうと思う。
 さらにその事で、最重要人物もここには現れなかった。
「ネザリアの王は城に留まっているのでしょうか」
「たぶんな」
 眠い目を掻き、欠伸をしながら敵陣を眺めていると、小さな鳥の群れが飛来してきた。鳥たちはくちばしを地面に刺しながら、両足跳びで歩き回っている。鳥にとっても朝食の時刻のようだ。
 ワッと敵の兵士たちの笑い声が上がると鳥たちは慌てて飛んで行く。しかししばらくするとまた同じ場所に戻ってきた。それが何度か繰り返されると鳥の方も図太く学ぶようで、少々の物音では飛んでいかなくなった。
「バル様、一応時間になりました」
 懐中時計を見ると約束の時間だ。今ちょうど分針がひとつ過ぎた。敵軍は相変わらずピクニック気分で笑い声を上げているだけだ。武器を手に取る素振りも見せていない。
「いかがしましょうか?」
「あっちに戦意が無いならわざわざ掻き立てることも無い。とりあえずはこのまま待機だ」
 指示を出していると鳥の群れが一斉に飛び立った。何だと思っていると衝撃音が鳴りだし、近くの山々にこだました。見上げると南の空から黒い煙がもくもくと上がっている。
 城の方で戦いが始まったのだと思われる。
「ここは任せた。俺は城で奴を打つ」
「分かりました。お気をつけて」
 俺は馬を走らせ、ひとりでネザリア城へ向かった。

 戦いはネザリア城を落とす一点で攻められていた。しんと静まり返った街に被害は無く、住民ひとりと見かけない。おそらくシェルターのような場所が確立されており、そこに潜んでいるのだと思う。
 城壁に近づくと様子が一変した。大砲や銃といった新しい武器を使う戦いに、頑丈な石の城壁があっけなく崩されているのである。その瓦礫の中には、まだ生きている負傷者がうめき声を出していた。むろん死んでいる者もいた。
 俺は馬を降りてその瓦礫を踏んでいき、本来なら迷路になるところを一直線に城の方へ歩いていけた。城の中心部へ進むにつれ、メルチ率いる連合軍とネザリア兵士の死闘が繰り広げられている。

 城の内部は未知であり、片っ端から扉を開けていきカイリュを探した。戦場は外であるが、城の中が手薄ということも無いらしい。時に警備の兵士と鉢合わせとなり、剣を振るうこともあった。
 中には隊列からはぐれた兵士もおり、俺のようなどちらにも付かない男が見つかると、連合軍兵であってもネザリア兵であっても敵意を向けられている。
 俺は壁に身を隠しながら息を整えていた。さすがにひとりで両軍の兵士に対処するにはきついものがある。
 行く先にはネザリアの兵隊が五人確認できる。タイミングを測って強行突破かと息をついていると、ふと目線を動かした先の隙間に手が見えた。壁から生えた手は俺に向かって振られており、こっちへ来いと手招きをしている。
 警戒している兵士の目を掻い潜り、俺はその呼ばれる方へ向かった。その場所で息を整えているリュンヒンと落ち合えた。
「先方もなかなか手強いね」
 リュンヒンは胸を上下させながら言う。外の戦いに参加していたのか、頬に煤のような汚れが付いており、汗を拭うと共にそれが広がった。
 城の外では弾音が激しく鳴り、時としてここまで地響きが伝ってきた。この戦いは戦闘力においても数においても圧倒的な連合軍の勝利かと思いきや、ネザリアの方も粘りを見せているようだ。
「この先の突き当りが王の部屋だ。カイリュはそこにいるかもしれない」
 壁に背をしたまま、そっとその方を覗き見した。言う通り、突き当りに立派な扉があると共に、デカ男な兵士が二人立っている。
 一瞬で確認を取った俺は慌てて壁に隠れた。なにせ、扉ひとつしか無い一直線の廊下で、鍵守りをする兵士がじっと前を見ているからだ。
「すまん。たぶん見つかった」
「うん、大丈夫だ。きっと僕も見つかっている」
 それでも鍵守の兵士二人は、目の前の敵に駆けつけて来ない。
「罠なんじゃないのか。追い込み漁みたく後ろから迫ってくるだろ」
「なるほど……それは僕もそう思う!」
 リュンヒンがこれをきっかけに飛び出した。少し遅れて俺も後に続く。鍵守の兵士は、突然剣を向けてやってくる二人に驚くこともなく静かに己の剣を抜いていた。
 狭い廊下で四人でやるにはあまり剣を自由に動かせられない。もっと広い場所が必要だと、俺もリュンヒンも同じことを考えていたらしい。俺達は隙きをみて閉ざされた扉を開けた。

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