クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

文字の大きさ
84 / 172
Ⅱ.拓かれる秘境国

九カ国首脳会議2

しおりを挟む
 代表者は他にも数人集まっている。
 今のところ円卓に座っているのはさっきの白髪頭の男と、もうひとり。おそらくパニエラ王国の代表である。
 俺の国とは最も遠くに位置しており接点こそ無いが、彼の国の事は例え話としてよく出てくる。
 決して良い例えに使われているとは言えないのだがな……。
 パニエラ王国は少々異文化であり、難点は言葉が通じないこと。おそらく今回も通訳者を介するのだろうと思う。
 だが残念ながら今は通訳者が不在のようだ。
 パニエラの代表者は誰とも会話できる術がなく、ずっとおどおどしている。
 それから、代表者はもうひとりいた。つまり俺と合わせて四人がこの場に集っているということだ。
 その人物は芝生の庭を見ている大男。後ろ姿だけでは誰だか分からない。
 こんな一大イベントには正装で来るのが常識かと思ったが、しかしそこの男は襟のないシャツを着ていた。
 よっぽど金が無いのか、それがあの男のスタイルなのか。
 筋肉で盛り上がった背中は周囲を威嚇するようで、俺も不用意に接したくないなと初見で思うほどだ。
 それを見せつけたいからわざとシャツ姿なのだろうか。
 ……ロンド小国といえば、つい一年ほど前に出来たばかりの国である。過激派の暴走が手に負えず、王が領地ごと手放すことで出来た国だと言う。
 国を仕切るのはその過激派のリーダーだ。
 そんな危ない連中らで国を作れるのかどうかは俺からは何とも言えない。
 あの大男はその人物ではなかろうかと俺は予想した。……と、見つめていたらその大男が振り返りかけた。
 俺は視線を外していそいそと部屋の中に入ることにした。
 カードで指定された自分の席を見つけて座ると、ちょうど目の前にはあの白髪頭の男になる。
 彼は物静かに本を読んでいる。別に声をかけたいとは思わないが、今いるこの中では一番まともそうな人物だと思う。

「あっ、バル君!」
 知り合いも居なく心細い中でようやく誰かが俺のことを呼んだ。
 期待を込めて俺は入口を振り返った。
 だがそこにいるのはマルク王でもリュンヒンでも無く、若い王子の姿である。
「バル君、お久しぶりです。僕のこと覚えていますか?」
 そう明らかに俺に物を言う王子に、俺は確信を持てずに尋ねてみる。
「……キースか?」
「はい。そうです。キースです」
 王子は照れくさそうに腰を低くしていた。
「キース? お前本当にキースなのか!?」
「はい! 僕がキースです!」
 熱のあるやりとりに、異文化人も大男も俺達のことを注目していた。
 大男の方には殴られやしないかと思い、俺はキースのもとへ駆けて話をする。
「でかくなったな。いつぶりだ?」
「もう忘れちゃいました。僕も来年に成人です」
 近寄った途端キースの背丈にまず驚いたものだ。
 いつも母親の裾を握って隠れていた少年が、今は俺と同じようなサイズに成長しているではないか。
 だが、それよりも俺はおかしいだろと気付くのである。
「キース。お前、何でここにいる?」
 これにキースは苦笑しながら「やっぱりそう思いますよね」と言うのであった。
 セルジオ王国の一人息子であるキース王子。
 彼は父親の裏切りを図り、国ごと分断させた張本人だった。
 俺は今回会議に出席する国の数を頭の中で数えた。セルジオ王国の分断を二国と数えるのであれば数が合わない。
「僕は代理出席です」
「代理?」
 だがそう言ってキースは、セルジオ王国の席には座らなかった。
 彼が座ったのはニューリアン王国マルク王の席だ。
 もちろん驚いたが、俺はそういえばと思い出すことがある。マルク王と別れる際に少しした会話である。
 マルク王は俺にこう言った。
「私は今季の首脳会談を風邪で欠席するだろう。だが君は心配しないでいいよ」と。
 まさか体調不良を予知できたわけじゃない。あの時にはきっとマルク王に考えがあるのだと思っていた。
 ……とすると、セルジオ王国代表者の席にはその王が着席するはずだ。
 肝を冷やしていたらその時はすぐにやって来た。
「貴様……なぜ居る」
 地を這うような低い声は怒りで震えていた。
 大男をしのぐ巨漢。鉄壁のセルジオ国王アルゴブレロである。
 キースなどはこの男に素手で敵うはずがない。
 到着するなりアルゴブレロはキースの襟を持ち上げ、我が子を吊し上げにしていた。
 それを誰かが割って止めるということは無い。
 真隣の席で白髪が悠々と読書をしたまま、ほんの一言「下ろしてやりなさいな」と口で言うだけだった。
「口を挟むな! 俺ァこのツラを見ると虫唾が走るんだよ!」
 怒りを露わにするアルゴブレロだが、対する白髪は鼻で笑いもしない。ひたすら本に目を落としている。
 アルゴブレロはこの場でキースを殺すのかと思った。
 だが、さすがにそこまで狂気じみてはいない。
 ぽいっとその場にキースを投げ捨てたら、もうそこからは一切も絡まなくなった。
 
 会議の始まる時刻はとうに過ぎていたが、ここでようやく残りの者も揃ってきだす。
 辺りの護衛も忙しくなってきた。どこの国か分からんが特別警備隊を雇って立たせているようだ。
 開いた席にも遅刻班がぽつりぽつりと現れて、その中に俺の旧友もいる。
 ヤツはひらひらと手を振りながら俺のもとへやって来た。
「やあやバル君。やっと会えたね、ひさしぶり」
「リュンヒン、遅すぎだ。何をしていた」
 リュンヒンは俺の隣の席に腰を下ろす。そして何がおかしいのかニコニコと笑顔が絶えない。
「道の途中でとびきり美女を見つけてしまったのさ。ちょっとお茶していたらこんな時間だ」
 そう言われるが、冗談なのか本当なのかさっぱり分からん。
 ぼーっとしている俺の鼻をリュンヒンは急につまんでくる。
「もう。冗談に決まっているだろう?」
 リュンヒンは既に着席した人物を指でさした。
「彼に喧嘩を吹っ掛けられて身動きが取れなかったのさ」
 俺はその彼という人物に目をやった。
 血色の悪い男がこちらを睨んでおり、感じの悪い態度でフンと鼻を鳴らしていた。
 俺はリュンヒンに身を潜めて言う。
「さっそく喧嘩を売ってどうする」
「売ってきたのはあっちさ。僕は買ってやったんだ」
「だとしても俺まで巻き込もうとするな」
 するとエントランスへの扉が閉まる音が響く。
 俺達の手元には紙の資料が配られて、何人かがタバコに火を灯し始めた。
「今日は僕たちの為の会議だ。たっぷり叱られようね」
 最後にリュンヒンは俺にウインクを投げる。
「何故そう楽しげなんだ」
 円卓の上には九人の代表者が揃っていた。
 ニューリアン王国は欠席で、セルジオ王国から二名出席。よって八カ国で行われる会議になった。



 *  *  *

 第一声はタバコをくゆらす男から始まる。
 この男は一番最後に現れた人物で、このカイロニア王国の大臣であった。
 良質な椅子にふんぞり返って足を組んでおり、いかにも偉そうな態度が鼻につく。
「今回は若い衆が増えたようだ。オルバノの息子は分かるが、他に見知らぬ若者が居るな」
 大臣は俺とキースのことを順番にじろりと見た。
「ジョーサン王の息子、レイヴン・バル王子。……よく来てくれた。会えて嬉しいよ」
 その割に嬉しそうな顔をしない。
「アルゴブレロ王の息子、キース王子か……」
 大臣は難しそうに唸り声を上げている。
 マルクの席にキースが座る理由を探しているのかと俺は思った。
 だが大臣は舌打ちを鳴らすと、次の呟きはそれとは違うかのようなものだったのだ。
「……マルクめ。また逃げ癖だ」
 俺はその言葉が気になっていたが、大臣はすぐに「まあ良い」と手放している。
 会議に集結する代表者に向けて大臣は挨拶を始めた。
「ようこそ我がカイロニアへ。しかし残念ながら今回の会議は異例も異例である。由々しき事態を放置するわけにも行かず、此度はこのメンバーで話し合いたいと思う。バル王子それからリュンヒン王。君たちは今回の主犯であることは間違いない。嘘偽り無く話し合いに参加するように」
 挨拶というよりは俺たちに釘を差したという内容だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...