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Ⅱ.拓かれる秘境国
セルジオ潜入‐武器を持つ民‐
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ガラクタを乗せた荷台と引き馬二頭。その後ろから乗馬三頭で道の続きを行く。
山脈が遠ざかり、目の前には町らしき建物が見え始めていた。
山賊の出入りを塞ぐための鉄柵が囲んでおり、道の先には両開きの門となる。
おかしなことに見回りの兵士は姿を見せていない。
「馬から降りておけ」
先程の店主が俺達に言った。
その指示のとおりに門に到着するまでに馬を降りて、手綱を引いて歩くことになった。
門番の居ない場所を無事に通過すると町になる。絶えず汚らしく空気も滞っているような感じだ。匂いも良くは無い。
ネズミや野良ネコが行き過ぎる小道を過ぎ、少し広まったところに来ると馬車は停車した。
俺達も足を止めることになり、ローブの隙間から周囲の様子に警戒した。
建物の影となる場所に敷いた敷物の上で、物売りの老婆が抜けた歯で笑い手招きをしている。
「タイミングを図って逃げますか」
「そうだな」
一応カイセイとの裏合わせを済ませておく。
馬の足があれば一本道を駆け抜けて楽々逃げ切れるだろうという寸法だ。
「おやじ!」
ふとどこからか、そう呼ぶ声に俺達は振り返った。
家々の路地から現れた色黒の若者が手を上げている。「おやじ」と呼んだのはどうやら店主のことらしい。
ふたりは軽い会話をしており、その間店主が荷車に積んだものを降ろす作業をしていた。
そうこうしているうちに彼の顔見知りらしい人物がワラワラどこからともなく湧いて出てくる。
タイミングを合わせて逃げる予定がいつのまにか人だかりだ。
「おい、こりゃ上等な馬だぜ」
別の方を見ていたら、すぐ傍にも若者が現れていた。
ニューリアンの馬は急に知らない人間が撫でてくるもので不安になって、いなないている。
「おやじ。この馬はいくらだ? ……なに? 高すぎるぜおい」
そんなやり取りにまた別の若者も寄ってきた。
「俺が折半してやろうか。枝肉にして売ったら儲けが出そうだ」
「あんちゃんの持ち込みかい? こんなのどっかの城から盗んできただろ」
馬に目がくらむ連中の中で、俺に話を持ちかけてくるヤツがいる。
どいつもこいつもよく焼けた肌色で筋肉質な男たちだ。品のかけらもない話し方、笑い方をしていた。
「よく見るとあんちゃんも上玉じゃねえの。金持ってそうな顔だ……」
くんくんと鼻を近づけて嗅ぎ「金の匂いがする」とよだれを垂らされた。
あと二秒で男らを殴ってしまいそうなところ……。
「逃げます!」
馬に跨がれたカイセイが俺に手を差し伸べた。
ぐんっと身を引かれ俺達は二人乗りで若者らを踏み越えて前へ進む。
だが、そう上手くはいかない。
数メートルも進まぬうちに馬が悲鳴を上げながら横に倒れたのである。
振り落とされた俺達は地面に身を打ち、品のない連中らに囲まれてしまう。
「おい、おやじ。商品が逃げるぜ」
血の付いた剣を持つ男が俺を見下ろしながら言う。
それは何の血かと思ったら、この瞬間に馬の足を切ったそうだ。
「甘く見てもらっちゃ困るのよ。俺らこう見えて元は軍人だったもんでぇ……」
そう言うと周囲の男らも武器を持ち始めている。
棒切れであったり剣であったりまちまちであるが、身の構え方を見るとどうやら嘯いているわけでは無いらしい。
「……これが鉄壁の国と呼ばれる由縁か」
フッと鼻で笑うと同時に、背後に迫っていた殺気を右に避ける。
俺が這いつくばっていた場所には、地面がめり込むほどの打撃が打たれた。
次は剣、さらに棍棒、槍と、様々な武器を交わすのは楽なものでは無い。
一般客の身の動きでは無いと分かると、男たちも目の色が変わったようだ。
「おい。あっちに回れ」
ひとりが何か指示のようなものを出す。
いよいよ本格的に俺達のことを仕留めに大勢で連結しそうだ。隊を成しての戦い方も身につけているらしい。
「カイセイ! 長引くと厄介だ!」
「はい! 分かってはいますが!」
敵の剣を奪ったカイセイでもこの戦いには余裕が無さそうだ。
攻撃を交わす合間に目をやると、俺の監視役のベンブルク兵士も民間兵士と交戦中である。
しかもどちらかといえば、そこはベンブルク兵士の方が勝っていて強かった。
「おっ!」
集中力が別の方に向いており、敵の剣が俺の腹をかすめた。
防弾チョッキで貫通はしないものの、その衝撃で何かがジャラジャラと鳴った。
足元に落ちたのは店主にもらった銭入りの袋である。切られて壊れたところから金貨がこぼれ落ちている。
加えて俺は意図せずそれを力強く蹴ってしまい、金貨は遠い場所まで散乱してしまった。
「金だ!! 拾え!!」
敵意を向けていた市民たちの意識がそちらへ向く。
今だけがチャンスだと三人は咄嗟に判断でき、その隙にこの場から脱出した。
町に隠れても彼らの縄張りである以上見つかると踏み、とにかく一心不乱にこの町を出ることを目指したのである。
山脈が遠ざかり、目の前には町らしき建物が見え始めていた。
山賊の出入りを塞ぐための鉄柵が囲んでおり、道の先には両開きの門となる。
おかしなことに見回りの兵士は姿を見せていない。
「馬から降りておけ」
先程の店主が俺達に言った。
その指示のとおりに門に到着するまでに馬を降りて、手綱を引いて歩くことになった。
門番の居ない場所を無事に通過すると町になる。絶えず汚らしく空気も滞っているような感じだ。匂いも良くは無い。
ネズミや野良ネコが行き過ぎる小道を過ぎ、少し広まったところに来ると馬車は停車した。
俺達も足を止めることになり、ローブの隙間から周囲の様子に警戒した。
建物の影となる場所に敷いた敷物の上で、物売りの老婆が抜けた歯で笑い手招きをしている。
「タイミングを図って逃げますか」
「そうだな」
一応カイセイとの裏合わせを済ませておく。
馬の足があれば一本道を駆け抜けて楽々逃げ切れるだろうという寸法だ。
「おやじ!」
ふとどこからか、そう呼ぶ声に俺達は振り返った。
家々の路地から現れた色黒の若者が手を上げている。「おやじ」と呼んだのはどうやら店主のことらしい。
ふたりは軽い会話をしており、その間店主が荷車に積んだものを降ろす作業をしていた。
そうこうしているうちに彼の顔見知りらしい人物がワラワラどこからともなく湧いて出てくる。
タイミングを合わせて逃げる予定がいつのまにか人だかりだ。
「おい、こりゃ上等な馬だぜ」
別の方を見ていたら、すぐ傍にも若者が現れていた。
ニューリアンの馬は急に知らない人間が撫でてくるもので不安になって、いなないている。
「おやじ。この馬はいくらだ? ……なに? 高すぎるぜおい」
そんなやり取りにまた別の若者も寄ってきた。
「俺が折半してやろうか。枝肉にして売ったら儲けが出そうだ」
「あんちゃんの持ち込みかい? こんなのどっかの城から盗んできただろ」
馬に目がくらむ連中の中で、俺に話を持ちかけてくるヤツがいる。
どいつもこいつもよく焼けた肌色で筋肉質な男たちだ。品のかけらもない話し方、笑い方をしていた。
「よく見るとあんちゃんも上玉じゃねえの。金持ってそうな顔だ……」
くんくんと鼻を近づけて嗅ぎ「金の匂いがする」とよだれを垂らされた。
あと二秒で男らを殴ってしまいそうなところ……。
「逃げます!」
馬に跨がれたカイセイが俺に手を差し伸べた。
ぐんっと身を引かれ俺達は二人乗りで若者らを踏み越えて前へ進む。
だが、そう上手くはいかない。
数メートルも進まぬうちに馬が悲鳴を上げながら横に倒れたのである。
振り落とされた俺達は地面に身を打ち、品のない連中らに囲まれてしまう。
「おい、おやじ。商品が逃げるぜ」
血の付いた剣を持つ男が俺を見下ろしながら言う。
それは何の血かと思ったら、この瞬間に馬の足を切ったそうだ。
「甘く見てもらっちゃ困るのよ。俺らこう見えて元は軍人だったもんでぇ……」
そう言うと周囲の男らも武器を持ち始めている。
棒切れであったり剣であったりまちまちであるが、身の構え方を見るとどうやら嘯いているわけでは無いらしい。
「……これが鉄壁の国と呼ばれる由縁か」
フッと鼻で笑うと同時に、背後に迫っていた殺気を右に避ける。
俺が這いつくばっていた場所には、地面がめり込むほどの打撃が打たれた。
次は剣、さらに棍棒、槍と、様々な武器を交わすのは楽なものでは無い。
一般客の身の動きでは無いと分かると、男たちも目の色が変わったようだ。
「おい。あっちに回れ」
ひとりが何か指示のようなものを出す。
いよいよ本格的に俺達のことを仕留めに大勢で連結しそうだ。隊を成しての戦い方も身につけているらしい。
「カイセイ! 長引くと厄介だ!」
「はい! 分かってはいますが!」
敵の剣を奪ったカイセイでもこの戦いには余裕が無さそうだ。
攻撃を交わす合間に目をやると、俺の監視役のベンブルク兵士も民間兵士と交戦中である。
しかもどちらかといえば、そこはベンブルク兵士の方が勝っていて強かった。
「おっ!」
集中力が別の方に向いており、敵の剣が俺の腹をかすめた。
防弾チョッキで貫通はしないものの、その衝撃で何かがジャラジャラと鳴った。
足元に落ちたのは店主にもらった銭入りの袋である。切られて壊れたところから金貨がこぼれ落ちている。
加えて俺は意図せずそれを力強く蹴ってしまい、金貨は遠い場所まで散乱してしまった。
「金だ!! 拾え!!」
敵意を向けていた市民たちの意識がそちらへ向く。
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