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Ⅱ.拓かれる秘境国
決闘‐誇りをかけて‐
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「……そうですか。父は命を取り留めたんですね」
「重症そうだったがな。俺のことを殺そうとする元気はあったぞ」
キースは肩をすくめて苦笑していた。
本当はもっと踏み込んだことを口にしたいが、何しろ周りの眼圧が鋭く痛いのだ。
どういう訳かさっきから俺の方に剣先や銃口を向けられっぱなしだしな。
「ところで行儀の悪い市民なことだ」
目線を外してそいつらにも聞こえるよう俺は言った。
するとキースは横で「ああ、うん……」と言葉を濁しながら髪を触りだした。
「別に他国のやり方に口出しする気は無いがな。しかしこれだとお前の立場が無いだろう」
「そ、そうですよね」
さっき俺が煽った言葉によって、武器を構えた市民は一層俺のことを敵意で睨みつけている。
だが元々城に仕えていた兵士はと言えば、奥の方に追いやられて棒立ちだった。
本来ならば逆でないと示しが付かんと思う。
「彼らのことを大目に見てもらえませんか」
「断る。俺は良い気がしない」
「バ、バル様。何を……」
キースの弱気な言葉に背を向けて、俺はこちらに武器を向ける連中の方へと歩いた。
甲冑や軍服を着ているわけでも無い者たちは、俺が近づくと自ずと女性を後ろに引っ込めていた。
「お前ら、俺を誰だと心得ている」
手錠が外れた開放感もあり、俺は堂々と腕を組んで見下してやった。
先頭の男たちは武器を強く握ったまま睨む目を逸らさない。こいつらも元は軍人なのだろう。
「黙れ! 部外者は引っ込んでろ!」
すると別のところから声があがった。
「ほう。俺に黙れと言ったかお前」
俺は発言した者を見つけ、その目の前に移動する。
見た目は若めの青年である。といっても、俺とあまり歳は変わらんのかもしれん。
その青年は短剣をこちらに向けていた。
よく研ぎ澄まされた切れそうな刃に光がチラついている。
「その物騒なものを仕舞え」
「嫌だね! 何でアンタの言うことなんか聞かなきゃならない!」
「何でかだと? それは俺がお前よりも偉いからだ」
「はあ? 偉い!?」
それから青年は俺の目の前で腹を抱えて笑いだした。
俺は、この勇敢なこの青年が、俺との格差を見せつけるのにうってつけだとここで決めた。
有無を言わさず俺は青年の足を払い蹴る。
すると青年はまんまと地面に顎を打って倒れ込んだ。
その拍子に手の平からこぼれた刃物はそっと場外へ蹴り出しておく。
「なんだ。お前も元軍人かと思ったら違うのか。それとも俺がお前に劣ると高をくくって油断でもしたか?」
しかしあまりに呆気なくやられてしまう青年だったため、俺は期待外れを隠すためにもますますクールぶっているのである。
本来ならこうなるはずでは無かったのだ。
「敵だ!! やれー!!」
当然だが、市民兵士たちは一致団結を組んで俺を仕留めにかかってくる。
剣や棍棒ならかわしてやれるが、中には銃を持つ者もいるのだ。それは流石に殺されてしまう。
とっさに頭に浮かんだことと言えば、この転がった青年を人質にするという偉いも何も無い策である。
これはしくじったと思った時「皆さん止まって下さい!」と、俺の救世主となるのはキースであった。
だがそのキースは暴走寸前だった市民兵士の前に来ると、ヤツらに背を預けて俺の方に立ちはだかっている。
「市民に手出しはさせません。市民を守るのが僕の役目ですから」
「……急にらしいことを言うな」
「僕もセルジオの王子です」
丸腰の俺に向かってキースは腰の剣を抜いた。
これはただの脅しなのか、それとも本当にここで俺を殺ろうとしているのか見定めることは難しい。
どちらかに賭けるなら、俺はあえて喧嘩をふっかける選択をする。
「戦う気を起こしてくれて丁度良かった。実はアルゴブレロとの話し合いで交換条件を出されていたのだ」
ここまで言ったところでキースは勘を効かせたらしい。剣の持ち方を変えた。
「僕を殺せと、そう父が言ったのですね」
「ああ。その場では当然断ったがな。だがお前がここまで落ちた王族だったなら……話は別だ!」
攻撃態勢の剣に対して俺は地面を蹴って飛びかかる。
キースもまた声を上げてこちらに攻撃を仕掛けて来た。
右利きの剣は左に曲がりやすいと見て、相手の急所を仕留めるつもりだ。
しかし俺の方がこの戦いにおいては考えが浅かった。
右向きに剣が止まる。だが俺の身はどこも傷を負っていない。
キースの剣を止めたのは、よく研ぎ澄まされた短剣だった。
「ここは私がお相手します!」
俺の目の前にはカイセイの背中があったのだ。
ふたりは距離を取り直しそれぞれの攻撃手法の構えで睨み合う。
俺は間一髪で助けられてしまい、場外にてベンブルクの監視役と共に見守った。
「カイセイ! 油断するなよ!」
「はい!」
さっきの剣を受けたカイセイは集中を絶やさず真剣な目をしていた。
歳下の剣使いでも甘く出来る相手では無いと、すでに注意しているようだ。
「キース様! こんなヤツら切り捨ててやって下さい!」
市民兵士はキースを支持し、こんな言葉を掛けていた。
「行きます!」
先行はキースから。カイセイは少し出遅れた。
戦いが始まると市民兵士はキースを応援する声をワーワーと掛けまくっていた。
「あいつら、決闘を闘技と勘違いしていないか?」
「……」
無口な監視役はさておき、俺はそう思うのだ。
まあいい。うるさい歓声も一興としておいて戦いの方に目を向けた。
刃渡りの長さで言えばキースの方が有利だが短剣の身軽さには劣る。
しかしキースはそんなことは熟知しており、振りの攻撃よりも突きを繰り返した。
速さのある突きは、短剣でどうこうではなく体を揺らしての回避となった。
カイセイの両手はタイミング待ちで、なかなか繰り出すことが出来ない。
一度宙返りで隙きを作り体制を整えても、キースの攻撃の方が上を描いているのは外部から見ていて明確だった。
「よく先を読めている……」
俺では無い。隣の監視役が無意識に口にしたのだ。
仮に数をこなしていればある程度は先が分かるが、キースは親のように武力に物を言わせるタイプで無かっただろう。
アルゴブレロが戦の天才だとか言われているらしかった。もしかしたらその才能がキースにもあるのかもしれん。
俺は口を閉じるのも忘れ、キースの身のこなしに見入っている。
カイセイでも手こずるこの戦いに血筋の説を信じる他無いと考えた。
「重症そうだったがな。俺のことを殺そうとする元気はあったぞ」
キースは肩をすくめて苦笑していた。
本当はもっと踏み込んだことを口にしたいが、何しろ周りの眼圧が鋭く痛いのだ。
どういう訳かさっきから俺の方に剣先や銃口を向けられっぱなしだしな。
「ところで行儀の悪い市民なことだ」
目線を外してそいつらにも聞こえるよう俺は言った。
するとキースは横で「ああ、うん……」と言葉を濁しながら髪を触りだした。
「別に他国のやり方に口出しする気は無いがな。しかしこれだとお前の立場が無いだろう」
「そ、そうですよね」
さっき俺が煽った言葉によって、武器を構えた市民は一層俺のことを敵意で睨みつけている。
だが元々城に仕えていた兵士はと言えば、奥の方に追いやられて棒立ちだった。
本来ならば逆でないと示しが付かんと思う。
「彼らのことを大目に見てもらえませんか」
「断る。俺は良い気がしない」
「バ、バル様。何を……」
キースの弱気な言葉に背を向けて、俺はこちらに武器を向ける連中の方へと歩いた。
甲冑や軍服を着ているわけでも無い者たちは、俺が近づくと自ずと女性を後ろに引っ込めていた。
「お前ら、俺を誰だと心得ている」
手錠が外れた開放感もあり、俺は堂々と腕を組んで見下してやった。
先頭の男たちは武器を強く握ったまま睨む目を逸らさない。こいつらも元は軍人なのだろう。
「黙れ! 部外者は引っ込んでろ!」
すると別のところから声があがった。
「ほう。俺に黙れと言ったかお前」
俺は発言した者を見つけ、その目の前に移動する。
見た目は若めの青年である。といっても、俺とあまり歳は変わらんのかもしれん。
その青年は短剣をこちらに向けていた。
よく研ぎ澄まされた切れそうな刃に光がチラついている。
「その物騒なものを仕舞え」
「嫌だね! 何でアンタの言うことなんか聞かなきゃならない!」
「何でかだと? それは俺がお前よりも偉いからだ」
「はあ? 偉い!?」
それから青年は俺の目の前で腹を抱えて笑いだした。
俺は、この勇敢なこの青年が、俺との格差を見せつけるのにうってつけだとここで決めた。
有無を言わさず俺は青年の足を払い蹴る。
すると青年はまんまと地面に顎を打って倒れ込んだ。
その拍子に手の平からこぼれた刃物はそっと場外へ蹴り出しておく。
「なんだ。お前も元軍人かと思ったら違うのか。それとも俺がお前に劣ると高をくくって油断でもしたか?」
しかしあまりに呆気なくやられてしまう青年だったため、俺は期待外れを隠すためにもますますクールぶっているのである。
本来ならこうなるはずでは無かったのだ。
「敵だ!! やれー!!」
当然だが、市民兵士たちは一致団結を組んで俺を仕留めにかかってくる。
剣や棍棒ならかわしてやれるが、中には銃を持つ者もいるのだ。それは流石に殺されてしまう。
とっさに頭に浮かんだことと言えば、この転がった青年を人質にするという偉いも何も無い策である。
これはしくじったと思った時「皆さん止まって下さい!」と、俺の救世主となるのはキースであった。
だがそのキースは暴走寸前だった市民兵士の前に来ると、ヤツらに背を預けて俺の方に立ちはだかっている。
「市民に手出しはさせません。市民を守るのが僕の役目ですから」
「……急にらしいことを言うな」
「僕もセルジオの王子です」
丸腰の俺に向かってキースは腰の剣を抜いた。
これはただの脅しなのか、それとも本当にここで俺を殺ろうとしているのか見定めることは難しい。
どちらかに賭けるなら、俺はあえて喧嘩をふっかける選択をする。
「戦う気を起こしてくれて丁度良かった。実はアルゴブレロとの話し合いで交換条件を出されていたのだ」
ここまで言ったところでキースは勘を効かせたらしい。剣の持ち方を変えた。
「僕を殺せと、そう父が言ったのですね」
「ああ。その場では当然断ったがな。だがお前がここまで落ちた王族だったなら……話は別だ!」
攻撃態勢の剣に対して俺は地面を蹴って飛びかかる。
キースもまた声を上げてこちらに攻撃を仕掛けて来た。
右利きの剣は左に曲がりやすいと見て、相手の急所を仕留めるつもりだ。
しかし俺の方がこの戦いにおいては考えが浅かった。
右向きに剣が止まる。だが俺の身はどこも傷を負っていない。
キースの剣を止めたのは、よく研ぎ澄まされた短剣だった。
「ここは私がお相手します!」
俺の目の前にはカイセイの背中があったのだ。
ふたりは距離を取り直しそれぞれの攻撃手法の構えで睨み合う。
俺は間一髪で助けられてしまい、場外にてベンブルクの監視役と共に見守った。
「カイセイ! 油断するなよ!」
「はい!」
さっきの剣を受けたカイセイは集中を絶やさず真剣な目をしていた。
歳下の剣使いでも甘く出来る相手では無いと、すでに注意しているようだ。
「キース様! こんなヤツら切り捨ててやって下さい!」
市民兵士はキースを支持し、こんな言葉を掛けていた。
「行きます!」
先行はキースから。カイセイは少し出遅れた。
戦いが始まると市民兵士はキースを応援する声をワーワーと掛けまくっていた。
「あいつら、決闘を闘技と勘違いしていないか?」
「……」
無口な監視役はさておき、俺はそう思うのだ。
まあいい。うるさい歓声も一興としておいて戦いの方に目を向けた。
刃渡りの長さで言えばキースの方が有利だが短剣の身軽さには劣る。
しかしキースはそんなことは熟知しており、振りの攻撃よりも突きを繰り返した。
速さのある突きは、短剣でどうこうではなく体を揺らしての回避となった。
カイセイの両手はタイミング待ちで、なかなか繰り出すことが出来ない。
一度宙返りで隙きを作り体制を整えても、キースの攻撃の方が上を描いているのは外部から見ていて明確だった。
「よく先を読めている……」
俺では無い。隣の監視役が無意識に口にしたのだ。
仮に数をこなしていればある程度は先が分かるが、キースは親のように武力に物を言わせるタイプで無かっただろう。
アルゴブレロが戦の天才だとか言われているらしかった。もしかしたらその才能がキースにもあるのかもしれん。
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