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Ⅱ.拓かれる秘境国
決闘‐勝利と敗因‐
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「決着はどちらかの耐久の尽きで決まりそうだな」
「……」
俺への返事を監視役はしないのであるが、すっかり自分の任務も忘れたのか両腕を組んで唸り声だけは上げていた。
攻撃をかわす方が劣勢だと見られるが、攻撃を仕掛ける方も同じように体力がいる。
よってどちらも苦しそうな表情を浮かべているのが見えていた。
息を飲み集中して見ていたいのであるが阻害してくるものがある。相変わらず鳴り止まん市民兵士の掛け声だ。
決闘とは由緒正しき決断の儀式であるのに、ヤツらのせいでまるで品の無いものに成り下がった。
俺はだんだんと苛つき、歯ぎしりを鳴らしている。
「あれらは多分軍人では無いでしょうね」
「そんな事は分かり切っている」
苛つきついでだ。珍しく人に向けて言葉を発した監視役にも、いちいち喜んだりせずに俺は言い返した。
「軍人ならまず、武器を取り扱う前に礼儀を習う」
関所モドキで襲ってきた野蛮人の方がまだ良い連中だった。と、俺は独り言としてグチグチ喋っていた。
その間に試合には変化の兆しがあった。
とうとうカイセイが足を滑らせて体勢が崩れてしまったのである。
これを行けと市民兵士は声を荒らげた。キースも「やああ!」と剣を振り上げ止めの構えを見せる。
キースの勝利が確定したと、誰もが思えるシーンだ。……だが何人が真意に気付けただろう。
「ううっ!!」
瞬きの後には、うめき声と共にキースが倒れ込んでいる。
カイセイは地面に腹ばいになったキースを引っ剥がし、その左肩辺りに短剣を突き刺した。
土汚れたキースの顔に、カイセイの汗がポタリポタリと落ちている。
「……勝負ありです」
息を切らせながらカイセイが言った。
カイセイの勝ちだ。キースの負けだ。
咄嗟に何が起こったか分からん市民兵士は、戸惑いの色を隠せずにオロオロとしていた。
俺はキースのもとへ行き「立てるか?」と問う。
キースは寝転びながら手で顔を拭いた。
「ありがとうございます……」
そんな場違いな言葉を言い、手についた土が目にでも入ったのか、いつまでも顔を手で覆い離そうとしなかった。
「お前の負けだ。ここでは近しい友として命までは取らん。あとは自害するなり国を出るなり自分で決めるんだな」
本来なら死んだ者に唯一の情けとして告げた。
だが最後にもう一つ伝えなくては気が済まされないことがある。
「良い剣だった。剣士には向いている」
カイセイも、そう思うと微笑を添えていた。
「衛兵! キースに手を貸せ! この内戦はアルゴブレロ王の勝利で終戦する!」
棒立ちで見守っていたセルジオ北部の兵士はハッとなり、急にバタバタ動き回り始めた。
カイセイの剣はキースを傷付けてはいないが何かあってはいけない。すぐに安全地へ運び込むよう俺から指示を出している。
「バル様。私達も王のもとへ戻りましょう」
「ああ、急ぐぞ」
「待ちなよ」
呼び止められて振り返ると怨念をまとった市民兵士たちがまだそこに居た。
まるでこちらはまだ戦えるぞと言うように、武器を構えながらずりずりと近寄ってくる。
「終戦だ。聞こえなかったのか?」
俺が言ってもヤツらはその足を止めないようだ。
「ああ……聞こえたさ!!」
体格のでかい男は棍棒をかざして俺へ突撃してきた。
残りの者も後から続いて俺の首を取ろうとしてくる。
これから一対百ほどの戦いが始まるのかと思うと、突然「控えー!!」と声が裂き、誰もが足を止めた。
「皆控えよ。この方を誰と心得ている。我が国クランクビスト、バル王子であるぞ!」
あまり聞くことのない気張った声で、俺でもこれがカイセイであると咄嗟に気付けなかった。
市民兵士は突如見せつけられるカイセイの威厳に静かになり、俺の方では「バル様、こちらの馬をお使い下さい」と手綱を渡されている。
「か、数々の無礼。ど、どうぞお許し下さい……」
よく見れば俺達の手錠を掛けた兵士たちだ。俺と目を合わせるのも怖いらしい。
「カイセイ。急ぐぞ」
「はい!」
馬にまたがれば視界が高くなり、より遠くまで見渡せた。
戦うことを決めてがらんどうにされた港街も、終戦を伝えに行く騎馬隊の後ろ姿もよく見える。
キースはちょうど建物内に入ろうかという背中がそこにあった。
頼りなく丸まった背中を見ていたら、俺はこういう時の自分が嫌だなと思って大きな溜息を付くのである。
どうしようもなく舌打ちをしつつ市民兵士の方を見下ろした。
「お前らが何を恨んで戦うのかは知らん。知らんが、頼れるひとりの政治家を信じきらなかったことはお前らも負けを意味するのだ。勝敗というのは人が死ぬこと以前で決まっている」
それを言い終えたら馬を走らせて南へ下った。
大河での戦いは終わり、すでに片付けが始まっていた。
「……」
俺への返事を監視役はしないのであるが、すっかり自分の任務も忘れたのか両腕を組んで唸り声だけは上げていた。
攻撃をかわす方が劣勢だと見られるが、攻撃を仕掛ける方も同じように体力がいる。
よってどちらも苦しそうな表情を浮かべているのが見えていた。
息を飲み集中して見ていたいのであるが阻害してくるものがある。相変わらず鳴り止まん市民兵士の掛け声だ。
決闘とは由緒正しき決断の儀式であるのに、ヤツらのせいでまるで品の無いものに成り下がった。
俺はだんだんと苛つき、歯ぎしりを鳴らしている。
「あれらは多分軍人では無いでしょうね」
「そんな事は分かり切っている」
苛つきついでだ。珍しく人に向けて言葉を発した監視役にも、いちいち喜んだりせずに俺は言い返した。
「軍人ならまず、武器を取り扱う前に礼儀を習う」
関所モドキで襲ってきた野蛮人の方がまだ良い連中だった。と、俺は独り言としてグチグチ喋っていた。
その間に試合には変化の兆しがあった。
とうとうカイセイが足を滑らせて体勢が崩れてしまったのである。
これを行けと市民兵士は声を荒らげた。キースも「やああ!」と剣を振り上げ止めの構えを見せる。
キースの勝利が確定したと、誰もが思えるシーンだ。……だが何人が真意に気付けただろう。
「ううっ!!」
瞬きの後には、うめき声と共にキースが倒れ込んでいる。
カイセイは地面に腹ばいになったキースを引っ剥がし、その左肩辺りに短剣を突き刺した。
土汚れたキースの顔に、カイセイの汗がポタリポタリと落ちている。
「……勝負ありです」
息を切らせながらカイセイが言った。
カイセイの勝ちだ。キースの負けだ。
咄嗟に何が起こったか分からん市民兵士は、戸惑いの色を隠せずにオロオロとしていた。
俺はキースのもとへ行き「立てるか?」と問う。
キースは寝転びながら手で顔を拭いた。
「ありがとうございます……」
そんな場違いな言葉を言い、手についた土が目にでも入ったのか、いつまでも顔を手で覆い離そうとしなかった。
「お前の負けだ。ここでは近しい友として命までは取らん。あとは自害するなり国を出るなり自分で決めるんだな」
本来なら死んだ者に唯一の情けとして告げた。
だが最後にもう一つ伝えなくては気が済まされないことがある。
「良い剣だった。剣士には向いている」
カイセイも、そう思うと微笑を添えていた。
「衛兵! キースに手を貸せ! この内戦はアルゴブレロ王の勝利で終戦する!」
棒立ちで見守っていたセルジオ北部の兵士はハッとなり、急にバタバタ動き回り始めた。
カイセイの剣はキースを傷付けてはいないが何かあってはいけない。すぐに安全地へ運び込むよう俺から指示を出している。
「バル様。私達も王のもとへ戻りましょう」
「ああ、急ぐぞ」
「待ちなよ」
呼び止められて振り返ると怨念をまとった市民兵士たちがまだそこに居た。
まるでこちらはまだ戦えるぞと言うように、武器を構えながらずりずりと近寄ってくる。
「終戦だ。聞こえなかったのか?」
俺が言ってもヤツらはその足を止めないようだ。
「ああ……聞こえたさ!!」
体格のでかい男は棍棒をかざして俺へ突撃してきた。
残りの者も後から続いて俺の首を取ろうとしてくる。
これから一対百ほどの戦いが始まるのかと思うと、突然「控えー!!」と声が裂き、誰もが足を止めた。
「皆控えよ。この方を誰と心得ている。我が国クランクビスト、バル王子であるぞ!」
あまり聞くことのない気張った声で、俺でもこれがカイセイであると咄嗟に気付けなかった。
市民兵士は突如見せつけられるカイセイの威厳に静かになり、俺の方では「バル様、こちらの馬をお使い下さい」と手綱を渡されている。
「か、数々の無礼。ど、どうぞお許し下さい……」
よく見れば俺達の手錠を掛けた兵士たちだ。俺と目を合わせるのも怖いらしい。
「カイセイ。急ぐぞ」
「はい!」
馬にまたがれば視界が高くなり、より遠くまで見渡せた。
戦うことを決めてがらんどうにされた港街も、終戦を伝えに行く騎馬隊の後ろ姿もよく見える。
キースはちょうど建物内に入ろうかという背中がそこにあった。
頼りなく丸まった背中を見ていたら、俺はこういう時の自分が嫌だなと思って大きな溜息を付くのである。
どうしようもなく舌打ちをしつつ市民兵士の方を見下ろした。
「お前らが何を恨んで戦うのかは知らん。知らんが、頼れるひとりの政治家を信じきらなかったことはお前らも負けを意味するのだ。勝敗というのは人が死ぬこと以前で決まっている」
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