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lll.ロンド小国、旧ネザリア
城を買ったという強者
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その後も俺はあらゆる数字を試して回し、その引き出しを開けようとした。
リュンヒンの生年月日はありきたりだがもちろんハズレで、テダム、オルバノ元王、イアリス妃、思いつく数字は全てダメである。
もちろんシェード家全員の生年月日を暗記している強者では無いために、何度か訪れる使用人から聞き出したものだ。
その者の記憶が間違っている可能性はある。だが執務室の大事そうな引き出しに知人の生年月日など入れるとは思えんので、手慣らしとしてだ。
「……」
廊下で人が作業するのをよそに、俺は椅子に座りながら数字は何だと考えまくっていた。
メルチ王国の英雄として知られるシェード・メルチに関連する数字でも無い。
「リュンヒンの愛人か? それは無理だぞ……」
いっそのこと硬いものでも食い込ませてねじ開けるかと頭に浮かんだ。
するとその頃、やけに廊下を騒がしく歩いてくる者がいると気付いた。廊下に積んでいる荷物は何事かとイライラした声を荒げながら人がやって来る。
俺は顔を上げていた。
何人かで話しているような声が次第に俺の元へ近くなり、とうとうこの執務室の
中に足を入れてきた。
「君かね。勝手に人の家に転がり込んでいる者というのは」
俺との出会い頭にその者は息を荒くしてそう言った。
見知らぬ男であった。老人とまではいかないが、歳ではオルバノ元王や俺の亡き父親と同年代くらいではなかろうか。
それよりもこの男が口にした言葉が気になり、俺は「人の家?」と首を傾げている。
男はずかずかと机のもとまでやって来た。
「契約なら済ませてある」
机の上に紙を叩けつけられた。
何の契約書だろうと覗き込むと、どうやらこの城を男は金で買ったらしい。
城を金で買われるというのは初めて目にした。そんなことが出来るのかと驚いたくらいだ。
「随分儲かっているのだな。どこの貴族の者だ」
「軽々しく話しかけるでない。私はオルバノの親戚であるぞ」
「ほう」
実に興味深い話で俺は足を組んで前のめりだ。
元王の親戚だと言い張る男は背後に幾人の取り巻きを連れている。そいつらに向かい「そうなのか?」と聞けば、皆ビクリと肩を震わせてうんうん頷いていた。
「なら四桁の数字を言え」
「よ、四桁?!」
親戚殿は突拍子もないことに声をひっくり返す。
「四桁だ。王権を任されているなら秘密番号ぐらい受け継いでいるだろう?」
「ふざけたことで欺いても意味は無いぞ」
まったくつまらん親戚だことだ。俺はやる気を無くした。
「それよりそこは私の席だ。君は早くここから立ち退きなさい!」
怒って赤くなりだす親戚殿の広いでこを眺めた後、俺はこの椅子に座ったままくるりと回転して見せた。
親戚殿はますます赤くなった。
「君がその態度で居られるのも今のうちだ。ちゃんと弁護士も連れてある」
「用意周到だな。よっぽど権力に自信が無いのか」
「黙れい!」
親戚殿が指示を出し、取り巻きの中からまた違った男が前に出た。
ガラス眼鏡をかけて黒の皮カバンを脇に挟んでいる。いかにも計算が得意そうな外見だ。
弁護士はシャッキリと床と垂直に立ち、俺に向かって朗々と告げる。
「王権とは代々等身の近い者が後を継ぐ方針を取られています。ここに居られます方は、オルバノ様の祖父の兄の孫に当たる等身で、さらには孫の中でも長男であるために最も権利の高いお方であらせられます」
「どうだね。身分の差におののいたであろう」
親戚殿は得意げであった。
それが俺には何故なのかはよく分からんので「はあ」と答える。
親戚殿は俺の反応に何か勘違いをして、高らかにワッハッハと笑っていた。
「君の親等も測ってみましょう」
「数字で見れば君でも分かりやすい」
なんだか知らんが、盛り上がった二人によって俺は測られるようである。
「リュンヒン様のご両親はシェード・オルバノ様、メアネル・イアリス様。オルバノ様は三人兄弟。イアリス様は七人姉妹であらせられます」
「イアリス妃の妹君が俺の母親だ」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。イアリス様の妹様が母親となると…………」
弁護士は身を固まらせて黙ってしまう。
親戚殿の方も笑うのをやめていた。
「どうした。さっそく計算とやらに躓いたか?」
「い、いえいえ……ええっと。何ですか? イアリス様の妹君が? 母親ですと?」
「母親の名はメアネル・リアンだ。この近辺なら別にニューリアンの女性と結婚するのは珍しくも無いだろう」
「……リアン様はレイヴン・ジョーサン様とご結婚。お二人にはアレン様とバル様の王子がお生まれに」
「そのバルの方が俺だ」
弁護士は口を開けたままで動かない。まるで壊れてしまった機械のようになった。親戚殿は弁護士の胸ぐらを掴み、ぐらぐら揺らして正気に戻そうとしている。
「で、親等とやらは何だったのだ」
イラついて俺が言うと弁護士はハッとして目を覚ました。
そして俺に頭を下げた。
「あなたが王です。レイヴン・バル様」
どうやら測った結果、俺の方が勝ったらしい。
「貴様! 馬鹿なことを言うでない!」
怒った親戚殿には弁護士の方も怒った。
「アンタは偉そうに! 七親等の遠い遠い親戚とも言い難いくせして!」
「何を……!!」
目の前で掴み合いの喧嘩が繰り広げられる。
荷物を運んだばかりの部屋だ。あまり騒ぎ立てられると埃が立ってかなわん。
「分かったならもう帰ってくれ」
騒ぎを聞きつけて使用人達までもが集まって来ている。
俺は周りの者に「こいつらを追い出せ」と頼んだ。親戚殿は連行されるのを最後まであらがっていたが、弁護人はすんなりと聞いて自分で歩き出している。
「私は他の有権者が権利放棄するためにも多額の金を叩いたのだぞ!!」
雄叫びのような言葉が廊下から届いてきた。
それはそれはごくろうであったな。と、俺は心の中で返事を返した。
「弁護士の方には親戚殿が支払った給料の三倍の額を渡しておいてくれ」
城を金で買った件については知らん。その大金がどこに渡ったかも分からんし放棄した。
「は、はい。分かりました」
言いつけた使用人が弁護士の後を追って走っていく。
まだ執務室に居た使用人が「太っ腹ですね」と笑いながら言っていた。
「真面目に仕事をする者を褒める為の金だ。当然だろう」
それよりも四桁の番号が分からずじまいであったのが何よりも惜しい。
リュンヒンの生年月日はありきたりだがもちろんハズレで、テダム、オルバノ元王、イアリス妃、思いつく数字は全てダメである。
もちろんシェード家全員の生年月日を暗記している強者では無いために、何度か訪れる使用人から聞き出したものだ。
その者の記憶が間違っている可能性はある。だが執務室の大事そうな引き出しに知人の生年月日など入れるとは思えんので、手慣らしとしてだ。
「……」
廊下で人が作業するのをよそに、俺は椅子に座りながら数字は何だと考えまくっていた。
メルチ王国の英雄として知られるシェード・メルチに関連する数字でも無い。
「リュンヒンの愛人か? それは無理だぞ……」
いっそのこと硬いものでも食い込ませてねじ開けるかと頭に浮かんだ。
するとその頃、やけに廊下を騒がしく歩いてくる者がいると気付いた。廊下に積んでいる荷物は何事かとイライラした声を荒げながら人がやって来る。
俺は顔を上げていた。
何人かで話しているような声が次第に俺の元へ近くなり、とうとうこの執務室の
中に足を入れてきた。
「君かね。勝手に人の家に転がり込んでいる者というのは」
俺との出会い頭にその者は息を荒くしてそう言った。
見知らぬ男であった。老人とまではいかないが、歳ではオルバノ元王や俺の亡き父親と同年代くらいではなかろうか。
それよりもこの男が口にした言葉が気になり、俺は「人の家?」と首を傾げている。
男はずかずかと机のもとまでやって来た。
「契約なら済ませてある」
机の上に紙を叩けつけられた。
何の契約書だろうと覗き込むと、どうやらこの城を男は金で買ったらしい。
城を金で買われるというのは初めて目にした。そんなことが出来るのかと驚いたくらいだ。
「随分儲かっているのだな。どこの貴族の者だ」
「軽々しく話しかけるでない。私はオルバノの親戚であるぞ」
「ほう」
実に興味深い話で俺は足を組んで前のめりだ。
元王の親戚だと言い張る男は背後に幾人の取り巻きを連れている。そいつらに向かい「そうなのか?」と聞けば、皆ビクリと肩を震わせてうんうん頷いていた。
「なら四桁の数字を言え」
「よ、四桁?!」
親戚殿は突拍子もないことに声をひっくり返す。
「四桁だ。王権を任されているなら秘密番号ぐらい受け継いでいるだろう?」
「ふざけたことで欺いても意味は無いぞ」
まったくつまらん親戚だことだ。俺はやる気を無くした。
「それよりそこは私の席だ。君は早くここから立ち退きなさい!」
怒って赤くなりだす親戚殿の広いでこを眺めた後、俺はこの椅子に座ったままくるりと回転して見せた。
親戚殿はますます赤くなった。
「君がその態度で居られるのも今のうちだ。ちゃんと弁護士も連れてある」
「用意周到だな。よっぽど権力に自信が無いのか」
「黙れい!」
親戚殿が指示を出し、取り巻きの中からまた違った男が前に出た。
ガラス眼鏡をかけて黒の皮カバンを脇に挟んでいる。いかにも計算が得意そうな外見だ。
弁護士はシャッキリと床と垂直に立ち、俺に向かって朗々と告げる。
「王権とは代々等身の近い者が後を継ぐ方針を取られています。ここに居られます方は、オルバノ様の祖父の兄の孫に当たる等身で、さらには孫の中でも長男であるために最も権利の高いお方であらせられます」
「どうだね。身分の差におののいたであろう」
親戚殿は得意げであった。
それが俺には何故なのかはよく分からんので「はあ」と答える。
親戚殿は俺の反応に何か勘違いをして、高らかにワッハッハと笑っていた。
「君の親等も測ってみましょう」
「数字で見れば君でも分かりやすい」
なんだか知らんが、盛り上がった二人によって俺は測られるようである。
「リュンヒン様のご両親はシェード・オルバノ様、メアネル・イアリス様。オルバノ様は三人兄弟。イアリス様は七人姉妹であらせられます」
「イアリス妃の妹君が俺の母親だ」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。イアリス様の妹様が母親となると…………」
弁護士は身を固まらせて黙ってしまう。
親戚殿の方も笑うのをやめていた。
「どうした。さっそく計算とやらに躓いたか?」
「い、いえいえ……ええっと。何ですか? イアリス様の妹君が? 母親ですと?」
「母親の名はメアネル・リアンだ。この近辺なら別にニューリアンの女性と結婚するのは珍しくも無いだろう」
「……リアン様はレイヴン・ジョーサン様とご結婚。お二人にはアレン様とバル様の王子がお生まれに」
「そのバルの方が俺だ」
弁護士は口を開けたままで動かない。まるで壊れてしまった機械のようになった。親戚殿は弁護士の胸ぐらを掴み、ぐらぐら揺らして正気に戻そうとしている。
「で、親等とやらは何だったのだ」
イラついて俺が言うと弁護士はハッとして目を覚ました。
そして俺に頭を下げた。
「あなたが王です。レイヴン・バル様」
どうやら測った結果、俺の方が勝ったらしい。
「貴様! 馬鹿なことを言うでない!」
怒った親戚殿には弁護士の方も怒った。
「アンタは偉そうに! 七親等の遠い遠い親戚とも言い難いくせして!」
「何を……!!」
目の前で掴み合いの喧嘩が繰り広げられる。
荷物を運んだばかりの部屋だ。あまり騒ぎ立てられると埃が立ってかなわん。
「分かったならもう帰ってくれ」
騒ぎを聞きつけて使用人達までもが集まって来ている。
俺は周りの者に「こいつらを追い出せ」と頼んだ。親戚殿は連行されるのを最後まであらがっていたが、弁護人はすんなりと聞いて自分で歩き出している。
「私は他の有権者が権利放棄するためにも多額の金を叩いたのだぞ!!」
雄叫びのような言葉が廊下から届いてきた。
それはそれはごくろうであったな。と、俺は心の中で返事を返した。
「弁護士の方には親戚殿が支払った給料の三倍の額を渡しておいてくれ」
城を金で買った件については知らん。その大金がどこに渡ったかも分からんし放棄した。
「は、はい。分かりました」
言いつけた使用人が弁護士の後を追って走っていく。
まだ執務室に居た使用人が「太っ腹ですね」と笑いながら言っていた。
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