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lll.ロンド小国、旧ネザリア
勝利の歌を!
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「アリみてぇに湧いてくるなぁ」
エレンガバラの声である。だがここは、あのキャンプのように広々とした空が見上げられるような場所では無い。
定例会議とだけ伝わっており、各所の大臣たちがあの会議の場へとぼちぼち集まってきている。
よくは知らんが偉めの人物なんだろうという認識度は、この男も俺も対して変わらない。俺とてメルチから言わせれば部外者にあたるくらいの新人だからな。
この男が言うように、メルチの舵を握る役人たちはこの場を埋め尽くす勢いで現る。それを二人で席から眺めながら仲良く両者肩肘をついていた。
「で、そのバルの兄貴ってのはしゃあねぇ野郎だな」
会話の続きのように話しかけられるが、その話題は会議場に来る前に世間話の一つとして話したことであった。
「ひょっこり帰って来た奴が国の王かよ。俺は認めねえ」
「お前が認めなくてもそうなる。……気持ちは受け取っておくが」
後の一言は別に添えんでも良かったのに何故か俺がそうしたくてしたのだ。長男が家業を継ぐという、こんな当たり前なことに意見してくれた人間は初めて見たからな。
「バルは兄貴を見返してやりたくてここに来たのか?」
偶然にもこの会場で突き付けられた事と同じ内容を言われた。
集まっている何人かの役員はエレンガバラに気が付いている。「アレはまさか」「どうしてアレが」とざわめき始める輩に、コイツは呑気に手を振って答えていた。
「なんだか有名人みたいだぜ」
俺への核心を突く質問などそっちのけで、へへっと鼻の下を掻きながら喜んでいる。
「……そうかもしれんな」
「だろ? やっぱり俺が格好良いからか」
「そっちの話では無い」
見せつけてくる筋肉は仕舞わせて、先ほどの話の続きだ。
「兄を陥れたいとか、恨みを晴らしたいとかは毛頭無いのだ。ただ、あの国に住む国民が納得しないのではないだろうかと思えてな」
「嫌なら反乱でも起こすだろ」
「いや。皆、戦うことに対し消極的だ。それはそれで平和だったんだがな……」
がっくしと落ち込んでいる。
すると急に背中を叩かれた。しかも痛がっていたら、巨体が覆いかぶさってきて肩に腕を回されていた。
「なんだよ、なんだよ。はっきり言えってんだよ」
「離れろ! 俺はお前との仲を勘違いされたく無いのだ!」
しかし振り解かれんために鍛えられた頑丈な腕だ。引っ掻こうが噛み付こうが歯が立たない。ニヤニヤニヤニヤ笑っていて気味も悪い。
「元いた場所が好きだってだけだろう?」
「はああ?!」
「何も思い詰めること無えさ。大事なもん取られりゃ取り返すのが男だぜ!!」
グッと親指を立てられ、エレンガバラは一番良い顔を俺に向けた。
「おーい!! お前ら!!」
ただの大声でもよく響く会場にエレンガバラは急に吠え出した。
同席にいた大臣らは耳を防ぐし、役員らは一人残らず顔を上げる。また、外まで声は駆け巡ったらしい。慌てて中へ駆けてきた者もいた。
「バルの大事なもん取り返すってよ!!」
「や、やめろ……」
ヤツがでかい声を出すたびに腕が首まで締め付けていて苦しい……。
「お前ら全員協力してやれや!!」
呆気にとられる前役員。もちろん拍手など起こらん。
期待した反応にならなかったことで「しみったれてんなぁ」とエレンガバラは肩を落としていた。それで俺は命かながら脱出できた。
観念したのかと思ったら逆であった。
「よっしゃ! いっちょパレードでも開くか! ここはパーっと派手にぶち上げてテンション上げていこうぜ!」
「そんなことに使える金などあるか! それに、敵を挑発しているのと同じことになるだろうが!」
こちらも声を張ってしまう。
「そんな怒んなよぉ」
「ふざけが過ぎる!」
早く会議は始まらんのかと俺は懐中時計を確認した。
時間はもう三分ほど早いが、これだけ人が集まっていれば少々早めに開始しても良いのではないかと思う。
だが肝心の進行役がまだ席についていない。一体何をやっているのだ……イライラする。
「よぉーし、わかった! なら歌でも歌おうぜっ」
「……!?」
声が出なかったのだ。驚きすぎると人は声が出せん。
隣で喉の調子を整えたエレンガバラは、公言した通りに歌を歌い始めた。
皆がキョトンとした。俺も含め、この荒削りの歌声を聞く全ての人間があんぐりと口を開けていた。
陽気に歌声を響かせていたエレンガバラであったが、何を思ってか突然歌うのをやめる。
やっと自身がこの場から浮いていると気付き、恥をかき出したかと俺は思った。
ヤツは周りの役員を睨み回してから、チッと舌打ちを一度鳴らす。
「……おい、お前らなあ。来賓に恥かかせろって教えられてんのか? ああ??」
野獣が来賓という言葉を使う。
混乱していると、また荒削りの歌声は再開していた。
しかし今度はエレンガバラの独壇歌唱では無いようだ。喝を受けて声を出す役員がどんどん増えていき、歌声は壮大な合唱となったのである。
曲目は誰でも知っている勝利の日に歌う歌だ。
定例会議が始まる時間はとうに過ぎ、エレンガバラの「もっかいだ!」に合わせて歌は四周目に入ったところだった。
ロンド小国の荒くれ者。領地ごと追いやられた野獣は恐ろしい力を秘めている。
大臣と役員ら、兵士は外の見回りの者まで、一体どんな呪いをかけられたというのだ。全くの謎だ。
全員で肩を組んで連なり、勝利の歌がいつまでもいつまでも繰り返し歌われる。
エレンガバラの声である。だがここは、あのキャンプのように広々とした空が見上げられるような場所では無い。
定例会議とだけ伝わっており、各所の大臣たちがあの会議の場へとぼちぼち集まってきている。
よくは知らんが偉めの人物なんだろうという認識度は、この男も俺も対して変わらない。俺とてメルチから言わせれば部外者にあたるくらいの新人だからな。
この男が言うように、メルチの舵を握る役人たちはこの場を埋め尽くす勢いで現る。それを二人で席から眺めながら仲良く両者肩肘をついていた。
「で、そのバルの兄貴ってのはしゃあねぇ野郎だな」
会話の続きのように話しかけられるが、その話題は会議場に来る前に世間話の一つとして話したことであった。
「ひょっこり帰って来た奴が国の王かよ。俺は認めねえ」
「お前が認めなくてもそうなる。……気持ちは受け取っておくが」
後の一言は別に添えんでも良かったのに何故か俺がそうしたくてしたのだ。長男が家業を継ぐという、こんな当たり前なことに意見してくれた人間は初めて見たからな。
「バルは兄貴を見返してやりたくてここに来たのか?」
偶然にもこの会場で突き付けられた事と同じ内容を言われた。
集まっている何人かの役員はエレンガバラに気が付いている。「アレはまさか」「どうしてアレが」とざわめき始める輩に、コイツは呑気に手を振って答えていた。
「なんだか有名人みたいだぜ」
俺への核心を突く質問などそっちのけで、へへっと鼻の下を掻きながら喜んでいる。
「……そうかもしれんな」
「だろ? やっぱり俺が格好良いからか」
「そっちの話では無い」
見せつけてくる筋肉は仕舞わせて、先ほどの話の続きだ。
「兄を陥れたいとか、恨みを晴らしたいとかは毛頭無いのだ。ただ、あの国に住む国民が納得しないのではないだろうかと思えてな」
「嫌なら反乱でも起こすだろ」
「いや。皆、戦うことに対し消極的だ。それはそれで平和だったんだがな……」
がっくしと落ち込んでいる。
すると急に背中を叩かれた。しかも痛がっていたら、巨体が覆いかぶさってきて肩に腕を回されていた。
「なんだよ、なんだよ。はっきり言えってんだよ」
「離れろ! 俺はお前との仲を勘違いされたく無いのだ!」
しかし振り解かれんために鍛えられた頑丈な腕だ。引っ掻こうが噛み付こうが歯が立たない。ニヤニヤニヤニヤ笑っていて気味も悪い。
「元いた場所が好きだってだけだろう?」
「はああ?!」
「何も思い詰めること無えさ。大事なもん取られりゃ取り返すのが男だぜ!!」
グッと親指を立てられ、エレンガバラは一番良い顔を俺に向けた。
「おーい!! お前ら!!」
ただの大声でもよく響く会場にエレンガバラは急に吠え出した。
同席にいた大臣らは耳を防ぐし、役員らは一人残らず顔を上げる。また、外まで声は駆け巡ったらしい。慌てて中へ駆けてきた者もいた。
「バルの大事なもん取り返すってよ!!」
「や、やめろ……」
ヤツがでかい声を出すたびに腕が首まで締め付けていて苦しい……。
「お前ら全員協力してやれや!!」
呆気にとられる前役員。もちろん拍手など起こらん。
期待した反応にならなかったことで「しみったれてんなぁ」とエレンガバラは肩を落としていた。それで俺は命かながら脱出できた。
観念したのかと思ったら逆であった。
「よっしゃ! いっちょパレードでも開くか! ここはパーっと派手にぶち上げてテンション上げていこうぜ!」
「そんなことに使える金などあるか! それに、敵を挑発しているのと同じことになるだろうが!」
こちらも声を張ってしまう。
「そんな怒んなよぉ」
「ふざけが過ぎる!」
早く会議は始まらんのかと俺は懐中時計を確認した。
時間はもう三分ほど早いが、これだけ人が集まっていれば少々早めに開始しても良いのではないかと思う。
だが肝心の進行役がまだ席についていない。一体何をやっているのだ……イライラする。
「よぉーし、わかった! なら歌でも歌おうぜっ」
「……!?」
声が出なかったのだ。驚きすぎると人は声が出せん。
隣で喉の調子を整えたエレンガバラは、公言した通りに歌を歌い始めた。
皆がキョトンとした。俺も含め、この荒削りの歌声を聞く全ての人間があんぐりと口を開けていた。
陽気に歌声を響かせていたエレンガバラであったが、何を思ってか突然歌うのをやめる。
やっと自身がこの場から浮いていると気付き、恥をかき出したかと俺は思った。
ヤツは周りの役員を睨み回してから、チッと舌打ちを一度鳴らす。
「……おい、お前らなあ。来賓に恥かかせろって教えられてんのか? ああ??」
野獣が来賓という言葉を使う。
混乱していると、また荒削りの歌声は再開していた。
しかし今度はエレンガバラの独壇歌唱では無いようだ。喝を受けて声を出す役員がどんどん増えていき、歌声は壮大な合唱となったのである。
曲目は誰でも知っている勝利の日に歌う歌だ。
定例会議が始まる時間はとうに過ぎ、エレンガバラの「もっかいだ!」に合わせて歌は四周目に入ったところだった。
ロンド小国の荒くれ者。領地ごと追いやられた野獣は恐ろしい力を秘めている。
大臣と役員ら、兵士は外の見回りの者まで、一体どんな呪いをかけられたというのだ。全くの謎だ。
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