クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

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lll.ニューリアン王国、セルジオ王国

人生経験1

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 それにしてもライトがあるとは言え、薄暗くて不気味であるのは変わらない。
 受付らしいカウンターがあっても商品がどこにも見当たらないし、この店主が寝泊まりしてそうな毛布を半分かぶったソファーがあるばかりだ。
 ますます不審で居ると「今日は何を見ます?」と知り合いの二人は会話を進め出した。
「最新のものを試したいんだけど、入荷してあるかな?」
 マルク王は何かするようだ。
「それなら、ものごっつい物がありますよ。特注も特注」
 何やら怪しげに笑いながら店主は奥へと一旦入って行った。そしてすぐに戻ってくると、その特注をドンッとカウンターの上に置いたのである。
 見ず知らずの者とは距離を取っていた俺であるが、その置かれたものがまさかと思っておずおず勝手に近付いていた。
「こ、これは……」
 見るも恐ろしい。大銃であった。本当にそう呼ぶのが正しいかも分からん兵器だ。
「大国から密輸した最新作ですよ。飛距離は短銃の三倍。これなら中距離にも届くって代物です」
 得意げに告げられたものを飲み込むのに精一杯で、俺からは信じられないと首を振るだけである。
 マルク王はその場で高らかに笑っていた。
「いよいよ弓矢の出番が無くなるな!」
「そうです! これなら引き金を引くだけでゼロ秒発射。しかも弾は三発も込められます」
「いやぁ、素晴らしい!!」
 ハッハッハと笑い、店主も頬を横に引き伸ばしたように笑っていた。
「そうか!」と、マルク王が俺の肩を急に叩く。小動物のような甲高い叫び声を上げてしまった。
「バル君は銃を撃ったことが無いんだろう?」
 俺が頷く前に店主が「それなら」と自身の腰のところから短銃を取り出した。
「比べた方が違いが分かる」
 その二つの銃を両手に持った店主が店の奥へと進む。
 マルク王も俺の肩を抱いたまま、店主の行く場所へと着いて行った。
 こんなに何も無かった店であるが、カウンターの奥の部屋へ入ると、天井まで伸びる棚いっぱいに軍事用の兵器が仕舞われてあった。
 短銃と一口に言っても、その部屋だけでも三十もの形違いが壁に掛けられてあったのをこの目でしかと見た。
「遅れを取ったら終わりだよ?」
 おののく俺にトドメでも刺したいのか。マルク王が独り言みたいにして言う。

 バックヤードのようなところを通り過ぎ、いよいよ俺が初めて銃を持たされる時が来た。
 まさかこんな今日に突然やって来るとは思いもしない。
「右でしっかり握ったら、左手で包み込むようにして押さえるんだ。そうすれば弾のブレが抑えられるからね」
 俺の側について教えてくれるのは、あの店主では無くてマルク王である。
「腕を伸ばして……そうそう。腕の力は抜くんだよ手首より先に集中するんだ」
 的確な指示に店主も見守るだけで何も言っては来ない。
 マルク王の「引き金を引いてごらん」で、俺はこの手がプルプル震えるのが怖かった。
 銃口の先にはもう何発も弾を食らった人形が立っている。
 そんな物を前にして、俺はいったい何処に照準を定めて引き金を引けば良いのだと迷うのだ。
「頭に当たるかな?」
 見守っていただけの店主が楽しみながら言っている。
 俺は銃を撃ったことは無いが、撃たれたことなら一度あるのだ。腕がもがれたかと思ったあの衝撃波はもう忘れかけていても痛かったのは間違いない。
 あの人形は既に二発頭部分を打ち抜かれている。もう死んでいる。ただの人形であるが、俺は自分に唱えながらついに引き金を引いた。
「……!」
 目を瞑ってしまったのは、手にかかる衝撃もそうであるし耳にキーンと居残る破裂音も理由だ。
 俺が初めて撃った弾は人形から大きく外れて左上に当たったらしい。
 それでもちゃんと前に飛んだということが奇跡のようで若干嬉しい。
「驚いて銃口が上に上がってしまったね」
「まあまあ初めてはみんなそうですよ」
 パラパラと拍手を送りつつ経験者の二人は語り合った。

 さて。次が本番だと大銃の方が出てくる。
 さすがに俺は恐ろしくて拒否した。さっきの短銃でさえもう両手が痺れて何も持てそうも無いのである。
 大銃はマルク王の手に渡された。両手で大事そうに受け取ると、わざとらしく重いという表現を見せつけてくる。
 そんな様子を俺は後ろから見守っていた。
 銃を撃たない俺の方には耳当てが渡された。店主も知らぬうちに付けていることであるし俺もそれを装着する。
 水の中に入るみたいな音がこもった状態であるが、声を大にして喋るマルク王と店主のやりとりが聞こえた。
「距離が三倍なら威力も三倍。何人かの兵士が耳から血を流したと聞いています」
「なるほど。まあそれも次第に良くなっていくんだろう」
 恐ろしいことを笑いながら言えるものだ。
 人を殺し、味方の耳から血を流せる兵器を、マルク王は人形へと構えた。俺が扱った短銃のように、片手は添えるだけとはいかないらしい。
 右手は引き金に。左手は銃口が長く伸びた筒部分を支える。
「では行くよ。バル君。よーく見ていたまえ!」
 マルク王はこっちを軽く振り返った。
 そして少しの間で照準が合わされ、その大銃が放たれた。
「……!!」
 俺はその瞬間をしかとこの目で見届けた。
 瞬きは頑張ってしなかった。それでも弾が見えるはずは無い。
 俺が見たのは、三倍の距離を離された人形の頭部分に穴が空いた瞬間だけだ。
「お見事!」
 店主が拍手を送りながらマルク王の元へ行く。もう耳当ては外して良いらしかった。
「確かに飛距離は格段に伸びるけどやっぱり重さが気になるなぁ。しかもこれを徒歩で運んでから撃つとなると、疲弊した兵士には扱いが難しすぎるよ」
「聞いたところによると、中距離兵を指定位置に配置して撃つ方法が取られるらしいです」
「なんだ。それなら大砲と変わらないじゃない……」
 期待した分だけ失望が大きかったようだ。
 いずれにしても、俺には共感できん話で置いてけぼりであるが。
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