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lll.エシュ神都、パニエラ王国
二国の異質な情景
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四人で向かうのはパニエラ王国へのただ一つの出入り口だ。
一行は自動車に詰め込まれて出発した。平坦な道なら良いが、少し曲がったりしようものなら内臓が押し潰されそうになった。
「あれが神殿ですか?」
エセルが問う。運転席の隣の座席は一人用だ。彼女だけ景観を眺められるゆとりがあった。
「ええ。エシュ神殿です」
俺はそのエシュ神殿とやらを通り過ぎる前に一目見ておきたく、左右からの圧力に押されるようにして身を前へと乗り出す。
ちょうど運転手とエセルの間に顔を出すと、前のガラス窓から神殿が少し見えた。
これも古代人が手掛けた建物で間違いない。扉の長辺がやはり大人二倍分もある。
建物は石で作られているが全体が薄い緑色である。それは神秘的だと言っても良いが、奇妙だとも捉えられる風格であった。
古代人の神殿ならカイロニアにも存在している。九カ国首脳会議で訪れた礼拝堂のみ備わった危なげな建物のことだ。
それと比べたら、こちらの方が技術力が高いような気がする。
「あそこにエシュがいるのか……」
外観を眺めていたはずが知らずに俺は言っていた。
少し開かれた扉を信徒らが往来している。ローブを着た人物はあの建物に仕える者なのだろうか。
ごっほん、とシルヴァーが咳払いをした。
俺ははしゃぎ過ぎたのを反省し、この身を引っ込めたら大人しくすることに徹している。
広い道だけを進んでいると「到着ですよ」と運転手が告げた。ここの関所もベンブルクとロンドを繋いだ場所と同じで、街中に突然現れる国境門だ。
珍しがっているエセルにはシルヴァーが教えてやってくれる。
「その昔、エシュ王国とパニエラ王国は同じ国だったので」
だがその続きは話さずにシルヴァーは手続きをしに行ってしまった。
エシュとパニエラが違う道に進んだ訳を、彼がどうやって答えるのか俺は気になったのだ。
だがそれをエセルに話すには少々むごいので苦笑で済ませたか……。
俺は待つ間ベンチに腰掛け、ホットドックを売る売店を眺めていた。
別に腹は減っていない。それより昼前の行列が気になって見ている。
ルイスはいつも俺の側から離れないから、この時も同じように行列を見て言葉をかけてきた。
「異質ですね」
「お前も分かるのか」
会話になっているようで、なっていなくとも両者の考えることは一致している。
店では先に並んでいた若い女性がホットドックを受け取って去っていく。
次の男が注文するが、店主に差し出す硬貨はエシュの国のものでは無い。釣り銭もパニエラ硬貨が渡された。
「共存……で、合ってるか?」
「いいえ。むしろ逆だと思いますが」
人の外見に違いは無いのだ。ただ、何か雰囲気のようなものを感じ取れ、俺はエシュで暮らす者とパニエラで暮らす者が見分けられている。
言い方を変えれば、異文化であるパニエラの民はだいたい分かるのだ。
何が違うというのを区別するのは難しい。しかしあちらの住民は大抵憂いを帯びていることが多い気がする。
「……難しいんだな」
ぼんやりと呟いた。
二人掛けのベンチで俺の隣が空いたままでいると、一人の中年男が会釈してから座ってきた。
彼はホットドックとは違う別のものを貪り食うようであったが、片手には外国語の書かれた就職雑誌を持っていた。
文字は分からんが盗み見していると、クラクションの音がここ一体に響いて俺の注意がそっちへ向く。
道路に客人を案内する車が数台止まっていた。エシュの言葉で案内する車と、パニエラの言葉で案内する車が色と場所で分けられている。
「……さて」
両膝に力を入れて立ち上がる。知らない者と二人掛けするのは落ち着かん。
ふらふら歩き出すとルイスも付いて来た。警備としては合格だが、それもそれでだいぶ落ち着きはしない。
一行は自動車に詰め込まれて出発した。平坦な道なら良いが、少し曲がったりしようものなら内臓が押し潰されそうになった。
「あれが神殿ですか?」
エセルが問う。運転席の隣の座席は一人用だ。彼女だけ景観を眺められるゆとりがあった。
「ええ。エシュ神殿です」
俺はそのエシュ神殿とやらを通り過ぎる前に一目見ておきたく、左右からの圧力に押されるようにして身を前へと乗り出す。
ちょうど運転手とエセルの間に顔を出すと、前のガラス窓から神殿が少し見えた。
これも古代人が手掛けた建物で間違いない。扉の長辺がやはり大人二倍分もある。
建物は石で作られているが全体が薄い緑色である。それは神秘的だと言っても良いが、奇妙だとも捉えられる風格であった。
古代人の神殿ならカイロニアにも存在している。九カ国首脳会議で訪れた礼拝堂のみ備わった危なげな建物のことだ。
それと比べたら、こちらの方が技術力が高いような気がする。
「あそこにエシュがいるのか……」
外観を眺めていたはずが知らずに俺は言っていた。
少し開かれた扉を信徒らが往来している。ローブを着た人物はあの建物に仕える者なのだろうか。
ごっほん、とシルヴァーが咳払いをした。
俺ははしゃぎ過ぎたのを反省し、この身を引っ込めたら大人しくすることに徹している。
広い道だけを進んでいると「到着ですよ」と運転手が告げた。ここの関所もベンブルクとロンドを繋いだ場所と同じで、街中に突然現れる国境門だ。
珍しがっているエセルにはシルヴァーが教えてやってくれる。
「その昔、エシュ王国とパニエラ王国は同じ国だったので」
だがその続きは話さずにシルヴァーは手続きをしに行ってしまった。
エシュとパニエラが違う道に進んだ訳を、彼がどうやって答えるのか俺は気になったのだ。
だがそれをエセルに話すには少々むごいので苦笑で済ませたか……。
俺は待つ間ベンチに腰掛け、ホットドックを売る売店を眺めていた。
別に腹は減っていない。それより昼前の行列が気になって見ている。
ルイスはいつも俺の側から離れないから、この時も同じように行列を見て言葉をかけてきた。
「異質ですね」
「お前も分かるのか」
会話になっているようで、なっていなくとも両者の考えることは一致している。
店では先に並んでいた若い女性がホットドックを受け取って去っていく。
次の男が注文するが、店主に差し出す硬貨はエシュの国のものでは無い。釣り銭もパニエラ硬貨が渡された。
「共存……で、合ってるか?」
「いいえ。むしろ逆だと思いますが」
人の外見に違いは無いのだ。ただ、何か雰囲気のようなものを感じ取れ、俺はエシュで暮らす者とパニエラで暮らす者が見分けられている。
言い方を変えれば、異文化であるパニエラの民はだいたい分かるのだ。
何が違うというのを区別するのは難しい。しかしあちらの住民は大抵憂いを帯びていることが多い気がする。
「……難しいんだな」
ぼんやりと呟いた。
二人掛けのベンチで俺の隣が空いたままでいると、一人の中年男が会釈してから座ってきた。
彼はホットドックとは違う別のものを貪り食うようであったが、片手には外国語の書かれた就職雑誌を持っていた。
文字は分からんが盗み見していると、クラクションの音がここ一体に響いて俺の注意がそっちへ向く。
道路に客人を案内する車が数台止まっていた。エシュの言葉で案内する車と、パニエラの言葉で案内する車が色と場所で分けられている。
「……さて」
両膝に力を入れて立ち上がる。知らない者と二人掛けするのは落ち着かん。
ふらふら歩き出すとルイスも付いて来た。警備としては合格だが、それもそれでだいぶ落ち着きはしない。
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