クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

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lll.クランクビスト

国境地帯‐彼女を見つける‐

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 一人目は俺を切ろうと先陣切って駆けてきた。
 答えてやろうと俺は正当に剣を構える。
「参る!」
 礼儀作法を身につけた兵士らしい。だがその者の剣は、受けてみるととても重い。華奢な体のくせによく訓練を積んであるようだ。
 二人目と三人目はほとんど同時に攻撃を仕掛けてくる。なかなか剣の振りが早くて驚き、服を少し掠めたかもしれない。
 デカブツの四人目は一人目の者よりもっと力のある兵士である。さすがに重量では負けてしまう。それに五人目の弓矢兵の後押しもあって苦戦した。
「おいおい一人ずつじゃ無いのか」
 気づけば、この身ひとつで四本の剣と弓矢から逃れる戦いになっている。それでは蛮族のする戦い方と何も変わらん。
 一旦仕切り直しだと言おうとすれば足元をすくわれる。
 ふと視線に矢尻が見えたと思い、木の裏に隠れて裏側に弓矢が刺さる音を聞いた。
「……殺すつもりだな」
「出てこい! 野蛮人!」
 だが、少し考えれば分かることだ。
 顔を布で覆う男など、野蛮人、山賊、盗賊、人攫い、で間違いないのだ。
 息を整えている暇も与えんと、真面目な兵士の剣を振る掛け声が近くからした。
 身を屈めれば頭の少し上のところで剣が木にめり込んだようである。
「あ、あれ!?」
 それをチャンスとし、コイツの顎を下から蹴り上げた。
 そうすれば鼻から血を噴き出して地面に倒れている。
 やっとこれで一人片付いた。と、俺はホッとしたが、そういえば近くにはエセルがいるのだったと思い出す。
 エセルは自分がどうしたら良いのか分からず立ち尽くしているようだった。
 俺は先ほど倒した鼻血の兵士の顔に、大きめの葉っぱを被せておく。
 シュンッ、とまた弓矢が地面に突き刺さった。
 木の裏から覗き見て、弓矢兵の場所を突き止める。
「あれが厄介だ」
 俺は再び戦場へ出てデカブツへ飛び掛かる。
「逃げるんじゃなかったのか?」
 ヘラヘラと笑う兵士の返事などはせずに、その岩肌のような凹凸の激しい顔に向けてひと握の砂を投げつけた。
 目にも口にも入ったとよろけるデカブツを小突いて盾にし進む。さすがにこれでは弓矢は打てんだろう。
「もらったぞ!」
 だが、反対側では二本の剣先が一気に俺を目掛けて飛んでくる。
 相手は勝ちを確信しただろうが、そのせいで隙を生んでしまったな。
「うわぁああ!!」
 とびかかった勢いはデカブツの背中に吸収された。よってこれはデカブツの痛がる悲鳴である。
 剣士の二名はデカブツの背中に隠れて急所を突いておいた。
 盾になってくれたこの兵士も膝から崩れて後ろに倒れる。下敷きになったヤツらが辛いだろうなと俺は思っている。
 その盾が無くなったら俺が居ないと弓矢兵は焦っていたようだ。
「的を見失ったら終わりだろう」
 背後から腕を刺して終えておく。
 奪った弓矢を担ぎながら、のうのうとエセルに近づくと彼女は俺から後退りした。
 当然だ。だが、少しショックだった。
「私を殺すのですか」
「……そんな訳がない」
 自分の宿命を受け入れる覚悟でいるのかエセルは逃げもしない。俺はそんな彼女の肩を抱いた。平気そうに見えていて、小刻みに震えているのが感じられる。
「俺だ」
 小さな声で「バル様?」と問われるから頷く。
「すまん。また一人にさせてしまった」
 エセルの方から身を離されて俺の頭巾を解いていく。
 そこでようやく対面したわけだが、両者ともどんな顔をすれば良いのか分からん。
 しかしエセルは思い出したようにハッとなった。
「そうだ! パニエラの皆さんが!」
「知っている。それよりここから離れるぞ」
 話を折り、手を引いて行こうとすればエセルは抵抗した。
 それがなぜなのかと問えば、地面に転がった兵士らの手当がしたいなどと言い出すので叱った。
 そうしている間に「大丈夫ですか!」と、もう兵士がやって来てしまう。
 いくら何でも五人相手では結構しんどい戦いだったのだ。それも腕の立つ者らで苦戦だった。
「行くぞ、早く!」
「ま、待って下さい!」
「敵に情けなどかけんでいい!」
 もう近くには追加の兵士が駆けつけているのだ。
「何事ですの?」
 兵士の中に女性の声が混じっており、俺は顔を上げた。
 弓矢兵の矢尻が向けられていると共に一人の女性の視線も向けられていた。
 俺は驚いて目をパチクリとさせていた。その間にもう一人の人物も駆けつけてくる。
「大丈夫ですか!」
 先ほど聞こえた声の主だ。
 その者は急斜面からここへ辿り着いて、俺を見るなり表情を明るくした。
「バル君! お久しぶりです!」
 俺は状況が読めずに知った名前だけを連名で告げる。
「キース……リトゥ……」
 再会を喜ばない方の女性が怪訝な顔で言う。
「どうしてあなたがこんなところに居るのよ」
「それはこっちのセリフなんだが」
 セルジオの王子とエセルの世話係。食い合わせの悪そうな二人にどんな縁があるというのだ。
 その時、どちらの方角からか分からんが銃声が届いてくる。
「話は後です」
 皆に聞かせるようにキースが言った。
「そうですね。時間がありません」
 これはエセルが言ったのであった。
 キースもリトゥもそうだと頷いている。ここではこの三人の意志が通じているらしかった。
「バル君も来て下さい。色々なことは現地にて話しましょう」
「あ、ああ。分かった」
 促されるままに俺も一行に混ざって山道を歩いた。
 先ほど俺が倒した兵士らも担がれて連れて行くようである。エセルを襲う悪党かと思ったら違っていた。その事は最後まで胸の内に秘めておいた。

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