閉架な君はアルゼレアという‐冷淡な司書との出会いが不遇の渦を作る。政治陰謀・革命・純愛にも男が奮励する物語です‐【長編・完結済み】

草壁なつ帆

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lll.二人の未来のために

倉庫での救出劇

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 ちょっとまずくないか? という展開だ。二人の男に連れられていたジャッジだったけど、裏道から奥まったところへ行けば、そこでは十人くらいの男達が彼らの到着を待っていた。
 彼らの話は聞こえていないけど、わらわらと歩いていく後ろ姿から「歓迎するぜ」とだけ声が届いた。男達は楽しそうだけどもジャッジを快く歓迎しているのとはちょっと違うなという印象。何よりジャッジが無抵抗で元気がない。
 一向はとある建物の内部へと収まった。長期休業中の大型倉庫なんだと思う。この男達の所有物なのかまでは分からないけど、みんな我がもの顔で入って扉を閉めてしまった。
「どうしましょう」
「どうしよう」
 完全に締め切られてしまっては僕たちはどうすることもできない。ジャッジが出てくるのを待つという選択も、ちょっと危なすぎると思うし。
「さっきの女性はどこ行ったの?」
「見てません。でも社長さんに連絡したんじゃないでしょうか」
 本当かな? あまり信用できないな。ジャッジが他の記者に口を滑らせた時点で、社長によるジャッジへの愛着は何もかも無くなったと思うから。
 近くに公衆電話があればと思うけど大通りじゃなきゃ無いよな。今から大通りに出て警察に連絡しても、駆け付けてくれるまで時間がかかるかもしれない。何もないことを願って、それでも電話をした方が良いか……。
 しかしその時、何か金属同士がぶつかるような音が鳴り響いた。コンッ、と軽く鳴ったのとは違って、ゴォン、と鈍くて割と大きく響く音だ。
 僕の血の気が引くのと同じ時に、倉庫の鉄の扉から笑い声が漏れ出てきた。色々なことを考えると恐ろしくなる。
「フォルクスさん、中に入りましょう!」
「無理だよ。冷静に考えなくちゃ」
 何かないかと見回すと倉庫の横に非常階段が見えた。どうやら二階の出入り口に繋がっているみたい。
 そこから中に入ろうと提案して登ってみるけど。非常口の扉が開いているわけがなかった。焦っていたせいでドアノブを回すまで考えもしなかったから、一瞬頭が真っ白になってしまう。
 僕にピッキングの才能なんてないし、鉄の扉を蹴破るなんて無理だし。通気口があっても小柄なアルゼレアだって通れない大きさだ。
「中の人たちを外に出せたら良いんだけど……」
 その時、ふっと記憶が蘇った。
「そうだ!」
 大学時代の研修病院でのこと。トイレでタバコを吸った患者さんのせいで大惨事になったことがある。煙で火事だと判別した火災警報器が鳴り、消火用スプリンクラーが作動して病院の中に大雨が降ったという事件だ。とにかく患者さんを外へ避難させようと慌てた。
 経済発展が凄まじい近年、数をこなすための横着な工事なんてよく聞く話だった。その時の病院の事件も、ひとつのトイレでの火災認知がほとんどの病棟のスプリンクラーを動かした。本館から離れにあった別館の方も水浸しだった。
「ここだ!」
 大型倉庫の裏側に搬入口があり、その天井部に火災警報器とスプリンクラーが設置されている。
「火とか煙とかが立つもの……持ってないよね?」
 アルゼレアはもちろん首を振る。でも使えそうなものがすぐ近くにあった。知恵を貸してくれたのはアルゼレアだ。
「消火器の噴霧で誤作動を起こせると思います」
 赤とオレンジのストライプカラーをしたアスタリカ消防の消火器なら、すぐそばに置いてあった。初めて持ち上げてみるけどずっしりと重たいんだな。
「アルゼレア、使ったことあるの?」
「いいえ。学生の時にクラスメイトがふざけて消火器を投げつけたんです。その時に噴煙が部屋中に巻き上がって火災警報器が鳴りました」
 酷いことをするクラスメイトと巻き込まれた子供達の想像が浮かんだ。そしたら可笑しくなってフッと僕は吹き出した。
「何かおかしかったですか?」
「いや、ごめん。僕も君も面白い経験談があるんだなと思って」
 アルゼレアが終始真面目な顔でいて、少しキョトンとしているような感じもあって、それもまた面白いなって思ったんだ。
「よし。じゃあ吹きかけてみるよ」
 僕は消火器の栓を抜いた。ハンドルを強く握ると、ノズルが暴れるほどの勢いで薄緑色の霧が噴き出している。まもなくして倉庫の中に異常が起こっただろう。合わせて僕の真上にも連動している。
 突然の甲高い警報音。降り注ぐ大雨。僕は体に悪そうな薄緑色の雨を全身に受けていて「うわっ!? うわっ!?」と嫌で消火器を放り投げた。もう十分なほど、ここら一体は煙にまみれていた。
 するとガチャリと扉が開く。倉庫の中から人が出てきたみたいだけど、出てきた先が煙たいからもっと慌てて逃げ出していく。僕とアルゼレアはその隙に倉庫の中へと侵入した。

 倉庫の中の人が全員居なくなったというわけでもない。慌てて出て行ったのは一部で、まだ半数以上はうろたえながら出入り口で留まっている。
 何かの誤作動だと逆にイラつかせてしまった可能性すらあった。気を立てた男が叫びながらドラム缶を蹴り飛ばしている。怖いな……。
 ジャッジは倉庫の奥まった場所で括り付けられていた。僕はそそくさと駆け寄って彼の背にあるコンクリート柱に隠れる。それから急いで縄を解いてあげる。ジャッジは残念ながら生きていて、僕が来たことは横目で見えていたようだ。
「おい!! てめえの仕業か!?」
 僕はビクッとなる。でもどうやら僕じゃなくてジャッジに言ったみたい。さっきのドラム缶を蹴っていた男かどうかは分からないけど。僕は柱から出ない方が良さそう。
「下らねえ真似してんじゃねえ!!」
 ドカッと殴られたような音。それによってジャッジは横に倒れた。暴力的な男達は驚いたに違いない。どうしてジャッジの縄が外れているんだ!? って。
「……おい。部外者が紛れ込んでるぜ」
 近づいて来る足音。当然怪しいのは柱の裏だよね。僕の命も無いものとした。アルゼレアだけは上手く逃げてほしいと木箱の裏に目配せを送った。
 その時、サイレンの音がこの倉庫内にうるさく響き出す。男達は侵入してきた虫一匹に気を掛けている暇をなくしたみたいだった。
 慌ただしくなってから僕はそっと柱から顔を覗かせる。ちょうど目の位置に青とオレンジのライトが交互に当てられ、うっ、とダメージを受けている。アスタリカ警察の車のライトだった。
 倉庫内ではまるでこの光から逃げるように男達が走り回る。警察の足もすでに中に入っていた。
「フォルクス!」
「ジャッジ! 逃げるよ!」
 アルゼレアとも合流して僕たちは裏口から逃げていく。アスタリカ警察とは僕もアルゼレアも鉢合わせしたくないからね。建物の間を通って屋根に登ったりして、どうにか僕たちは三人無事で切り抜けることができた。



(((次話は明日17時に投稿します

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