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lll.二人の未来のために
対峙する
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「最上階って言ったら……あそこだけど。時計台があるって知ってた?」
「いいえ。そんなことは資料集には一文もありませんでした」
さすがのアルゼレアでもどうしたらいいのか分からないみたい。
出版社の社長もエシュ城内の間取りがころころと変わるなんてことを言っていた。「魔法です!! あそこは魔法のお城なんです!!」そんな言葉で結論づけていたけど。実際に肌身で感じると、魔法なんて言葉で片付けるのも戸惑うし怖い。
「エシュの間は、エリシュの書斎から唯一入れるのだと書いてありました」
「うーん。ちょっと信憑性に欠けるけど」
「で、でも。それしか情報がありません」
片っ端から隈なく捜索するのはもはや無理だと断定できた。せめてもの目安を付けて歩き出したいところだけど。僕とアルゼレアが手分けしたとしたら、もう二度と出会えなくなる可能性だってある。
「とりあえず、じゃあ。登ってみようか……」
時計塔の階段を探した時、突然に僕らに知らせが届く。
「今の聞きました!?」
「うん、聞こえた!!」
僕もアルゼレアも同時に左側を向いたのは、同じ音を聞いたからだった。それは人の話し声なんて穏やかなものじゃなく、何か弾けたような音だった。何か骨董品が劣化して破裂でもしたのかと思いたかったけど、僕らの見解は違っている。
アルゼレアと顔を見合わせてから、時計塔の階段ではなくて左側の渡り廊下を走っていく。
「まさかエシュが撃たれたとか?」
走りながらアルゼレアに聞いた。
「それは無いと思います。まだ夜明けになっていません」
リサと離れてからそう時間は経っていないはずだ。今から少し遅めの夕食を取ろうという家族もいるだろうと想像した。
「え、なんで……?」
しかし、不思議な魔法のお城というのは時間も操れるらしい。なぜなら窓の外には広大な敷地があり、豊かな山々の向こうから少し太陽が覗こうとしていた。いくら何でも夕飯時から真夜中を抜いて急に明け方になるなんてことはない。
「とにかく急ごう! 階段だ!」
足を止めそうになるアルゼレアを引き連れて、僕らは階段を登った。時計塔みたく永遠にも続くものではなかった。数えていなかったけど、おおよそ五階あたりで止まったと思う。
左右に続く廊下で僕らは試される。どっちへ向かうべきか、やっぱりここでも二手に別れるという手段は取りたくない。何か決め手があればと思った時、僕は床にそれを見つけた。
暗がりの中でしゃがむと木床の上に白く固まった斑点がポツポツとある。爪で引っかけるとすぐに取れて、しばらく指でこねていると柔らかくなっていくものだ。
「蝋燭だよ。蝋燭の跡が続いている」
溶けたロウの後が右へと曲がっていた。
「追いましょう!」
「うん!」
立ちあがろうとした時、カチャンと何がか落ちる音がした。アルゼレアにも聞こえたかもしれないけど僕の方が近かった。ほとんど形だけで判別し、咄嗟に僕は取り上げた。アルゼレアに見られないように。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。大……丈夫」
落ちたものは僕の膝に当たってポケットから溢れ出たものだと思う。しかしどうして僕がこんなものを所持しているんだ……。
考えている暇はなく、その時あの時計塔から鐘の音が鳴り始めた。
「急ぎましょう!」
まるで時間の進みが早くなっているのか。窓のあるところでは太陽がぐんぐんと登ろうとしているのが見えている。
僕らが賭けた廊下に火の灯りを見つけた。蝋燭に灯った光が、大きな扉の中から漏れ出ていた。そしてついに男の全貌が明らかになった。
部屋に入るなり男は僕たちを振り返る。フードのある衣服は白髪頭を隠していなくて、彼がゼノバ教皇であるとはすぐに分かった。しかしそれよりも被害者がでていた。
「……!!」
叫ばずとも咄嗟に後退りするアルゼレアには見せられないと、僕が先頭に立つ。
「ゼノバ教皇、これはどういう事ですか!!」
やや穏やかな表情の教皇。それと足元に倒れた人がいるのに冷静でいるだなんて明らかに事件性がある。赤色の絨毯が敷いてあったけど、その赤に上塗りするように黒に近い血色が滲んでいた。
「何のことでしょうか」
「……」
僕が倒れた人の息を確認しようと動く。するとゼノバ教皇は僕に右手のものを突きつけた。それが銃口であり、この部屋に少し漂う焦げた匂いもおそらく、そこから出たものだろう。この倒れた人とさっきの銃声も全てがひとつに繋がる。
「その人は誰なんですか?」
聞くと、固まる僕にゼノバ教皇は若干笑った。
「エシュ。……と、言いたいところですがね。そう簡単には面会させてもらえないようで。今さら自身の使命を思い出してか駆けつけた男です」
「使命?」
「ええ。弱きエリシュの最後は非力にも程がありますよね」
……この人がエリシュ。エシュ神都の指導者。
うつ伏せで倒れているから背中側でしか反応が見えない。だけどこの出血量だと……。くらりと眩暈がした。こんな時に苦手なものに反応なんてしている場合じゃないのに。
「ところで君たちは何をしにこんな場所へ?」
ゼノバ教皇は聞いてから「もしかして」と声のトーンを少し上げる。
「君たちも新しい未来の幕開けを見にいらしたんでしょうか?」
違うと答えたい僕は、喉に何かつっかえて物を言えなかった。代わりにアルゼレアが自分の意思を伝えたようだ。
「オソードと鍵をエシュに返したいんです」
それを聞いたゼノバ教皇が、いつかのロウェルディ大臣のように怒りを露わにするなんてことをせず。落ち着き払った態度はそのまま。しかし彼の声のトーンは低くなった。
「残念ですね。期待はずれです」
僕に銃口を向けながら、ゼノバ教皇は倒れたエリシュの肩の上に片足を乗せた。
(((次話は明日17時に投稿します
Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
「いいえ。そんなことは資料集には一文もありませんでした」
さすがのアルゼレアでもどうしたらいいのか分からないみたい。
出版社の社長もエシュ城内の間取りがころころと変わるなんてことを言っていた。「魔法です!! あそこは魔法のお城なんです!!」そんな言葉で結論づけていたけど。実際に肌身で感じると、魔法なんて言葉で片付けるのも戸惑うし怖い。
「エシュの間は、エリシュの書斎から唯一入れるのだと書いてありました」
「うーん。ちょっと信憑性に欠けるけど」
「で、でも。それしか情報がありません」
片っ端から隈なく捜索するのはもはや無理だと断定できた。せめてもの目安を付けて歩き出したいところだけど。僕とアルゼレアが手分けしたとしたら、もう二度と出会えなくなる可能性だってある。
「とりあえず、じゃあ。登ってみようか……」
時計塔の階段を探した時、突然に僕らに知らせが届く。
「今の聞きました!?」
「うん、聞こえた!!」
僕もアルゼレアも同時に左側を向いたのは、同じ音を聞いたからだった。それは人の話し声なんて穏やかなものじゃなく、何か弾けたような音だった。何か骨董品が劣化して破裂でもしたのかと思いたかったけど、僕らの見解は違っている。
アルゼレアと顔を見合わせてから、時計塔の階段ではなくて左側の渡り廊下を走っていく。
「まさかエシュが撃たれたとか?」
走りながらアルゼレアに聞いた。
「それは無いと思います。まだ夜明けになっていません」
リサと離れてからそう時間は経っていないはずだ。今から少し遅めの夕食を取ろうという家族もいるだろうと想像した。
「え、なんで……?」
しかし、不思議な魔法のお城というのは時間も操れるらしい。なぜなら窓の外には広大な敷地があり、豊かな山々の向こうから少し太陽が覗こうとしていた。いくら何でも夕飯時から真夜中を抜いて急に明け方になるなんてことはない。
「とにかく急ごう! 階段だ!」
足を止めそうになるアルゼレアを引き連れて、僕らは階段を登った。時計塔みたく永遠にも続くものではなかった。数えていなかったけど、おおよそ五階あたりで止まったと思う。
左右に続く廊下で僕らは試される。どっちへ向かうべきか、やっぱりここでも二手に別れるという手段は取りたくない。何か決め手があればと思った時、僕は床にそれを見つけた。
暗がりの中でしゃがむと木床の上に白く固まった斑点がポツポツとある。爪で引っかけるとすぐに取れて、しばらく指でこねていると柔らかくなっていくものだ。
「蝋燭だよ。蝋燭の跡が続いている」
溶けたロウの後が右へと曲がっていた。
「追いましょう!」
「うん!」
立ちあがろうとした時、カチャンと何がか落ちる音がした。アルゼレアにも聞こえたかもしれないけど僕の方が近かった。ほとんど形だけで判別し、咄嗟に僕は取り上げた。アルゼレアに見られないように。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。大……丈夫」
落ちたものは僕の膝に当たってポケットから溢れ出たものだと思う。しかしどうして僕がこんなものを所持しているんだ……。
考えている暇はなく、その時あの時計塔から鐘の音が鳴り始めた。
「急ぎましょう!」
まるで時間の進みが早くなっているのか。窓のあるところでは太陽がぐんぐんと登ろうとしているのが見えている。
僕らが賭けた廊下に火の灯りを見つけた。蝋燭に灯った光が、大きな扉の中から漏れ出ていた。そしてついに男の全貌が明らかになった。
部屋に入るなり男は僕たちを振り返る。フードのある衣服は白髪頭を隠していなくて、彼がゼノバ教皇であるとはすぐに分かった。しかしそれよりも被害者がでていた。
「……!!」
叫ばずとも咄嗟に後退りするアルゼレアには見せられないと、僕が先頭に立つ。
「ゼノバ教皇、これはどういう事ですか!!」
やや穏やかな表情の教皇。それと足元に倒れた人がいるのに冷静でいるだなんて明らかに事件性がある。赤色の絨毯が敷いてあったけど、その赤に上塗りするように黒に近い血色が滲んでいた。
「何のことでしょうか」
「……」
僕が倒れた人の息を確認しようと動く。するとゼノバ教皇は僕に右手のものを突きつけた。それが銃口であり、この部屋に少し漂う焦げた匂いもおそらく、そこから出たものだろう。この倒れた人とさっきの銃声も全てがひとつに繋がる。
「その人は誰なんですか?」
聞くと、固まる僕にゼノバ教皇は若干笑った。
「エシュ。……と、言いたいところですがね。そう簡単には面会させてもらえないようで。今さら自身の使命を思い出してか駆けつけた男です」
「使命?」
「ええ。弱きエリシュの最後は非力にも程がありますよね」
……この人がエリシュ。エシュ神都の指導者。
うつ伏せで倒れているから背中側でしか反応が見えない。だけどこの出血量だと……。くらりと眩暈がした。こんな時に苦手なものに反応なんてしている場合じゃないのに。
「ところで君たちは何をしにこんな場所へ?」
ゼノバ教皇は聞いてから「もしかして」と声のトーンを少し上げる。
「君たちも新しい未来の幕開けを見にいらしたんでしょうか?」
違うと答えたい僕は、喉に何かつっかえて物を言えなかった。代わりにアルゼレアが自分の意思を伝えたようだ。
「オソードと鍵をエシュに返したいんです」
それを聞いたゼノバ教皇が、いつかのロウェルディ大臣のように怒りを露わにするなんてことをせず。落ち着き払った態度はそのまま。しかし彼の声のトーンは低くなった。
「残念ですね。期待はずれです」
僕に銃口を向けながら、ゼノバ教皇は倒れたエリシュの肩の上に片足を乗せた。
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