あなたを愛すことは無いと言われたのに愛し合う日が来るなんて

恵美須 一二三

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「失礼します」

「なっ?どうして、あなたがここに?」 

 カルロッタが自室に来るとは予期していなかったディエゴは、彼女の姿を見るなり怪訝けげんそうに眉をひそめ、ベッドから起き上がろうとしたが。
  
「ちゃんと寝ていてください!」

 それを、すかさずジュリオが止める。

「だが、王女様、、、をこんな姿で出迎えるなど……」

「気づかいは不要です。確かに私は王女ですが、今はあなたの妻ですから。発熱して体調の悪い夫に、わざわざ起き上がって挨拶をしろ、などとは言いません」

 やはり私をまだ妻だと認識していないのだ、と改めて自覚させられてむしゃくしゃしたが、カルロッタはぐっとこらえた。今日はそんな話しをしに来たわけでは無いからだ。

「そうですか、感謝します。見ての通り、こんな有様ですから……今日は朝食をご一緒出来ず、申し訳ありません」
  
 ぱちぱちと数回まばたきをした後、カルロッタは的外れな謝罪の意図に気づく。

「まさか、朝食をご一緒出来ないことを私が責めに来たと思っているのですか?」

 さすがにそれは無いだろう、と話しを聞いていたジュリオも思ったが。

「違うのですか?」

 残念ながら、カルロッタの予想は当たっていた。

「はぁ……違います。私は、お仕事を手伝わせていただくことはできませんか?と、あなたに確認をしに来たんです」

「仕事を手伝う?あなたが?」

 ベッドに横たわるディエゴは何を言われたのか一瞬理解出来ず、目を丸くした。

「ええ。あなたには、体調が良くなるまでゆっくり休んで欲しいので」

 公爵夫人として役に立ちたいという思いも当然あるが、ちゃんと休んで欲しいというのも彼女の本心だった。公爵になってからずっと働きづめだと聞き、さすがに心配になったのだ。政略結婚とはいえ、夫に過労死されるなど後味が悪いにもほどがある。

「ふっ、あり得ない。そんなことをして、あなたになんのメリットが?何をたくらんでいるんです?」

 馬鹿にするように鼻で笑ったディエゴに、カルロッタが腹を立てていると。

 コンコンコンッ、と部屋の扉が叩かれる音が響く。

「失礼します。消化に良いスープを……おや、奥様。おはようございます」

「ご機嫌よう、セルジオ」

 部屋に入ってきたのは、家令のセルジオ。彼は執事のジュリオの父親で、長年このアントーニア公爵家に仕えているのだ。

「旦那様。薬を飲むためにも、まずはこちらのスープを飲んでください」

「ああ、わかった」

 言われるがまま、ディエゴはセルジオが持ってきた消化に良いスープを飲み始めた。

「ディエゴ様。先ほどの話しの続きですが、私にお仕事を手伝わせていただけませんか?領地運営についても、アントーニア公爵家についても勉強はしていますから、私もお力になれるはずです」

「お断りし」

「なんと!奥様が手伝ってくださるのですか!」

 ディエゴがカルロッタの申し出を断ろうとしたのを、セルジオがわざと大きな声でさえぎった。

「おい、セルジオ」

 自分をキッとにらみつけるディエゴをものともせず、セルジオは微笑む。

「ふっふっふっ、良いではありませんか。旦那様の確認やサインが必要な書類以外は、奥様に手伝っていただきましょう。今日は私一人で出来るところまでやるつもりでしたが、奥様がいてくださる方が心強いです」

「だが……」

「ディエゴ様が私のことを気に入らないと思っていようが、一向に構いません。けれど、私はあなたの妻ですから。こんな時くらいは頼ってください」
 
「は?」

 ただ仕事を手伝わせて欲しいと頼んでいるだけなのに、まるで人間を信用していない野良猫のような目で夫が自分を見ている。それがなんだかおかしくて、カルロッタは笑ってしまった。

「うふふっ、政略結婚でも家族は家族です。とにかく、お仕事は私とセルジオに任せて、あなたは大人しく休んでください」

「そうですな。では奥様、私と一緒に執務室へ参りましょう」

 否定の言葉をディエゴが口に出す前に、セルジオとカルロッタは部屋を出た。

「話しはまだ終わっていない!」

「いいじゃないですか。二人なら大丈夫だと思いますし、今は体を治すことだけ考えてください」

 ジュリオになだめられ、しぶしぶディエゴは大人しくスープをスプーンで飲み始める。納得はしていないが、仕事がとどこおりなく進むのは確かに助かるのだ。

「ーー家族、か」

 ディエゴは複雑な心境で、カルロッタが笑顔で言った『家族』という言葉を噛み締めた。




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