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和解しても一向に構いません
しおりを挟む真相を知ったティグレは、ルベルの肩をコツンと軽く小突いた。
「勘違いして悪かったな……てっきり、お前がトマスのことを見殺しにしたのかと思って」
「すまなかった」
今回は、完全にルベルが悪いもの。さすがに反省しているみたいね。
「あの日、帰ったらトマスが死んでて本当に驚いたんだぞ」
「俺が殺したと思ったか?」
ルベルの自虐的な冗談を、ティグレはすぐに否定した。
「いや、転がってたナイフがトマスのだったから。なんとなく何があったかは、俺もすぐわかった。でも、お前とトマスの話し声がした、って近所の奴から聞いてさ。だったら、トマスのことを助けられたはずなのに、見殺しにしたのか?って……」
「ずっと言いづらそうにしていたのは、そのことだったの?」
最初に会った時から、ティグレは何かを言いたそうにしていた。
「へへっ、そうなんだよ。あれからずっと、トマスのことを聞く為に探してたんだけど。久しぶりに会ったら、聞きづらくて。なかなか聞けなかったんだよなぁ。やけになって、昨日は女装までしちまったぜ。はははははっ!」
ティグレは、いつも通りの調子に戻って朗らかに笑っている。あの女装には、そういう理由があったのね。
「いや、女装は関係無いだろ。馬鹿か」
「だよなぁ。なんで女装なんかしたんだろう、俺。あっ、そういえば。ハンカチ投げつけて、悪かったな」
「いや。俺こそ、青い花で悪い」
気まずそうなルベルを見て、ティグレは苦笑いする。
「ふっ、別にいいよ。お前に家族だと思われてないのは、うすうす前からわかってたんだ。なのに、トマスがいなくなった寂しさを、一緒に育ったお前で埋めようとしちまった。俺もいい加減、トマスのことを忘れないとな……」
「別に、忘れなくてもいいだろう」
遠くを見つめながら、ルベルはそう言った。
「え?」
「そうよ。忘れるのではなく、誰かを愛せばいいじゃない。私も、お母様を亡くしてからは心を閉ざしていたけれど。ルベルのおかげで、灰色だった世界が色づいて、心も満たされたの」
私とルベルみたいに、愛し合える人を見つければいいわ。
「家族にこだわるより、誰かを愛せ。トマスも、そうだった」
「そっか……そうだな。今のお前、昔よりも幸せそうだし。俺も、恋するかぁ。へへへっ」
すっきりとした笑顔で、ティグレはルベルに手を差し出した。
「なんだ?」
「仲直りの握手。忘れたか?昔、よくトマスが言ってただろ?」
「どれだけ喧嘩してもいいが、最後は握手して仲直りしろ……だったか」
「そうそう!ほら、握手握手!」
ティグレは強引にルベルと握手して、嬉しそうに繋いだ手をぶんぶん振り回した。
「チッ、腕を振り回すな。鬱陶しい」
嫌そうに顔をしかめている割には、手を振り払わない。なんだかんだ言って、満更でも無さそう。
「本当は、仲直り出来て嬉しいでしょう?」
ティグレには聞こえないように、小声でルベルに囁く。
「なっ!別に、そんなことはありません」
「え~?なになに?俺にも教えろよぉ」
私以外の人には素直になれない難儀な性格。可愛くて嫌いじゃないから。
「うふふっ。秘密にしておくわ」
ルベルのプライドは守ってあげる。
「おっ!その秘密、情報屋の俺が調べて暴いてやる!」
「調子に乗るな」
「いでっ!」
ふざけていたティグレのおでこを、ルベルが指で弾いた。凄い音がしたわ。大丈夫かしら?
「っ!」
二人が仲直り出来て、私も胸を撫で下ろしていたら。急に、ルベルが険しい顔をした。
「うおっ!?」
「きゃっ!」
片手でティグレの腕を掴んで引き寄せ、私を自分の体で覆い隠すと、ルベルは魔法で結界を張った。
その直後。
轟音と共に突風が巻き起こり、なぎ倒された木が飛んで来て、結界に弾かれた。結界が無ければ、危うく大怪我をしているところだったわ。
「なんだ今の!?」
「どうやら『あいつ』の仕業みたいだな」
「!!」
ルベルが見つめる先にはーー馬車よりも大きな緑色の羽をバサバサと動かす、蝶か蛾のような姿の虫型の魔物がいた。
「はぁぁ!?キモッ!!見ろよ、この鳥肌!」
腕の鳥肌を見せてこようとするティグレを無視して、ルベルは魔物を観察した。
「町から近い森に、これほど大きな魔物がいるとは」
「よく、あんなデカさになったな。あそこまでデカい虫型の魔物、見たことないぞ」
「あの緑色の羽で、普段は森の木々に擬態しているんだろう。おかげで、俺も気づくのが遅れた」
「なるほどな~。あの羽のおかげで誰にも見つからず、ここまでデカく育ったってわけかぁ。そういえば、昨日町で情報収集してる時、森に行った奴が時々行方不明になるって聞いたけど……」
「十中八九、あいつの餌食になったんだろう」
「うへぇ、人間喰ってんのかよ。町の奴らに知らせたら、大パニックになりそうだな」
人間を食べたことがある魔物と、そうではない魔物では、危険度が格段に違う。一度人間を食べた魔物は、人間を食料とみなし、見つけた瞬間に襲いかかるのだ。そういった魔物が人里に近い場所に現れた場合、誰かが討伐しなければ犠牲者が多数出てしまう。
「リヴ、大丈夫ですか?」
「ルベル……」
手の震えが止まらないわ。さっきから、あまり二人の会話の内容も頭に入って来ない。
「ん?全然喋らないと思ったら、めちゃくちゃ顔色悪いな!?おい、大丈夫か?」
「もう、だめ」
「は?結界の中にいるのに、なんでダメージ受けてんだよ!?」
だって、しょうがないじゃない。
「うるさい、黙れ!リヴは……虫が苦手なんだ!!」
私の心の声を、ルベルが代わりに叫んでくれた。
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