27 / 47
互いに向き合っても一向に構いません
しおりを挟む「ありがとうございました。さあ、目を開けて下さい」
「一体何をしたの?」
目を開けると、ルベルはいたずらっ子のような可愛らしい顔をしていた。
「ふふっ、鏡を見てみて下さい」
鏡?
唇に触れた物の正体を知る為に、言われた通りに鞄からコンパクトミラーを出して確認すると。
「まあ!」
唇が朝に塗った口紅の色とは、違う色になっていた。つまり、さっき唇に触れた物は。
「口紅です。リヴに似合いそうな色を選びました」
「嬉しいわ。ありがとう」
ルベルがくれた口紅のケースには、一輪の美しい赤い薔薇が描かれていた。
ジェラートを買いに行ってもらっていた時間以外、今日はずっと一緒にいたのに。こんなに素敵な物を、いつの間に買ったの?
不思議に思っている私を見たルベルは、実は昨日眠っていた私に結界魔法を掛けて買いに行ったのだと、種明かしをしてくれた。
「やはり、よくお似合いですね。悩みましたが、この色にして正解でした」
私の為に悩んで選んでくれたなんて、ますます嬉しいわ。この口紅を塗るたびに、私は何度でも幸せな気持ちになるでしょうね。
「ねえ、ルベル。私からも渡したい物があるの。目を閉じて、両手を出してくれる?」
「はい、喜んで」
さっき買った懐中時計を、差し出してくれたルベルの手の上に乗せる。
「もういいわよ。目を開けて」
どうか、気に入ってくれますように。
「懐中時計……ありがとうございます!大切にしますね!」
頬を赤く染めて微笑むルベルは、本当に嬉しそう。喜んでもらえて良かったわ。
「喜びも悲しみも……全ての時を二人で刻んでいきたい。そう思って、これを選んだの。どんな感情も、二人で分かち合っていきましょう」
ルベルの悲しい過去は変えられない。でも、もう一人で悲しませたりはしないわ。ずっと、私がそばにいる。
「リヴ!」
抱きしめ合って、口づけを交わした。まだ恥ずかしいけれど、いつか恥ずかしいと思わなくなる日が来るのかしら?
「ちゃんと話せば、ティグレとも分かり合えるわ」
「そうですね。行きましょうか」
ティグレとルベルが仲直り出来ることを祈りながら、私は歩いた。
「降ろせ!降ろせぇ!!」
「ーー待たせたな」
ルベルの魔法を辿って向かった先には、芋虫のように魔法でぐるぐる巻きにされ、宙吊りになっているティグレがいた。
まさか、ずっとこの状態だったの?
「降ろしてあげて」
「はい」
「痛っ!!もっと優しく降ろせよな。あっ、ここ血出てる!」
魔法が解除され、ドサッと地面に下ろされたティグレは、着地に失敗して擦り傷だらけになってしまった。
「大丈夫?」
私はティグレに近づいて、回復魔法を掛けた。
「えっ!?はやっ!もう治った!」
回復魔法が得意で良かったわ。攻撃系の魔法ではルベルに劣るけれど、回復系と補助系の魔法は私の方が得意なのよね。
「来るのが遅くなって、ごめんなさい」
「リヴに治療してもらうなんて、ありがたく思え」
「なんでお前が偉そうにドヤ顔してんだよ。でも、なるほどな。お嬢ちゃんが王子の婚約者だった理由はこれかぁ」
そう。ティグレの言う通り、この回復魔法に目をつけられて、私は王子の婚約者に選ばれた。
普通、高度な回復魔法による治療を受ける場合は、神殿の高位神官に高い治療費を払わなければいけない。神殿は平民の治療費は安く請求し、貴族には高く請求する。王族ともなれば、さらに高い費用を請求されるのだとか。
私と婚姻を結べば、その費用を節約出来るだけでなく、順番待ちすらせずに済む。しかも、私が子を産み、その子がまた回復魔法の才を持っていれば……と、王家にとって私は非常に都合の良い存在だった。
「ゴミクズ共の話はやめろ。不愉快だ」
「ごめんごめん。デリカシー無かったな」
「いいのよ、別に気にしないで。そんなことより、あなたはルベルとちゃんと話し合って。逃げるのは、もう駄目よ」
「うぅ……やっぱり、そうなるよなぁ」
「お前、俺のことを家族だと思っていたのか?」
気まずそうな顔をしていたティグレに対して、ルベルは核心を突く質問をした。
こういうところは、むしろルベルの方がデリカシーが無いわね。
「五歳から、十年お前と過ごしたんだぞ。それだけ一緒に過ごしたら、そりゃあ家族みたいにも思うだろ。俺はトマスのことだって、本当の親父みたいに思ってた。それなのに……」
「悪いが、お前のこともトマスのことも家族だと思ったことは無い。それで機嫌を損ねられても、俺がお前にしてやれることは何も無いぞ」
「ちょっと、ルベル」
なんでも素直に言えばいい、というわけでは無いのよ。
「やっぱり、俺のこともトマスのことも、お前はなんとも思ってないんだな」
「待って、違うの。ルベルは」
慌てて弁解しようとすると。
「じゃあ、なんでトマスを見殺しにした!お前なら治せたはずだろ!なんで、なんで助けなかったんだよ……」
ティグレがルベルに掴みかかって、そう叫んだ。
まさか……。
「あなた、ティグレに何も説明していないの?」
「あっ」
今思い出した、という顔をして。ルベルは気まずそうに視線を彷徨わせた。
「もう、言葉が足りないにも程があるわよ」
「あの時は、気が動転していたので……」
「おい、どういうことだ?」
一人だけ何もわからず怪訝な顔をするティグレに、私とルベルは全ての事情を話した。
11
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる