執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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互いに向き合っても一向に構いません

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「ありがとうございました。さあ、目を開けて下さい」

「一体何をしたの?」

 目を開けると、ルベルはいたずらっ子のような可愛らしい顔をしていた。

「ふふっ、鏡を見てみて下さい」

 鏡?

 唇に触れた物の正体を知る為に、言われた通りに鞄からコンパクトミラーを出して確認すると。

「まあ!」

 唇が朝に塗った口紅の色とは、違う色になっていた。つまり、さっき唇に触れた物は。

「口紅です。リヴに似合いそうな色を選びました」

「嬉しいわ。ありがとう」

 ルベルがくれた口紅のケースには、一輪の美しい赤い薔薇が描かれていた。

 ジェラートを買いに行ってもらっていた時間以外、今日はずっと一緒にいたのに。こんなに素敵な物を、いつの間に買ったの?

 不思議に思っている私を見たルベルは、実は昨日眠っていた私に結界魔法を掛けて買いに行ったのだと、種明かしをしてくれた。

「やはり、よくお似合いですね。悩みましたが、この色にして正解でした」

 私の為に悩んで選んでくれたなんて、ますます嬉しいわ。この口紅を塗るたびに、私は何度でも幸せな気持ちになるでしょうね。

「ねえ、ルベル。私からも渡したい物があるの。目を閉じて、両手を出してくれる?」

「はい、喜んで」

 さっき買った懐中時計を、差し出してくれたルベルの手の上に乗せる。

「もういいわよ。目を開けて」

 どうか、気に入ってくれますように。

「懐中時計……ありがとうございます!大切にしますね!」

 頬を赤く染めて微笑むルベルは、本当に嬉しそう。喜んでもらえて良かったわ。

「喜びも悲しみも……全ての時を二人で刻んでいきたい。そう思って、これを選んだの。どんな感情も、二人で分かち合っていきましょう」

 ルベルの悲しい過去は変えられない。でも、もう一人で悲しませたりはしないわ。ずっと、私がそばにいる。
 
「リヴ!」

 抱きしめ合って、口づけを交わした。まだ恥ずかしいけれど、いつか恥ずかしいと思わなくなる日が来るのかしら?

「ちゃんと話せば、ティグレとも分かり合えるわ」
 
「そうですね。行きましょうか」

 ティグレとルベルが仲直り出来ることを祈りながら、私は歩いた。





「降ろせ!降ろせぇ!!」

「ーー待たせたな」

 ルベルの魔法を辿って向かった先には、芋虫のように魔法でぐるぐる巻きにされ、宙吊りになっているティグレがいた。

 まさか、ずっとこの状態だったの?

「降ろしてあげて」

「はい」

「痛っ!!もっと優しく降ろせよな。あっ、ここ血出てる!」

 魔法が解除され、ドサッと地面に下ろされたティグレは、着地に失敗して擦り傷だらけになってしまった。

「大丈夫?」

 私はティグレに近づいて、回復魔法を掛けた。

「えっ!?はやっ!もう治った!」

 回復魔法が得意で良かったわ。攻撃系の魔法ではルベルに劣るけれど、回復系と補助系の魔法は私の方が得意なのよね。

「来るのが遅くなって、ごめんなさい」 

「リヴに治療してもらうなんて、ありがたく思え」

「なんでお前が偉そうにドヤ顔してんだよ。でも、なるほどな。お嬢ちゃんが王子の婚約者だった理由はこれかぁ」

 そう。ティグレの言う通り、この回復魔法に目をつけられて、私は王子の婚約者に選ばれた。

 普通、高度な回復魔法による治療を受ける場合は、神殿の高位神官に高い治療費を払わなければいけない。神殿は平民の治療費は安く請求し、貴族には高く請求する。王族ともなれば、さらに高い費用を請求されるのだとか。

 私と婚姻を結べば、その費用を節約出来るだけでなく、順番待ちすらせずに済む。しかも、私が子を産み、その子がまた回復魔法の才を持っていれば……と、王家にとって私は非常に都合の良い存在だった。

「ゴミクズ共の話はやめろ。不愉快だ」

「ごめんごめん。デリカシー無かったな」

「いいのよ、別に気にしないで。そんなことより、あなたはルベルとちゃんと話し合って。逃げるのは、もう駄目よ」

「うぅ……やっぱり、そうなるよなぁ」

「お前、俺のことを家族だと思っていたのか?」

 気まずそうな顔をしていたティグレに対して、ルベルは核心を突く質問をした。

 こういうところは、むしろルベルの方がデリカシーが無いわね。

「五歳から、十年お前と過ごしたんだぞ。それだけ一緒に過ごしたら、そりゃあ家族みたいにも思うだろ。俺はトマスのことだって、本当の親父みたいに思ってた。それなのに……」

「悪いが、お前のこともトマスのことも家族だと思ったことは無い。それで機嫌を損ねられても、俺がお前にしてやれることは何も無いぞ」
 
「ちょっと、ルベル」

 なんでも素直に言えばいい、というわけでは無いのよ。

「やっぱり、俺のこともトマスのことも、お前はなんとも思ってないんだな」

「待って、違うの。ルベルは」

 慌てて弁解しようとすると。

「じゃあ、なんでトマスを見殺しにした!お前なら治せたはずだろ!なんで、なんで助けなかったんだよ……」

 ティグレがルベルに掴みかかって、そう叫んだ。

 まさか……。

「あなた、ティグレに何も説明していないの?」

「あっ」

 今思い出した、という顔をして。ルベルは気まずそうに視線を彷徨わせた。

「もう、言葉が足りないにも程があるわよ」

「あの時は、気が動転していたので……」

「おい、どういうことだ?」


 一人だけ何もわからず怪訝な顔をするティグレに、私とルベルは全ての事情を話した。


 

 
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