執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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過去を知っても一向に構いません

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「ルベルのことを、ティグレは家族のように思っていたのね」

 青色の花は友人へ、オレンジ色の花は家族へ。

 二人の思いは、すれ違ってしまった。

「ティグレは、俺達を育てた男を父親のように慕っていました。でも、まさか俺のことまで家族と認識していたなんて……」

 こんなに戸惑っているルベルを見るのは珍しい。

「ティグレを探さないと」

「いえ、その必要はありません。この人込みの中ではぐれないよう、実は追跡魔法を掛けておいたので。とりあえず、ジェラートを食べましょう」

 はぐれても自力でなんとかしろ、と言っていたのに、ちゃんと手を打っていたのね。

「でも……」

 ジェラートを食べている場合ではないと思うけれど。

「町外れの森にいるようなので、魔法で拘束しておきます」

 戸惑いつつも、ルベルがそう言うなら、と少し溶けたジェラートを二人で食べることにした。

「ねえ、ルベルとティグレを育ててくれた人って、どんな人だったの?」

 ルベルの過去については、私と出会う前は殺し屋だった、ということくらいしか知らない。ティグレが父親のように慕っていたルベルを育てた人は、一体どんな人だったのかしら?

「トマスという男で、パトミエラの実質的なボスでした」

「パトミエラって、あの?」

 どこにも行き場の無いならず者達が集まって出来た街ーーパトミエラ。世界で一番治安の悪い場所として有名だから、私も名前だけは知っている。

 そんな街の実質的なボスって、凄い人に育てられたのね。

「密輸船に乗っていた女性が二歳だった俺を連れていて、それを見つけたトマスが俺を育てることに決めたらしいです」

「一緒にいた女性は、あなたのお母様ではないの?」

「はい。その女性、アルマは事情があって一緒に密輸船に乗り込んだが、俺の母親ではないと言っていました」

「密輸船に乗り込むなんて、何か大変な事情がありそうね」

「……それについては、また次の機会に。今は、トマスのことを」

 ルベルは目を伏せた。あまり話したくないことなのかも知れない。

「ええ。いつか、あなたが話したい気分になった時にまた聞かせて」

 話している間に、私もルベルもジェラートを食べ終えた。

「ありがとうございます。トマスは俺と同じく闇魔法を使える珍しい人間で、戦い方や魔法の使い方など、たくさんのことを教わりました。どうやら、トマスも幼い頃に俺と同じく、密輸船でパトミエラに辿り着いたようで。他の生き方を知らないから、こんなことしか教えてやれなくてすまない、と言われたことがあります」

「……」

 きっと、ルベルのことを大切に思っていたのね。

「パトミエラはゴロツキの集まる無法地帯ですから、俺も自然とそういう仕事をすることが多くなり、気づいたら殺し屋と呼ばれていました。ティグレは、俺が八歳くらいの頃にトマスが連れて来たんですが、戦闘の才能があまり無くて。情報屋として仕込まれることになったんです」

「あなた、私と出会った時に確か……」

 あの時、ルベルは職を無くしていた。つまり。

「リヴと出会う少し前に、トマスは死にました」

「!!」

 やっぱり、そうだったのね。

「俺と密輸船に乗っていた女性、アルマも俺をトマスと一緒に育てくれたんです。そして、いつしかアルマとトマスは恋仲になった」

「まあ!」

 急な恋の話に、思わず浮足立ってしまう。いつ聞いても、恋の話には心が踊ってしまうのよ。

「結婚はしませんでしたが、二人は互いを愛していたんです。しかし、アルマは治療法の無い病を患い、亡くなってしまった。トマスは、アルマとの別れに耐えられず……」

「まさか」

 不穏な可能性が頭をよぎり、反射的に口元を手で覆う。

「アルマが亡くなった数日後。いつものように仕事を終わらせて帰ると、トマスが自分の首にナイフを突き刺していました。まだ息はありましたが、ナイフが首の骨に引っかかり、トマスは自分でそれ以上動かせなくなっていたんです。だから、ナイフを引いて殺して欲しい、とトマスに頼まれて」

「なんてこと……」

「最後に色々話した後、魔法で治療せずにこのまま殺して欲しいと懇願され、俺はナイフを引きました」

「ルベル」

 私はルベルを抱きしめた。抱きしめずにはいられなかった。

「動かなくなったトマスを見た俺は、貯めていた金だけを持って、あてもなく着の身着のまま飛び出しました。何日か、ひたすら移動し続けて、あなたを見つけたんです」

「そうだったの」

 あの日のルベルにそんな事情があったなんて。私、何も知らなかった……。

「リヴに出会うまで、俺は感情というものがよくわかりませんでした。何も感じず、ただ淡々と生きているだけの日々だった。でも、今ならわかります。あの日の俺は、悲しんでいたんですね」

「あなたの心を、どうしたら癒やしてあげられるのかしら」 

 抱きしめることしか出来ないなんて、悔しいわ。

「俺は、リヴがいてくれるだけで十分癒やされていますよ。あなたは俺の光だ。愛おしい人……少し、目を閉じてくれませんか?」

「ええ、いいわ」

 急にどうしたのかしら?もしかして、また口づけを?


 ドキドキしながら目を閉じた私の予想は外れ、硬い感触の何かが唇に触れた。この感触には、覚えがあるような気がする。



 
 
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