執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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すれ違ったとしても一向に構いません

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「昨日は大丈夫だった?」

「……大丈夫に見えるか?」 

 朝食を口に運ぶティグレは、昨日より頬がほっそりしているような気がした。

「くすっ、生きているので大丈夫ですよ」

「それもそうね」

 正直、今朝ティグレに会うまでは、最悪ルベルが殺してしまった可能性もあると思っていたもの。

「ちょっと女装して女子会しようとしただけで、怒りすぎだろ」

 ティグレは唇を尖らせていて、不機嫌そう。

「昨日も言ったが、あんな出来損ないの化け物みたいな姿で、二度とリヴの前に現れるな。俺だって、まだリヴと女子会なんてしたことが無いのに……俺を差し置いて、リヴと女子会出来るなんて思うなよ!」

 残念ながら、ルベルも女性では無いから、私と女子会をする機会なんて一生無いでしょうね。何をムキになっているのかしら?

「別に、俺は女子会がしたかったわけじゃないから安心しろ」

「あんなに凄い女装までしたのに?」

 てっきり、相当女子会に飢えているのかと。

「あー、もう!昨日のことは忘れろ!いいな!」

 大きく叫んだティグレは、自暴自棄のような勢いでガツガツ朝食を食べ進めた。





「ーーお店が多すぎて、目移りしてしまうわね」

 宿を出て町を歩くと、相変わらずたくさんのお店があった。

 どこから見ようかと、わくわくしてしまうわ。ここにアンジェロがいたら、きっと私と同じ気持ちになったはず。

 ふと、可愛い弟を思い出して寂しさを感じた。

「はぐれないように気をつけて下さい」

「ええ、ありがとう」

 大きくて温かいルベルの手が、私の手を包み込む。繋いだ手の温もりに心の中まで温められて、寂しさはすぐに消えていった。

「俺もはぐれないように手繋ごうかな~?」

「はぐれたとしても、お前は自力でなんとかしろ」

 ニヤニヤしながら伸ばされたティグレの手を、繋いでいない方の手で、ルベルはピシャリと強く叩く。

「二人とも、喧嘩をしては駄目よ。さあ、まずはあのお店から見ましょう」

 こんなに人通りが多い中で揉めるのは良くない。ティグレの悪ふざけに怒りそうになるルベルを何度かなだめつつ、私達は一通り町の中のお店を見て回った。



「ねぇ、あれを買ってきてもらえる?」

 とある目的の為。少し離れたところにある、列が出来ているジェラートショップを私は指差した。食べたいわけでもないのに、時間稼ぎの為に買いに行かせるのは罪悪感があるけれど、目的を果たす為にはしょうがない。

「わかりました。そこまで遠くないので大丈夫だとは思いますが、もし何かあったら、こいつを盾にでもして下さい」

「こわっ!」

「うふふっ、大丈夫よ。そんなことはしないわ」

 ジェラートショップの列に並びに行ったルベルは、私の思惑に気づいている様子は無い。列はそこそこ長いので、十分程度はかかるはず。今のうちに目的のお店に移動しないと。

 

 ジェラートショップからちょうど死角になるお店へ、私は急いで移動した。

「あの、これを下さい」

 店先に並べられた商品の中から、五つの赤い薔薇が描かれた懐中時計を指差す。

「はい、ご購入ありがとうございます」

 買いたい物は速い段階で決まっていたけれど、問題はそこからだった。プレゼントを買う瞬間を本人に見られないようにする方法が、なかなか思いつかず。苦肉の策で、ジェラートを買いに行かせることにしたのだ。

「それ、あいつに?」

 会計を済ませ、店員から受け取った袋をティグレがのぞき込む。

「ええ、素敵でしょう?ルベルにぴったりだと思って」

「あいつ、めちゃくちゃ喜びそうだな。まあ、お嬢ちゃんからもらえるなら泥でも喜ぶだろうけど」

「いやね、さすがに泥は……」

 え?喜ばないわよね?だって、泥よ?

 ルベらなら、ありえないとは言い切れない気がした。少し不安になりながら、バッグの中にプレゼントを入れる。

「おいおい、そこはありえないって即答してくれよ。泥なんかプレゼントとしてもらって喜ぶとか、いよいよ怖いぞ」

「でも、それで喜ぶ可能性もありそうな気がしてきたのよ……」

「えぇー、あいつヤバいな」

「何がヤバいんだ?」

「「!!」」

 ティグレの後ろから、ひょっこり姿を現したルベルに、思わず息を呑んだ

「ご所望のジェラートです。どうぞ」
 
「あ、ありがとう」

 とても美味しそうなジェラートね。プレゼントを買う間の時間稼ぎに、あのジェラートショップを選んで良かったわ。

「俺のは?俺のは?」

 お菓子をねだる子供のように、ティグレはルベルに迫る。

「騒ぐな。ちゃんとある」

「やったぁー!!」

 珍しい。ルベルのことだから、ティグレの分までは買って来ないと思ったのに。ティグレも自分の分は無いと思っていたのか、ジェラートを受け取って大喜びしている。

「ん、このジェラート凄く美味しいわね」

 甘すぎず、爽やかで食べやすい。

「お口に合って良かったです」

 ルベルとジェラートを食べていると。

「あれ?ジェラートのコーン包んでる紙に、何か入ってる?」 
 
 不思議そうに、ティグレがコーンの包み紙を外した。

「どうしたの?」

「っ!これって……」

 ティグレの手の中にあったのは、青いライラックの花が描かれた小さな栞。

 もしかして。

「光祭りの贈り物だ。受け取れ」

 青い花ということは、ルベルにとってティグレは友人。自分にとってティグレがどういう存在か、ちゃんと答えを出せたのね。

「……か」

「え?」

 小さな声でティグレが何を呟いたのか、よく聞こえなかった。

「やっぱり、お前は……」

 喜ぶと思っていたティグレは、酷く傷ついたような顔で、ジェラートを地面に落とした。

「気に入らなかったか?」

「そういう問題じゃねぇ!もういいっっ!!」

「待って!」
 
 困惑するルベルに向かって、ティグレは何かを投げつけ、走り去ってしまった。

 反射的にルベルが掴み取った、投げつけられた物の正体は。

「「……」」


 オレンジ色のマリーゴールドが刺繍されたハンカチだった。
  
 
 

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