執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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世界を救っても一向に構いません

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「化身様、全てを思い出されたのですね」

「ええ、思い出したわ」

 神のかりそめの姿ーーだから化身、だったわね。

 今は人間としての自我が強いから、神だった記憶を思い出しても、特に動揺したりはしない。今のこの体が死ねば、また神に戻るというだけだし。
 
「今回は、どういったご判断を……?」

 イレーネさんは、不安げに私を見つめる。

「心配しないで。ちゃんと浄化と封印は行うから」

「ありがとうございます!」

 世界の存続を悟り、彼女は安堵の表情を浮かべた。

「悪しき心の人間だけではなく、善良な心を持つ人間にも出会えた。まだ、この世界を終わらせるべきだとは思わないわ。きっと彼も、私と同じ気持ちよ」

 ルベルも今頃、私と同じように記憶を取り戻しているはず。

「転移の門へ移動しましょう。お連れの方も、神官に案内させます」





 下界に落ちたディシデリオは、封印されながらも神力を振り絞り、自分の体の上に『人間』という生命体を作り出していた。狂気的なスペランツの愛情に触れ続ける日々の、心の慰めとして。

 しかし、人間を利用して自分の欲望を満たしたい、というディシデリオの心から生まれた闇が溢れ出してしまう。弟が生み出した生命体を愛したスペランツによって、闇に晒されても死なないように人間は守られていたが。それでも、精神が闇に蝕まれることまでは止められず、下界は混沌と化した。



 ……ようやく神々が異変に気づいた頃には、人間が下界で苦しんでいて。救えるのは、私とオスクリタだけだった。

 すぐに下界の闇を浄化しに行こうとしたけれど。新しく生まれた人間という生命体は、弱くてもろく。神が自然に放出する神力を少し浴びただけで、死んでしまう。

 その弱さに困惑し、神々も頭を悩ませた。助けたいのに、下界に神は降りられない。しかも、ディシデリオの欲望の力がスペランツの封印を破りそうになってしまう。

 焦った神々の中の一人が、いっそ人間になってしまえばいいのでは?と思いついてからは、話が早かった。人間として転生し、神々が作った宝玉に触れて記憶を取り戻す。そうすれば、下界の闇を浄化出来る。

 名案だと思ったのに、オスクリタが反対した。記憶を失った私が他の誰かを愛すのでは?と、可愛らしい不安を抱いていたみたい。

 でも、私は記憶を失ってもオスクリタ以外を愛すはずが無い、という揺るぎ無い自信があったから強行突破した。

 こうして、私とオスクリタは人間に転生し、下界の闇の浄化とディシデリオの封印に成功する。ただ、封印も浄化も数百年に一度ごとに再び行わなければならず。そこまでの手間をかけて人間を生かすかという判断は、私とオスクリタにゆだねられた。





「私、アウローラ様とオスクリタ様の関係には本当に憧れているんです!だから、使徒に選んでいただけたのが嬉しくて」

 転移の門を目指して歩いていると、瞳を輝かせてイレーネさんはそう言った。

「どうして?」

「何度生まれ変わっても愛し合う二人、オスクリタ様の自分以外を愛して欲しくないという独占欲、アウローラ様の深い愛情……恋愛オタクの私には、たまりません!!実は、天界の神様に異世界の恋愛用語を教えてもらって、小説も出版したんです」

 神の化身を手伝う為の『使徒』に選ばれた者は、天界の神々と交信出来る。神々は暇つぶしに違う世界を覗くことがあるから、その知識を教えてもらったのね。

「どんな小説なの?」
 
「『僕だけの君』という小説なんです。他の国でも出版されているんですけど、知らないですよね?」

「知っているわ!ヤンデレという言葉を教えてくれた令嬢が読んでいたのよ」

 まさか、イレーネさんが作者だったなんて。

「おーい!無事か?」

 手を降るティグレの姿が見えた。

「何も危害は加えられていないわ。それより、事情は後で話すから、今はエマーティノスに行かないと」
 
「は?エマーティノスに??」

 困惑するティグレ。
 
「この神殿にある転移の門を通れば、すぐなの。ついて来て」

 説明する時間は無いのよ。

「早く行きましょう」

 納得していないティグレの腕を引くイレーネさんと私の三人は、転移の門をくぐった。



「ーー闇が集まっているわ。急がないと!」

 転移した先には、すでに強い闇の気配が。オスクリタの化身、ルベルがこの闇の先にいるんだわ。

「どういうことだ??」

「説明は私が。化身様、後はお願いします!」

 ティグレと、説明役を引き受けてくれたイレーネさんを置いて、私は走り出す。待ってて、ルベル。



「くっ……」

 たくさんの闇に囲まれ、苦しむルベルを見つけた。
 
「ルベル!」

 すぐに抱きしめて、闇を浄化する。来るのが遅くなって、ごめんなさい。 

「ふぅ、ありがとうございます」

 ルベルの近くには、剣の姿のスペランツがいた。

『やあ、久しぶりだね。今回も、人間を生かしてくれるのかな?』 

「そのつもりよ」

 ルベルもうなずいた。

『オスクリタは相変わらず、アウローラが好きだね。まあ、私もずっとディシデリオを愛しているから、お互い様かな。ディシデリオは今、封印を破ろうと必死に頑張っているんだ。この前も、アンデッドを操ってアウローラに話しかけていたし、可愛いだろう?』

おぞましいの間違いだろう。そんなことが出来ないように、また封印を強化してやる」

 私も同意見。あのアンデッド、ディシデリオが操っていたのね。気持ちが悪いわ。

「さあ、深く眠りなさい」

 ルベルの手を取り、互いの力をスペランツに込める。

『ありがとう。君達のおかげで、ディシデリオは眠ったよ』


 今回も人間は滅びず、生き延びることになった。

 


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