執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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プロローグ

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「リヴィアンナ様は、ヤンデレについてどう思われますか?」


 目の前の状況に対する現実逃避なのか。以前、お茶会でそんな問いかけを私にした令嬢がいたことを、ふと思い出した。 

 その質問に対して、私は一体なんと返したのだったかしら?





「……ごめんなさい。不勉強なようで、ヤンデレ?という言葉をちょっと存じ上げないわ」

 ティーカップを置き、扇子で口元を隠す。ヤンデレという言葉には、全く聞き覚えが無かった。

「リヴィアンナ様は王妃教育でお忙しくされていますし、知らなくても無理はありません。ヤンデレというのはですねーー」

 知らない言葉を聞いて戸惑う私を見た彼女は、ヤンデレというものについて、詳しく説明してくれた。

 彼女いわく、ヤンデレというのは最近流行っている恋愛小説に登場する言葉のようで、相手に対する愛情が強過ぎるあまり病的な精神状態になってしまう人間を指すもの、なのだとか。

「なるほど、理解出来ました。ありがとうございます。なんというか、皆様なかなか刺激的なものをお読みになっているのですね」

 周りの令嬢達が色めき立つような流行りの恋愛小説より、私は冒険小説の方が好きで普段からよく読んでいる。だから、そういった話題にはどうしても疎くて。そんな小説が流行していることすら知らなかったわ。

「そうなんです!『僕だけの君』は本当に胸が高鳴る刺激的な小説で、最近は色んな方々と『僕だけの君』について語り合っていて」

 ティーカップの中の紅茶が溢れてしまうのでは?と心配になるほど、彼女は興奮気味に『僕だけの君』という小説について熱く語る。素敵な殿方に強く病的に愛されるのが最高なんです!と。相当お好きなのね。

「それで、ヤンデレについてどう思うか?という最初の質問に繋がったのですか」
 
「はい!リヴィアンナ様なら、想い合うお方がヤンデレになってしまったら、どう思われます?」

 彼女は瞳をキラキラ輝かせながら私を見つめて、改めてまた問いかけてきた。

「そうですね、私なら……」

 ああ、そうだわ。あの時、確か私はこう言ったのよ。


「愛する人がヤンデレになっても一向に構いません」
 




 ーーでも実際に自分がそうなってみると、少し考えるものがあるみたいね。

「リヴィアンナ様、こんな所で長らくお待たせしてしまって大変申し訳ございません。あの『愚か者ども』は、全員始末してきました。ああ!もっと早く、こうするべきでしたね。そうすれば、あなたの優しい心につけ込んで、あの畜生にも劣るゴミクズ共が調子に乗ってつけ上がることも無かった。もう二度と、今回のようなことが起こらないように、これからは細心の注意を払わなければ……。あなたを害するものは、ちゃんと全て排除しますので安心して下さい。だって、リヴィアンナ様を守ることこそが俺の使命なんだから!!」


 勢い良く早口で話した私の執事であるルベルは、恍惚とした表情で私を見つめている。
 
 昨夜、婚約者から見に覚えの無い理由で私は婚約破棄された。それをお父様に報告したら、激しくお叱りを受けて。怒り狂ったお父様の手で私は物置き部屋へ閉じ込められ、一晩が経った。

 どうやら、私が閉じ込められていた間にルベルは暴走してしまったみたい。衣服に、ところどころ血のようなシミが付着している。

 そして何より、足元には昨日私を散々叱責していたお父様が倒れ伏していて、ピクリとも動かない。

 これはつまり、先程ルベルが言っていた『愚か者ども』の中にはお父様も含まれていた、ということなのでしょうね。

「ルベル、あなたが一体何をしてきたのかはわからないけれど、アンジェロは無事なの?」

 お父様のことは、もうこの際どうでもいい。私はただ、可愛い弟のアンジェロの安否だけが気になっていた。

「もちろん、リヴィアンナ様が大切にされている弟君ですから、アンジェロ様には一切危害は加えておりません。何も知らずに、今もお部屋で眠っていらっしゃるでしょう」

「そう。だったら、特に何も問題はないわね」


 最初は少し焦ったけれど。やっぱりあの日言った通り、愛する人がヤンデレになっても私は一向に構わない。

 


 
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