執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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邪魔者は排除しても一向に構わない

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「お帰りなさいませ、リヴィアンナ様」

「ルベル、お父様はどちらに?」

「書斎にいらっしゃいます」

「そう。ありがとう」

 夜会から帰って来たリヴィアンナ様をお迎えすると、何か急ぎの用があるのか、すぐに公爵のもとへ向かってしまった。

 深刻そうな顔をしていたのが気になり、リヴィアンナ様の影に仕込んだ魔道具で音声を聞くと、すぐにその理由がわかった。

「この役立たずがっ!いいか、格上の家に嫁ぐ以外にお前の存在価値は無い。それなのに、王子に婚約を破棄されただと?ふざけるなっ!今のお前には、生きている意味すら無い!!」

 聞こえてきたのは、酷い暴言。とても、父親が娘に浴びせる言葉とは思えない。こんなに激しく怒りを感じたのは、生まれて初めてだ。

 リヴィアンナ様は、あの王子との婚約を望んだことなど一度も無い。それなのに厳しい王妃教育にも耐え、王子の婚約者として相応しい淑女であろうとした。公爵にも、逆らっているところは見たことが無い。

 理不尽な父親、堂々と不貞を働く婚約者……。

 ずっと懸命に努力し続けてきた彼女が、なぜこんな仕打ちを受ける?

「きゃあっ!」

 俺が怒りの炎を燃やしている間に、リヴィアンナ様は真っ暗な物置部屋へ突き飛ばされてしまった。

「ここで自分の愚かさを反省しろ!せっかくの王子との婚約を台無しにしおって。とんだ出来損ないだ!」

 乱暴に扉の鍵を閉め、ぶつぶつとリヴィアンナ様への見当違いな文句を呟きながら、公爵は廊下を歩いて行く。

「お父様!ここから出して下さい!」

 リヴィアンナ様の呼びかけにも応えず、公爵は歩き続ける。黙って聞いていれば、爵位は多少下でも金のある家に嫁がせるか、とまで言い始めた。


 ブチンッ

 
 俺の中で、何かが切れるような音がした。

 ……もう限界だ。こんな奴らは、早く始末しないと。これ以上、俺のリヴィアンナ様を傷つけさせてたまるか。



「リヴィアンナ様、聞こえますか?」

「ルベル?ルベルなの?」

 公爵がいなくなってから、急いでリヴィアンナ様のもとへ向かい、扉越しに声をかけた。

「用事を片付けてから、必ずあなたを助けに来ます。どうか、ここで待っていてくれませんか?」

 これからすることは、彼女には見られたくない。

「わかったわ。私、あなたが来てくれるまで待っているから」

「ありがとうございます」

 誰にも危害を加えられないように、部屋には一応結界魔法をかけてから離れた。

 まずは、屋敷にいるリヴィアンナ様以外の人間を魔法で眠らせ、王宮を目指す。

 最初に始末したいのは、あの愚かな王子だ。

 

 ーー影を使って移動すれば、王宮だろうが簡単に侵入出来る。

 歩いていた見張りの兵を捕まえ、王子の居場所を聞き出してから記憶を消す。ちょうど、リヴィアンナ様を陥れようとした卑しい女も一緒にいるらしい。

 リヴィアンナ様の為に日頃から情報収集する中で、あの女についても一応知ってはいた。身分の高い男にすり寄るしか能の無い女だと思っていたが、まさかリヴィアンナ様に害を及ぼすとは。

 いい機会だ、こいつも始末しておこう。金輪際、二度とリヴィアンナ様に関われないようにしてやる。


「さて、一仕事するか」

 危機が迫っているとも知らずにくつろいでいる二人の部屋に侵入し、助けを呼ぶ隙を与えず素早く魔法で眠らせる。

 恐れ多くもリヴィアンナ様と婚約していた馬鹿王子の髪を掴み、頭を持ち上げた。

「今まで、リヴィアンナ様がずいぶん世話になったな。たっぷり礼をしてやるから、楽しみにしていろ」

 まぬけな寝顔を見ているうちに、こいつらのこれからの人生を最高のものにしてやるいい方法を思いついた。

 ……だが、その為にはちょっとした小細工がいる。

 部屋の中を物色して便箋を探し、王子の筆跡を真似て書き置きを書く。リヴィアンナ様が王子から受け取った手紙を何度か読んだことがあるので、筆跡を真似るくらい簡単だ。

 王子の手紙は、いつもリヴィアンナ様を貶めるような内容だったので読むたびに腹が立ったが、我慢して読んでおいて正解だった。



 よし。これで、こいつらがここに戻ることはもう無いだろう。

 小細工も終わり、あとは二人を運ぶだけだ。

「じゃあ、行くか」

 のんきに眠る二人を肩に担いで、誰にも見つからないように王宮から出た俺は、とある場所へと向かった。



 

 次の日。王宮は大騒ぎになっていた。

「なんということだ!まさか、こんなことになってしまうとは……」

 昨夜、公爵令嬢との婚約破棄を勝手に決め、代わりにカルメン・フーリー男爵令嬢との婚約を望んだ息子を強く叱責した。

 しかし、それがこんな事態を招いてしまうとは思いもしなかったのだ。

 国王は玉座に座りながら、頭を抱えた。

 今さら後悔しても遅いが、フラウドを甘やかし過ぎたのかも知れない。

「陛下、フラウド様はまだ見つからないようです」

 大臣が報告に来たが、結果は思わしくない。

「ーーそうか、ご苦労。引き続き、捜索を続けてくれ」

「はい、承知しました」

 国王の命令を受け、大臣は下がる。



『愛するカルメンと駆け落ちする。どうか探さないで欲しい』という書き置きを残し、失踪したフラウド・ヴェルデ王子。懸命な捜索がしばらく続いたが、ついに発見されることは無かった……。




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