執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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大切な弟を任せても一向に構いません

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 一緒に暮らすようになってしばらく経った頃、彼女が言ったんだ。

 子供を生みたい、とね。

『この体ではきっと出産には耐えられないだろう。子供は諦めた方がいい』と、医者に言われていたから。彼女がそんなことを言い出すなんて、思いもしなかった。かなり驚いたよ。

 だって、そんなの自殺行為じゃないか。

 当然反対した。でも、彼女が私に言ったんだ。

『長生きなんて出来ないって、自分でもわかってる。どうせ短い命なら、愛するあなたとの子供を産んで、私が生きた証を残したい。例え、それで死んだとしても。また次の命に繋げるなら、後悔なんてしない。このまま少しずつ弱って意味も無く死ぬよりも、そのほうが幸せ』と。

 私が思っていたよりも、ずっと彼女の決意は固かった。最終的には私も折れて、彼女の意思を尊重することにしたんだ。そうして産まれたのがチェーリアだよ。

 予定されていた時期より早めに産まれて、普通の赤ん坊よりもだいぶ小さかったけど。無事に産まれてくれて安心した。

 ーーしかし、チェーリアが産まれたのを見届けて幸せそうに笑った彼女は。眠るように目を閉じて、そのまま動かなくなってしまった。すぐに医者が来て、手を尽くしてくれたが……助からなかった。

 命懸けの出産だと、最初からわかっていて。覚悟もしていたはずなのに。いざ、彼女を失ってしまうと。耐えられない程の深い喪失感で、心が一杯になって。涙が止まらなかったよ。

 温もりを失っていく彼女の手を握り締めながら、呆然と立ち尽くしていた。



 けど、チェーリアの元気な泣き声を聞いて我に返った。

 彼女は、いつか自分が死んだ時。悲しみに暮れる私の心の支えになるように、この子を産んでくれたのかも知れない。私がするべきことは、悲しみに暮れることではなく。この子をちゃんと育てることだ、と気づいたんだ。

 頬を流れる涙を拭って、私は彼女に誓った。

『ありがとう。この子を必ず幸せにして見せるから、どうか見守っていてくれ』





 それからは、毎日とにかく目まぐるしい忙しさだった。乳母を雇っているとはいえ、一人で子育てするのは、やっぱり想像以上に大変でね。

 出来る限り、チェーリアに寂しい思いをさせまいと。どれだけ忙しくても、少しでも家族の時間を作れるように奮闘していた結果。日々の疲れが積み重なり、どんどん疲弊していった。

 そんな時。気晴らしに舞台でも観に行かないか?と、私の様子を心配した友人が誘ってくれたんだ。舞台には、正直あまり興味は無かったけど。せっかくの厚意だ。無下にするのも悪いから、舞台を観に行った。

 今思うと。友人には、本当に感謝してもしきれないよ。だって、そこで運命の出会いをしたんだから。

 ふふふっ。ここまで言えば、もうわかるね?

 そう。私はその舞台で、ジュリアに出会ったんだ。

 まあ、出会ったと言っても、客席から一方的に見ただけで。ちゃんと直接会ったのは、もっと後なんだけどね。 



 ーー舞台に立つジュリアは、とても楽しそうに生き生きしていた。

 照明の光に照らされて輝く、ストロベリーブロンドの髪。表情豊かな、たれ目気味の若草色の瞳。彼女の全てが息を呑むほど美しく、魅力的で……。

 気がつくと、疲れも忘れて夢中で舞台に見入っていた。自分でも驚くほど。

 そこから、癒やしを求めて彼女の舞台を観に行くようになったんだ。ジュリアを見ると、不思議と元気になれたから。

 彼女のおかげで、よりいっそう仕事も子育ても頑張れた。その頃の私にとって、彼女は疲れを癒やしてくれるありがたい存在だったんだ。





 だが。そんな私の貴重な癒しは、残念ながら失われてしまう。

 知っての通り、ジュリアはアントーニア公爵に見初められてしまったからね。当然、舞台公演も中止。

 彼女がアントーニア公爵に連れて行かれた、と劇場の支配人から聞いた日。酒を飲みながら、一人で涙を流した。彼女を思うと、酷く心が痛んだよ。私にはどうすることも出来ないのが、悔しくて……無念だった。

 でも、失意のまま仕事に明け暮れていた矢先。成長が遅くて心配していたチェーリアが、少しずつ言葉を話せるようになってね。それが、私の心を救ってくれたよ。

 また仕事とチェーリアが生活の中心になり、ジュリアのことは考えなくなった。





 日々が過ぎ。チェーリアがすっかり流暢に話せるようになった頃。思いがけないタイミングで、私はジュリアと再会した。



 いつものように仕事を終え、家に帰ろうと町を歩いていると。人混みの中に、見覚えのあるストロベリーブロンドの髪が見えたんだ。その瞬間、忘れていたジュリアの姿が鮮明に頭に浮かんで。どうしても、本人なのか確認したくなった。

 近づいていくと、すっかり痩せて顔色も悪かったけど。確かにジュリアだった。
 
 もう会えないと思っていた彼女を久しぶりに見られた喜びで、私はどうかしていたんだろうね。あなたのファンでした!と、興奮して大声で話しかけてしまったんだ。

 彼女は、私の勢いに戸惑いつつ『ありがとう、すごく嬉しいわ』と言って、美しく微笑んでくれて。天にも昇る気持ちだったよ。

 その後、私とジュリアは世間話やお互いの身の上話で盛り上がって、そこでアンジェロ君の存在を知ったんだ。一人で子育てする者同士。意気投合した私達は、時々会って話す友人のような関係になった。



 世の中は、本当に何があるかわからないね。

 最初は、私が一方的にファンだっただけなのに。一緒に過ごしていくうちに惹かれ合い、結婚までするなんて。予想もしなかったよ。



 結婚しようという話しになった時、私とジュリアは一つ約束をした。お互いの子供を自分の子供として大切に愛そう、と。

 実は、アンジェロ君が公爵家に連れて行かれる一週間ほど前。ジュリアをチェーリアに会わせていたんだ。チェーリアは、新しい家族が増えることを喜んで受け入れてくれて。

 次は、私がアンジェロ君に会って話す番だった。





「ーー結局、公爵家に連れて行かれてしまったけど。私は、あの子と家族になるつもりでいたんだ」

「そう、だったのですね……」

 もし、お父様がアンジェロを強引に引き取らなければ。ウベルト様は、とっくにアンジェロと家族になっていて。私と出会うことは、無かったのかも知れない。

「成長するにつれて視力が下がっていくチェーリアを、ジュリアは変わらず大切にしてくれた。心から、感謝しているんだ。私も約束を守りたい。アンジェロ君を大切にして、幸せにすると誓う。だから……どうか、アンジェロ君を家族として迎え入れさせて欲しい。お願いだ」

 真剣な表情で、ウベルト様は頭を下げた。

 答えは、すでに決まっている。


「あなたにならーー」



 
 
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