カニバル ーすべてを喰らう者ー

未達歌

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第1章

特級貴族

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朝、ブランが朝食のパニーニを食べている時だった。
バルドロイの隣で新聞を読みながら紅茶を飲んでいると、なにやらロビーが騒がしい。

「アルフレッド、何事だ?」
「確認してまいります」

食堂にまでヒステリックな声が聞こえてくる。確認しなくても誰が騒いでいるかなんて明白だった。
ブランはサァと顔を青ざめさせ、痛みを思い出しては吐きそうになるのを堪えた。

「大丈夫か?」
「はい……。少し思い出してしまって」
「……可哀そうに」

バルドロイが優しくブランの髪を撫でる。
それだけで込み上げてくる吐き気が収まるようだった。

暫くしてアルフレッドが戻ってくる。

「奥様が旦那様にお会いしたいと仰っております」
「何の用で? 謝罪をしに来たとは到底思えん」
「おそらく、本日のパーティーに関するお話かと」
「一応連れていくと言ったはずだが、なぜあんなに喚いているんだ」

バルドロイはこめかみを押えてため息を溢した。

「ブラン様とご一緒であることにご立腹のようですね」
「……やっぱり」
「ブラン。気にするな」
「でも……」

ブランは新聞を置いて俯いた。

(やっぱり、皇室のパーティーに僕みたいなのが参加したら、怒られてしまうかな……)

「そんな下らないことを言うならば話はないと伝えてくれ。馬車も別で手配を。私はブランと。あとの三人は別の馬車で」
「かしこまりました」

アルフレッドはまたロビーへ向かった。
ブランは恐る恐るバルドロイを見上げる。

「お父様。僕少し怖いです。もちろんお父様と一緒にパーティーに行けるのは嬉しいですが、僕を嫌っているのは奥様だけではありません。僕と一緒にいてお父様までみんなに嫌われてしまうのは僕の望むところではありません……」
「ブラン。昨日も言ったがお前は高貴な血筋だ。物怖じすることはない。我がボナパルト侯爵家はこの帝国において、大公爵家、公爵家に次ぐ地位を持っている。お前を非難するものは愚か者なのだ」

バルドロイは覚悟を決めたようだった。
昨日までは不安げにしていたのがブランにも伝わっていたが、一夜明けてみると清々としているようにも見える。自暴自棄になっているわけでもなさそうだ。

(まぁ、ナズさんの知り合いも仲良くしてくれるはずだって言ってたし……。なるようになるのかな……?)

「……でももし、辛くなったら帰ってもいいんですか?」
「いいよ。その時は帰ろう。出席さえすればいいんだ。皇太子殿下に祝辞を述べて、それで楽しくなければ帰ろう」
「……約束ですよ」
「あぁ。約束しよう」

バルドロイとブランは小指を交える。これは花国に古くから伝わる“おまじない”なんだそう。
小指を結んで約束した者は決して裏切ってはならない。もし嘘をつけば針を千本飲まされるという恐ろしい逸話だが、今では帝都でも約束事をするのに流行っている。

(お父様や昨日の店主のように、僕を見ても嫌いにならない人が他にもいてくれたら嬉しいな……)

ブランが食事をし終えると、日中はバルドロイによって最低限のマナーが教えられた。
少なくとも入場と皇太子への祝辞だけでも様になればよかった。
おそらく会場ではドリンクを嗜む程度で、お互いに離れないから会話などはすべてバルドロイが引き受けるつもりだ。

「皇族に挨拶をするときは決して顔を上げてはいけないよ。右手を左胸に当て、最敬礼をした状態で口上を述べるんだ」
「こう、ですか?」

ブランが最敬礼をする。細くて小さな体だが骨格はしっかりしていて体幹もブレない。

「とっても上手だよ。口上はこう。皇帝陛下に謁見するならば“大陸の征服者にして帝国の沈まぬ太陽、皇帝陛下にご挨拶申し上げます”。皇后陛下ならば“偉大なる母にして帝国の輝く月、皇后陛下”」
「うん、覚えました」
「皇太子殿下に対しては“帝国の明星、皇太子殿下”。その他の皇子、皇女に対しては“帝国の星”と呼ぶんだよ」
「わかりました」

ブランは一度聞いたもの、見たものはすべて覚えることができた。それは生まれ持ったのか、それとも生きるために必要な能力だったのか。今になっては定かではないが、普通に暮らしていれば手に入れることができない能力だったのは確かだ。

「今夜は皇太子殿下のご生誕の日でもある。16歳になったということは、一人前と認められ結婚適齢期に入ったということだ」

帝国では男女ともに16歳で結婚ができるようになる。多くの貴族は16歳から20歳までの間に結婚し家庭を築くが、軍に所属しているものは平均して30歳と遅めである。

「お父様。どうして15歳で成人と認められ洗礼式をするのに、デビュタントは16歳なのですか?」

デビュタントとは結婚適齢期に入った貴族が社交界に成人としてデビューすることを指す。子息、令息のお披露目を意味する社交界デビューと違って、このデビュタント以降は結婚相手を探す目的を持つ。

「15歳で成人して、洗礼式の儀で己の器を知る。それから一年は自分磨きの期間とされているんだ。モラトリアムともいう。子供から大人への成長過程で、親離れをする時期なんだよ」

バルドロイの言葉にブランはショックを受けた顔をした。

「親離れ……?僕、来週の洗礼式が終わったらお父様から離れないといけないんですか……?」
「はは!違う違う。すぐに家を出なきゃいけないってわけじゃなくて、徐々に徐々に貴族としての仕事を覚えていくんだ。長男ならば爵位継承のための当主代行とか、令嬢ならば花嫁修業とか。また、軍や神宮を目指している貴族ならば士官学校、もしくは正教学園への入学がその時期だな」
「学校、ですか?」
「そうだ。軍人を目指すものは帝国軍士官学校へ入学して、三年間、軍事について学び訓練をするんだ。ブランも陸軍に入りたいなら士官学校に入学して寮生活をするんだよ」
「寮生活……。結局お父様と離れ離れになってしまうじゃないですか」
「まぁ、そうだが在学期間だけだよ。手紙のやり取りは禁止されていないし、長期休暇や式典の際には会えるよ」
「むぅ……」
「それに、宮内庁を目指す者はもっと早くから学校に通っているんだよ」
「くないちょう?」
「皇宮のことだよ。皇族の身の回りのお世話をしたり、教育をしたり、政治や執務を手伝ったりする。メイドから大臣まで幅広くいるんだ。この前見せた、皇室会議の方々も宮内庁に名を連ねているよ」
「え? じゃあ氷雨様も宮内庁にいるんですか?」
「あのお方は神宮の所属かつ宮内庁の役員だね」

ブランは「う~~ん」と頭をひねった。

「ってことは、いろんな組織の一番偉い人は皆、宮内庁の役員になっているってことですか?」
「! ブランは賢いな。その通りだよ」

バルドロイに頭を撫でられブランは満足そうに笑った。

(なるほど、じゃあ皇族を抜いた特級の7名も宮内庁役員なんだ……。そんな人たちが今夜……)

「……ブランはいい子だから、きっと今夜も素敵な夜になるさ」
「お父様といられるだけで十分です。それ以上は望みません」

ブランはにっこりと笑った。その言葉に嘘はなかった。
バルドロイはブランを抱きしめる。
窓の外はすっかり陽が傾き、空は茜色に染まっていた。

コンコン。

「旦那様、お坊ちゃん。ご準備の手伝いに上がりました」
「あぁ」

アルフレッドがお辞儀をして部屋へ促す。
ブランはバルドロイに手を引かれてドレスルームへ移動し、昨日購入した式典用の服に着替えた。

(高級な服は動きづらいけど、今日のはもっと動きづらい。重たいしジャラジャラついてて眩しいや……)

あの店で購入した服は店主とバルドロイが選んだものだった。
真っ白なジャケットにグレーのシャツとスラックス。白の肩掛けマントは裏地が鮮やかな水色だった。ボタンの一つ一つに装飾が施されており、光を受けてキラキラと光を反射している。
胸元には黒いベルベッドのリボンと、ダイアモンドのブローチが大きく輝いている。
このブローチはバルドロイとお揃いのものだった。

「さぁ。これを」
「これはなんですか?」

バルドロイが差し出したのはステッキだった。黒い杖にエメラルドが散らばっている。

「これは私が子供の時に使っていたステッキだよ。紳士ならば持っていて当然」
「これも貴族のマナーですか?」
「そうだね」

ブランは両手で受け取って顔をしかめた。

「貴族というのは色々大変なんですね」
「はは。誰が最初にやりだしたかはわからないが、権力を誇示することが当たり前になってしまったんだよ。しかし身分を明らかにすることはどの時代においても重要なことだからね」
「そうですか……」

ステッキを左手に持つと準備は整った。
バルドロイから差し出された手を取り、いよいよ出発である。

ボナパルト家の紋章が入った馬車には陸軍の象徴である二つの剣と百合の花が描かれている。これは軍の中でも“将”の身分を持った者にしか許されていないことだ。
故にこの馬車はボナパルト家でもバルドロイが乗車する時にしか使用してはならない特別な馬車だ。
本来ならばこの馬車にはバルドロイとミランダ、レイチェル、デレクが乗る予定だったはずだが、他の三人は後ろから普通の馬車でついてくることとなった。

皇宮は帝都の北の空に浮いている。
天皇宮と呼ばれる巨大な宮殿は一つの町に匹敵する領地を持ち、住み込みで働いているものが多い。宮殿に入るには天皇宮管理のファルコンに引き上げてもらうか、上級風魔法で浮遊するしかないからだ。

今回のような皇室主催のパーティーでは多くのファルコンが馬車を引き上げるために待機している。
天皇宮の真下は湖になっているためその周り四方八方に馬車のためのポートがあるのだ。

バルドロイたちの乗った馬車は東のポートへ到着した。
既に何台もの馬車が待機していたが、貴族社会では入宮する順番も重要である。東のポートで最優先すべきは大公爵織田家である。花国領の統括領主である織田家当主は特級のうちの一人であり、太政大臣を担っている。
その次が公爵のブルー家、ライト家。次に辺境伯爵であるドレーク家、ルソー家。その次が侯爵であるボナパルト家、ジュエルペット家。

「お父様。貴族の階級では伯爵よりも侯爵の方が上位ですよね? なのになぜ、辺境伯爵の方が先なのですか?」

窓の外を覗きながらブランは聞いた。

「それはな、伯爵と辺境伯爵は全く別物と言っていいからだよ。首都から離れた場所を任されるということはそれだけ上からの信頼が厚いということだ。特に大公爵から領地を任された辺境伯爵らは帝都の侯爵と同等の位置にいるんだよ」
「同等、ですか」
「そう。今日みたいな帝都で開催されるパーティーでは、遠いところからわざわざ来てくださっていることを労って先に案内されるんだ」
「なるほど……」

そんなことを話している間にボナパルト家の順番が回ってきた。
ドアを軽くノックされ検問していた軍人が声をかける。

「ボナパルト侯爵家の方々とお見受けいたします。大変お手数ではございますが、窓を開け爵石の提示をお願いいたします」

(“爵石”?)

バルドロイは窓を開けて指輪を見せた。
赤い宝石のついた指輪にはボナパルト家の紋章である、金細工で彫られている。

「ボナパルト准将、ご提示ありがとうございます。確認いたしました。それではお気をつけてお上りください」
「あぁ、君もご苦労」

検問をしているのは陸軍のようで、バルドロイに敬礼をした。
数秒後、馬車に何かが乗るような音がする。

「うわっ!」
「ブラン、良く掴まっておきなさい」
「え?」

「なぜ」と聞く前にブランは大きな浮遊感に襲われた。

「うわぁ!」

頭上からはバサリバサリと大きな翼の音が聞こえる。

(まさか……!)

ブランがカーテンを開けて窓の外を見ると地面から離れ、上空へ馬車が浮いているではないか。生まれて初めて飛ぶ経験をしたブランは驚くあまりバルドロイへ掴まった。

「お、お父様! 馬車が浮いて……っ!」
「ははは。落ち着きなさい。あんまり暴れるとファルコンが驚いて落としてしまうよ」
「ひぃ!」
「ははは!」

ファルコンは羽ばたいている割には非常に優しい運び方だった。スピードは速いが揺れが少ない。

「皇宮所属のファルコンは頭から尾羽の先まで全長8メートル。平均して800キロまでは持ち運ぶことができるんだ。普通のハヤブサと違って風魔法を使える魔獣でね。調教師によって優秀に育てられているから全然揺れないだろう?」
「た、確かに慣れてしまえば……」
「すぐに天皇宮正門につくから下りる準備をしなさい」

バルドロイは窓の外を眺めていった。
ブランも同じように見てみると、馬車はゆっくりと石畳の地面へ降り立とうとしていた。

ゴトン

車輪が地面につく音がして頭上から羽ばたく音が遠ざかっていく。
ファルコンが次の送迎に離れたのだろう。

コンコン、と軽いノックのあと、男性の声が聞こえた。

「ご降車お願いいたします」
「あぁ」

扉が開かれバルドロイが先に降りる。
扉を開けているのは白い軍服を着た男性だった。おそらく空軍だろう。

「さぁ、おいで」

バルドロイが手を差し出す。
ブランは緊張しながらもその手を取り、ゆっくりと馬車を降りた。

「――え?」

その時扉を開けていた空軍が思わず声を漏らした。
バルドロイとブランがそちらに視線を向けると、ハッとして口を覆う。

「し、失礼いたしました。どうぞ、お進みください」
「……、あぁ」

(……僕を見て驚いたんだ)

ブランはまた怖くなった。正門広間は会場に向かう貴族で溢れている。
既に何人かはブランの存在に気づいたようだった。

「ブラン。周りを気にしなくていい。お前は私の息子だ。堂々としていなさい」
「は、はい」

(そうだ。僕は魔法を扱うことができる高貴な血筋……。お父様の息子なんだから……)

ふぅー、と深く息を吐いてブランは前を向いた。
その時、後ろにミランダ達を乗せた馬車が到着した。
馬車からはデレクが先に降り、ミランダがその手を借りてゆっくりと降りてくる。

「……妻が降車するのに手も貸してくださらないんですか」

ミランダは非常に不服そうだ。一応、親族の男性に手を貸してもらって降りているので世間体的には問題はないが、夫と妻が別の馬車で来たというだけで注目の的だった。

「この3年でレディに相応しい行いをしてきたのか?」
「私は正当な貴族ですよ。こんな辱めを受けるなんて……」
「騒ぎ立てるとより噂が立つぞ」
「……」

バルドロイはブランの手を引いて歩き始めた。
怒りで震えるミランダをデレクとレイチェルが宥めている。

宮殿に入るまでに周りはヒソヒソとブランをみて騒めいた。
大広間に集まれば、ボールルームへ入場するまでの待機時間になる。その間、好奇の目に晒されることが少し辛かった。

「お父様、僕、呼ばれるまでは外に居ましょうか?」
「外に行きたいのか?」
「いえ……でも」
「成不殿が言っていただろう? 成不殿のご友人がいらっしゃるかもしれないから、このままでいよう」
「……わかりました」

その時、前から声が掛かった。

「これはこれはボナパルト侯爵。戦地から一時的に帰還したというのは本当だったのですねぇ」

話しかけたのは薄い金髪を後ろになでつけた男性だ。紫色の派手なジャケットを身に着けており、白いステッキには大げさなくらいの宝石が散りばめられている。とにかく装飾品などが多く、直視できないまばゆさだ。

(お父様の知り合い……?)

ブランはちらり、とバルドロイを見た。
しかしバルドロイは全く嬉しそうな表情をしておらず、むしろ虫でも見るかのように顔をしかめている。

「……ジュエルペット侯爵。久しいな」
「えぇ、えぇ! 夫人も変わらずお美しいですな」
「まぁ、お褒め頂き光栄ですわ」

ジュエルペット侯爵と呼ばれた男性はミランダの手を取ると甲に軽くキスをして微笑んだ。
隣に控えているレイチェルにも同様にキスをする。

「ご令嬢も気づけばこんなにも美しく育って。……デビュタントの時はまだあんなに幼気な少女だったというのに、今は大輪のような立派なレディですねぇ」
「お会いできて光栄です、侯爵様。今年の新作もとても美しくて感動いたしましたわ」
「おぉ! わが社の宝石がお気に召していただけましたか」

(なるほど。宝石を取り扱う会社を営んでいる人なんだな。だからこんなに装飾品が多いんだ)

ブランがじっと見つめて分析しているとジュエルペット侯爵はゆっくりとバルドロイへ向き直った。

「――それで、ボナパルト侯爵。私は幻覚でもみているんでしょうか」
「というと?」

ジュエルペットは無礼にもブランをステッキで差し示した。

「“コレ”はなんです?」
「……!」
「まさか、戦争の英雄ともあろうお方が、この神聖なる天皇宮へ“悪魔”をお連れするなんて、そんなバカなことはありませんよねぇ?」

(っ!!)

高らかな声が大広間に響いた。その場にいた貴族たちが一斉にブランを見る。
待機時間で暇を持て余している貴族たちには良い暇つぶしのタネだ。
途端にヒソヒソと声が聞こえてくる。

「ほら、見て。やっぱりボナパルト侯爵が連れて来たんですって」
「奴隷? それにしては身綺麗過ぎませんこと?」
「そういえばボナパルト侯爵は戦争のあとに孤児を養子に迎え入れたって……」
「まさか敗戦国の戦争孤児を養子に?」
「いやだわ……」
「私、ちょっと気分が悪くなってきましたわ……」

皆、扇子で口元は隠していながらもわざと聞こえるように言っている。
ブランは俯いた顔があげられなかった。足が震え緊張と恐怖のあまり地面が歪んで見える。
背後でミランダがブランへ殺気を向けているのがわかった。

「ジュエルペット侯爵。撤回してもらおう。この子は“コレ”などではなく、ブラン・ボナパルトという名前があり、私の息子だ。無礼極まりない」

バルドロイは怒りに顔を歪めていた。ブランに向けられたステッキを手で叩き落とし、ブランの肩を抱き寄せる。
ジュエルペット侯爵は楽しそうに笑いながらステッキを足元に戻すと「へぇ」と小さくつぶやいた。

「これは失礼。まさか名前があるなんて思いもよらず、何と呼べばいいかわかりませんでしたので。――しかし、ボナパルト侯爵。無礼といいますけれど、貴殿こそ無礼極まりないのでは?」
「……なんだと?」
「見たくもないものを見せられて、この場に集まった高貴な者たちに失礼でしょう。私は同じ侯爵として、貴族としての正しい振舞いを身に着けてほしくて善意から忠告しているのですよ。わざわざねぇ」

ジュエルペット侯爵が「ねぇ、皆様」と群衆に目を向けると、何名かの貴族が少し考えた後に声を上げた。

「ジュエルペット侯爵の言うとおりだ。場に相応しくない者を連れてくるなど、無礼にもほどがある!」
「……そうですわ。ここは貴族ですら滅多に足を踏み入れられない神聖な宮殿ですのに」
「いくら息子と言ったって、養子でしょう? 血を引いていないのに帝国貴族を名乗らせるなんて、私たちへの侮辱とも言える」

群衆は「そうだそうだ」と騒ぎ立て始めた。
ミランダは怒りのあまり眩暈を起こしているようだ。

バルドロイはそれでも群衆に対して堂々と前を向いている。
一度大きなため息をついた。

「……ジュエルペット侯爵。貴殿は“貴族として正しい振舞い”と言ったな」
「? えぇ、そうです」
「私は陸軍へ入隊してから今までの25年間、文字通り命がけで任務を遂行してきた。帝国民のために、何度も最前線で戦い、何度も死の恐怖に耐えてきた。それは陸軍で共に過ごした仲間たちも同じだ」
「……」
「国民のために命を懸けて戦うこと。守ること。それが高貴なる者の務めノブリス・オブリージュではなかったのか?」
「……まぁ、それもありますが、私が言いたいのは——」
「――そういえば貴殿は士官学校を卒業してから空軍へ入隊したものの、初陣で怪我をして除隊されていましたなぁ。大した傷でもなかったというのに、なぜリタイアされてしまったのか疑問だ」
「今は私の話は関係ないでしょう!」

ジュエルペットが顔を真っ赤にして怒鳴った。怒るあまりステッキを持つ手が震えている。
バルドロイはニヤリと笑いながら肩をすくめた。

「そういった積み重ねが、序列順位に影響しているのでは?」
「――貴様ッ!!」

ジュエルペットがバルドロイの胸倉を掴んだ瞬間、ボールルームの扉が開き、執事が出てくる。

「皆様、静粛に願います」
「っ!」

全員の目がボールルームへと向いた。

「これより、序列順にボールルームへご案内いたします。呼ばれた方々はお入りください」

執事は名簿を手に名前を呼び始めた。

「本日は特級のお方が1名いらっしゃいますので、先にご案内させていただきます。――特級:ドラコ・ダ・ルク様、お入りください」

その言葉に大広間は騒めいた。

「まさか、ドラコ様が待機していらっしゃったの?」
「いつもならば特級の方々は既にボールルームへ入られているのでは?」
「なぜ今夜は待機していらっしゃるのかしら」

そう。大公爵家の一族ならば待機していてもおかしくないが、特級に関しては既にボールルームに入っているはずだった。
皇宮主催のパーティーの前には必ず皇室会議が開かれるからである。皇室会議議員であるドラコ・ダ・ルクがなぜこの場にいるのか。貴族たちはキョロキョロとあたりを見渡した。

カツ、カツ——。

待機室のカーテンの奥から、足音が響く。
薄い布で覆われたソファは特別高貴な者が使用できるものであったが、今回はドラコが使用していたようだ。

足音に合わせてホールまでの道が開かれる。全員が頭を下げた。
ブランも慌てて頭を下げる。しかし気になって少しだけ目線を上げて覗き見た。
カーテンの奥から現れたのは赤い軍服を身に着け、白いマントを靡かせる男性だった。
殆ど白に近いプラチナブロンドに真っ赤な瞳。右目は眼帯で隠されている。
一目見ただけで鍛え上げられた肉体だとわかった。

(……この人が、陸軍大将――!)

「いや、すまない。入場が遅れてしまった」

扉まで来ると執事に気さくに話しかけた。
執事も慣れているのか、特に動揺した様子がない。

「いえ、問題ございませんよ。皇帝陛下と皇室議員の方々にはお伝えしております」
「そうか。いつもご苦労」

ドラコ・ダ・ルクは百合の香りを残して颯爽とボールルームへ入っていった。
ようやく貴族たちが顔を上げる。
バルドロイも驚いたらしく少しだけ冷や汗をかいていた。

「……驚いたな。まさか大将軍閣下がいらっしゃるとは」
「お父様の上司、ですよね?」
「あぁ、そうだよ」

(……すごく優しい人に見えたな)

ブランは少しだけ鼓動が早かった。それは心地の良い緊張で、ブランは不思議な感覚だった。
執事が名簿を見る。

「続いて序列第1位、楊大公爵家の皆様方。ご入場ください」

それからは大公爵家から順にボールルームへ案内された。
ボナパルト家が呼ばれたのは25番目のことだった。

「――続いてはボナパルト侯爵家の方々。ご入場ください」
「あぁ、行くぞ」
「は、はい!」

ブランはバルドロイに手を引かれてボールルームへ足を進めた。
通り際に執事をちらりと見ると、ブランを見た執事は優しく微笑んだ。

(この人は僕のことが嫌じゃないのかな?)

ブランは少しだけ恥ずかしくなって小さく頭を下げておいた。

ボールルームは絢爛豪華に装飾されていて眩しかった。
帝国中の貴族が一同に集まるため、とんでもなく広い。
どこまでも広がっているようにも見え、先に入った貴族たちはすでに挨拶をしたりお気に入りの場所を取っているようだった。

「うわぁ……! すごい」
「華やかな場所だろう?」
「はい! とってもキラキラしてて、全部が魔法みたいに綺麗です……!」

ブランは四方八方を見渡した。

床は白い大理石でところどころに金色のまだら模様が美しく、天井はまるで天空を切り取ったかのように、青空と白い雲が揺れている。

「お父様、ここには天井がないんですか?」
「ん? あぁ、あれか。あの空は本物じゃないんだよ。今は夜だろう?」
「あ、そっか。でも雲が動いていますよ」
「あれは幻覚魔法だよ。風と炎と水の複合魔法。最高技術なんだ」
「すごい……」

ブランは先ほどまでの嫌な気持ちを忘れるほど魅入った。
それ程までに美しい景色だった。

「さて、まずは皇帝陛下にご挨拶だ。ブラン、練習通りにすればいいからね」
「あっ、は、はい!」

ブランは自分が今、入口からまっすぐ伸びた赤いカーペットを歩いていることに気づいた。おそらく、この先に皇帝がいるのだろう。

ブランがカーペットの奥に視線を向けると、そこには階段があった。
10段上には踊り場があり、そこに9つの椅子とそれに座る人物。さらに階段を上に行くと、カーテンで仕切られた部屋のようなものがある。

「ブラン、見えるかい? あのカーテンの奥に皇族の方々がいらっしゃる。そしてその前に座っていらっしゃるのが特級の方々だ」

ブランはようやく特級の顔が見える位置まで歩いてきた。
バルドロイがゆっくりと片膝をつく。それに合わせて後ろでミランダ達もお辞儀をしているのがわかった。
ブランもバルドロイの真似をして片膝をついてお辞儀をした。

「天空の輝ける皇族の皆様にご挨拶申し上げます。また、帝国の明星、皇太子殿下に置かれましてはお誕生日誠におめでとうございます。ボナパルト家一同、心からお祝い申し上げます」

バルドロイが挨拶をするとカーテンの奥からは若い男性の声がした。

「よくぞ参った、ボナパルト侯爵。貴殿の活躍は聞き届いている。これからも帝国貴族として軍に尽くしてくれ」
「ははっ!」

(声が若いってことは、皇太子殿下かな?――あんまり皇族とは話せないって言ってたけど、こういう時は声を聴けるんだ)

バルドロイはゆっくりと顔を上げると特級の面々に視線を落とした。

「遅ればせながら大公爵の皆様にもご挨拶申し上げます」

また同じように最敬礼をして挨拶をする。ブランも同じように真似た。
すると前から声がかかる。
9つの椅子の真ん中に座るのは目元ヴェールで隠した美しい人だ。

「一同、面を上げなさい」
「はっ」

紫にも見える紺色の髪を結った男性はおそらく序列1位の楊滄波ようそうはである。
空軍大将にして帝国貴族において最も高位の存在。その声は落ち着いていて静かであるのに、その場に心地よく響いた。

(この人の声、とっても心地がいい。――ずっと聞いていたい)

男性の低い声だが琴の音のような雅さがある。
ブランは顔を上げて特級を見た。
その場に座っていたのは、先ほど見たドラコ・ダ・ルクをはじめ、銀髪の若い女性、海軍の軍服を着た屈強な男性、真っ黒のローブをまとった厳しそうな初老の男性、着物を着た目の細い男性だった。

(? あれ……。氷雨様がいない)

椅子を全て見ても新聞でみた氷雨がいなかった。
おそらく、楊滄波ようそうはの隣にある空いた席が氷雨の席なのだろう。
ブランは少しだけ残念に思った。

その時、ブランを見つめている存在に気づく。
ドラコ・ダ・ルクだ。ブランがその赤い瞳と目が合うと、すぐにバルドロイへと逸らされた。

「ボナパルト准将、こうして言葉を交わすのはクロユリ戦争以来かな?」
「はっ。左様でございます」

陸軍ということもあり、ドラコから声がかけられた。

「そうか。いつも最前線で特攻隊の指揮を執ってくれていると聞いている。陸軍の中でも貴殿の評価は高い」
「ありがたきお言葉です」
「それと、質問をしてもいいかな?」

ドラコが笑みを絶やさぬまま聞く。
バルドロイは少しだけ緊張したように、小さく「はい」といった。

「――その子について聞きたい」

ドラコが見たのはブランだった。
それに合わせて特級全員がブランに視線を向ける。楊滄波ようそうはに関しては目元を隠しているから定かではないが、おそらく興味はこちらに向いているだろう。

「先ほど待機室での話を聞かせてもらった。貴殿がクロユリ戦争のあとに養子をとったと。……彼がその子供かな?」
「はい。その通りでございます」
「ということは、彼は元バルカ国の出身だということだね」
「はい」

バルドロイが頷くと、海軍の軍服を着た大男が身を乗り出した。

「小僧、固有魔法は!?」
「えっ」

耳が痛くなるほどの大きな声だ。
ブランは自分に話しかけられていることに驚き、思わずバルドロイを見上げた。

「海軍大将、この子は——っ!」
「貴殿に聞いておらんわ! 黙っておれ!」
「っ!」

バルドロイは押し黙った。
大男はブランを見つめている。

「えっ、えっと……あの……」
「なんだ! はっきり言わんか!」
「あ、あの……」

ブランは怖くて泣きそうだった。
大きな声も恐怖を煽る原因の一つである。

(どうしよう……僕の固有スキルなんてわからないし、そもそも魔法が使えるかどうかもわからないのに……)

ブランの瞳に涙が張ると、穏やかな声がその場を制した。

「フェリオ」
「む?」

楊滄波ようそうはの声だ。
まるで陶器のような美しい手を軽く上げて黙らせる。

「少年が怖がっている。それにあの幼さでは洗礼式も未だ。固有スキルどころか魔力判定も先のこと。答えられるはずがない」
「むむっ! なるほどそうか!! それもそうだな!」

フェリオと呼ばれた大男は「ガハハ」と笑った。それを見てドラコも静かに笑っている。
その横で静かに髭を撫でていた黒装束の男性がブランに言う。

「――しかし、異例の事態ではある。確か貴殿が養子縁組をしたときの報告書には身元不明の子供だとあったはず。……バルカ国の貴族である保証は?」

その言葉に銀髪の女性も頷いた。

「貴族たる者、貴族としての務めが出来ねばなりません。――その子に侯爵家に名を連ねるほどの魔力はあるのですか? 帝国に害を成さないという証拠は? その根拠は?」

バルドロイはぐっと手を握りしめて言葉を選んでいるようだった。
特級が全員バルドロイとブランを見つめる。

「……。根拠は……」

(やっぱり、僕はここに居ちゃいけないんだ。どれだけお父様が優しくても、特級の人が認めてくれないと貴族社会は生きられない。僕の存在が迷惑をかけてる)

ブランは思わず俯いて吐き気をこらえた。

「少年。こちらへ来なさい」
「!!」

バルドロイがパッと顔を上げる。
そう言ったのはドラコ・ダ・ルクだった。

「簡単な話だ。俺の手に触れて“決して悪意はない”と宣言してみればいい」
「大将軍閣下……!」
「ボナパルト准将。今は子供を見守ってやれ」

ドラコは人差し指を口の前に持ってきて笑った。
少し黙っていろ、と言いたげだ。

(手を握って、言う? それだけでいいの?)

楊滄波ようそうはがドラコを見た。
少し怒っているような表情だ。

「ドラコ……」
「まぁまぁ、そんな顔をするな。すぐに終わる」
「洗礼式を終えればその子がどんな人間かはわかるだろうに。なぜ今ここで話さねばならないんだ。皇帝陛下の御前だぞ」
「すぐに終わるさ」

滄波そうははこめかみを押さえてため息をついた。

「では少年。ドラコの前に行きなさい」

ブランは弾かれた様に立ち上がった。

(か、身体が勝手に動いた……!)

そのまま恐る恐る階段を上りドラコの前に跪く。
ドラコは優しい笑みを浮かべたままそっと手を差し出した。

(この手を握って、僕は“悪意がない”と宣言すればいいだけ……。きっとこの人の固有スキルが真偽を測るものなんだ)

軍人らしいゴツゴツとした手は小さな傷がいくつかあった。
ブランは手袋を取って小さな手でそっと握る。

「……少年。名前は?」
「ブラン・ボナパルトです」
「年齢は?」
「14歳です。来週の洗礼式で15歳になります」

ブランの言葉にその場にいた全員が目を見開いた。
銀髪の女性が「体が小さすぎる……」とつぶやく。

「君は帝国が憎いか?」
「いいえ」
「復讐を考えたことは?」
「いいえ」
「君を嫌悪する貴族が憎かろう」
「……いいえ」

ブランは少し迷って否定した。
ちらり、とドラコを見るとドラコは笑った。

(嘘だってバレたんだ)

「……僕やお父様を虐める人が嫌いですが、憎むほどではありません」
「正直だな。良いことだ」

ドラコは満足そうだ。
バルドロイとは違って堂々とした強さの中に気品がある。それはカリスマ性といっていいのか分からないが、上に立つ者の素質を感じる。

「では最後の質問だ」
「はい」
「君は帝国のために命を捨てられるか?」
「……はい」
「……」

数秒、ドラコとブランは見つめあった。その場を静寂が支配する。

その静けさに耐えられなくなったのは海軍大将フェリオであった。

「で! 結果は!」

急に大声が響きブランは肩を跳ねさせた。
再び滄波そうはがため息をつく。

ドラコは手を離すと最後にブランの頭を撫でた。

「全て真実だ。彼は帝国に害を成そうと考えてはいない」

ドラコが「戻っていいぞ」とブランに笑む。
ブランは最後に一礼してバルドロイのところまで駆け足で戻った。
バルドロイも腕を広げてブランを受け止め、二人はぎゅっと抱きしめあう。

「……少なくとも今は無害な少年だということか」
「詳細は洗礼式が終わってからでいいだろう」

黒装束の男性は納得しない様子だったが、ドラコが収めた。

「長く時間をかけたな。――それではパーティーを楽しみたまえ」
「ありがとうございます」

挨拶から15分以上かけてようやく、ブランたちはカーペットから離れることができた。
遠くで執事が次の貴族を呼ぶ声が聞こえる——。

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