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第三十五羽 広がる噂話
しおりを挟む二人がパーティーを組んだ記念ということで、早速冒険者ギルドで依頼を……受ける前に腹ごしらえとなりました。ご飯でお祝いというのは鉄板ですよね。
どこに食べに行こうかという話になったのですが、私はまだこの街に来て3日なのでどこに行くかはミルに任せました。……実に濃い2日間でしたね。
そんなミルが案内してくれたのは内装も華やかで賑やかな飲食店。それも隠れ家的な素敵な場所。こんな良いところを知っているなんてさすがです。ミルと組んで良かったと伝えたら、「あたし一ヶ月……なんでもない」と目を逸らされてしまいました。どうしたのでしょうか。
しかし案内された席でそんなミルの様子が気になっていたのも一瞬のこと。私はすぐに別のことに気を取られてしまいました。
なぜなら周りから聞こえてくる話が、グサグサと身を刺すように感じられたからです。それというのも……
「聞いたかよ、今回のジャシン教の話」
「ああ、また結構な被害が街に出たんだってな」
「あいつらも大概迷惑だよな……」
「いつも白蛇聖教のおかげでなんとか収まってるけどな……」
「そうだけど、そうじゃないんだよ。蒼い鳥の話だよ!」
「蒼い鳥?」「それって半年前に街を救った……かもしれないってやつか?」「噂だろ?それがどうかしたのか?」
「現れたんだよ蒼い鳥が! この街に!」
「なに?」「ホントか?」
「ホントもホントさ! 何人もの証言がある。しかも颯爽と飛んできてはジャシン教だけをぶっ飛ばしてどっかに行ったらしいぜ」
「ジャシン教を?」「じゃあ……助けてくれたのか?」
「きっとそうさ! 半年前だって助けてくれたんだよ」
「それなら是非会ってみたいな」
と盛り上がっていたり。
「噂の蒼い鳥、とんでもない強さらしいぜ」
「なに? そんなにか?」
「少なくとも危険度はAランク以上はあるって話だ。居合わせた信頼できる冒険者が言ってたから間違い無い」
「危険度Aランクなら天帝を止めるのは無理だが……」
「見たヤツは全力ではなさそうだったって言ってる。まだまだ余力を残してそうだったってよ」
「なるほど……。眉唾だと思ってたが天帝を止めたのは真実味を帯びてきたのか……」
「ああ、いつかあのはた迷惑な天帝を下して新たな天帝になるかもしれないぜ」
と考察していたり。
「聞きましたか奥さん?」
「あら、なんの話かしら?」
「モステッド商会のお話しですよ。ほら、薬品類や雑貨ががたくさんある……」
「ああ、モルクという方が会長をしている商会の……」
「ええ、そこです。なんでもジャシン教に襲われていたお店を蒼い鳥が救ったらしいですのよ」
「なんとまあ……。怪我人はいなかったのかしら?」
「ええ、一人も怪我無しらしいですわよ? それにあやかって蒼い鳥印の回復薬を大特価販売しているらしいですのよ。ほら、御利益がありそうじゃなくて?」
「それはそれは、商魂たくましいですわね」
「でも奥様、嫌いじゃないでしょう?」
「あら、良くわかりましたね。……後で覗きに行きましょうか」
「お供しますわ」
と井戸端会議を店の中で繰り広げていたり。
モルクさん……!! 何やってくれてるんですかァ!! ホントに商魂たくましすぎですよ! 昨日会いに行ったときには別にそんな素振りみせていなかったでしょう!?
助けた人に後ろから刺された気分ですよ。いや、モルクさんは私が蒼い鳥が私だと知らないからしょうがないんですけど! しょうがないんですけど!
うう、私とイコールで結ばれないとはいえ、噂が広がるのは怖いですね。いつかバレるのではないかと気が気でない。出来るのならあの時の自分を殴って止めたいです……。
ば、バレたらどうしよう……。崇められる? 討伐隊を組まれる? 捕まったら実験台? 解剖? 貴族のペットでしょうか?
胃が痛い……。
急いでるからとやらなければ良かった。……でもモルクさんは結構ギリギリだし、ミルはきっと間に合わずに怪我していたから、きっと何回でも同じ事をしますけど……。
納得していてもそれはそれ。感情は別なのですよ。
「……ル。……メル!!」
「あ、はい! きゅ、急にどうしました?」
「んもう。さっきから何回も呼んでたよ? 何食べるか聞いてたの。 それなのにメルは一人で百面相して……」
「ごめんなさい。ちょっと思い出し百面相を……」
「思い出し百面相????」
ともかくあまり過剰に反応するのも良くないでしょう。
横で理解できないものを理解しようとしている顔のミルを余所に、心を落ち着ける為にお冷やを口に含んだ。
「ところで蒼い鳥って知ってる?」
「ッ!? ゴホッ! ゴホッ!」
「ちょ!? 大丈夫メル!?」
味方だと思っていた相手からの突然の不意打ち。驚きから水が気管に入って咽せてしまった。
咳き込む私の背中をミルがゆっくりとさすってくれて、徐々に落ち着いていきます。
助けてくれたのはありがたいのですが、これはマッチポンプでは? あまりのタイミングに恨めしい目を向けてしまう。
「ありがとうございます。……今の狙ったんですか?」
「ねら……え、何のこと?」
「いえ、なんでもありません。それで……蒼い鳥……でしたか。それが?」
「あたし鳥には悪い思い出と良い思い出があって、結構な噂になっている蒼い鳥の話を聞く度にそれがどうしても浮かんでくるの。ほら、昨日も話したでしょう?」
「なる……ほど?」
そんな記憶があるような……ないような……。
「良い記憶の方だけ話すと、仲良くなった妹みたいな子がいるってこと。その子は蒼じゃなくて白だったけどね。それで貴女と同じ名前で、メルっていうの。あたしが名前を付けたんだよ?」
「!!」
……ええ、貴女に名前を付けて貰ったときの事は鮮明に思い出せますよ。お母様がゴネて大変でしたね。メルシュナーダって呼んでいないのをお母様に聞かれたら怖いですよ?
「魔物が妹みたいって……変だと思う?」
「……いえ、きっとその子は喜ぶと思いますよ」
「……そっか。そうだといいなぁ」
「でもその子は自分を姉だと思っているかも知れませんけど?」
「ええー? それはないよ。その子は生まれたばっかりだったし」
「…………そうなんですね」
……一理あることは認めましょう。
「ともかくあたしはその子と急に離ればなれになってしまって、お別れを言う時間もなかったし、今の安否確認も出来てない。詳しい場所も分かってないし、心配しても自力で会いに行けるだけの強さもない」
……確かに今のミルではあの森を越えて家に来るのは無理でしょうね。
「メルと一緒に頑張って、それできっと強くなって。そしたらリヒトを手助けに戻る前に、その子に会いに行きたいなって思ってるんだ。それに蒼い鳥にも会いたいな。人を助けているその子がどんな子なのか知りたいんだ」
その場面を想像しているのか、ミルは瞳を輝かせて心からの笑顔を浮かべている。
それを見て私の心は揺れていた。
……私は彼女に正体を知らせるべきでしょうか。彼女は私が蒼い鳥だと知っても言いふらしたりはしないでしょう。そこは確信できます。
でもミルの人生に割って入った私が、ミルを人の街まで送り届ける事が出来なかった私が。今更名乗り出て、関わって良いものか……。
いえ、これは言い訳ですね。北の大陸では不必要に関わらない方が良いと判断しましたが、今彼女が望んでいる以上、これは私の問題です。
フレイさんやアモーレちゃんに関わっているのに、ミルだけ関わらない方が良いというのも可笑しな話。現に今、姿を偽って彼女に関わっています。
しかし私は彼女に伝えるのに二の足を踏んでいる。伝えたいと思っているのも事実。伝えたくないと思っているのも事実。
この感覚をなんと言葉にしたものか……。
悩んで悩んで悩みまくって―――私は結論を出しました。
「……ミルさん。考えるだけでなくごはんにしましょう」
「へ?」
「お腹が空いていては始まりません。強くなるには食べる事から」
「あ、うん」
お腹が空いているときに難しい事を考えていると気が滅入ってきます。ますはご飯を食べてそれからでも遅くありません!
さあ、何にしようかな!
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