愛犬もどきはあち子がお気に入り

にいるず

文字の大きさ
24 / 28

24 図書館に行きました

しおりを挟む
 ゴールデンウィーク最終日になった。

 あち子は、一人図書館に行くことにした。
 朝から連休疲れか、リビングで家族みんなぐた~としている。

 健太は連日の野球の試合で。
 父牧夫は、ゴールデンウィーク中健太の野球の送迎・応援や、一人で趣味の釣りに行った。
 母の美佐子も、野球の応援の他、あち子と買い物に行ったり、実家に行ったりとあち子以外三人とも忙しそうにしていた。

 あち子はそこまで疲れてはいないので、ひとりで出かけることにしたのだ。

 「じゃあ、いってくるね~」

 あち子が玄関から声をかけると、疲れたような声がかえってきた。

 「気を付けてね~」

 「気を付けるんだぞ~」

 母と父だった。


 (何冊借りようかな。あんまり借りても、学校始まったら読めないしなあ)

 何冊かすぐ候補が上がったのだか、今日のところは二冊にしておこうと決めている。
 あち子は閲覧用のテーブルに、本を四冊並べて悩んでいた。
 一冊づつちょこっとだけ読んでみる。

 あち子がうんうん悩んでいると、肩の上のぽちがふわふわと飛んで行った。
 あれっと思ったが、すぐに戻ってくるだろうとほっておいた。

 「きてたんだー」

 真正面から声がするので、びっくりして本から目を上げると坂村が立っていた。
 ぽちは、なぜか坂村の肩に乘っている。

 「ぽちでわかったよ。図書館に入ったら、すぐきたからさ」

 坂村は、なぜかぽちのお気に入りになった。
 はじめの警戒はどこへやら、かくいう坂村もぽちが肩にのっていても文句も言わない。
 だからだろうか、ぽちもこんなに懐いているんだろう。

 「坂村君は勉強しに来たの?それとも本を借りに?」

 「まあね、ちょっと暇つぶしかな。それより鈴井は本を借りに来たの?」

 坂村は、テーブルに置いてある本たちを見ていった。

 「そうなの、どの本借りようかと考えている最中」

 「じゃあ俺もここで本読もうかな。いい?」

 「もちろん、いいよ。ぽちおいでー」

 あち子は、小声でぽちをよんだ。
 ぽちは薄情にも、まだ坂村の肩にのっていたそうだったが、仕方なくとばかりにあち子のもとというより、テーブルの上にぐでんと横になった。

 坂村は荷物をおいて、本を探しに行った。

 あち子はその様子をみてから、自分もまたずいぶん坂村に慣れたものだと思った。
 ちょっと前ならこんなに気軽に話せなかっただろう。
 ある意味ぽちのおかげかなと思いながら、いつの間にか本選びに夢中になっていた。

 気づけば、あち子は借りるはずの本一冊を半分読んでしまっていた。
 ぽちはどこかなあと探すと、ぽちが坂村の手元にいて、体をなでられて頭がゆらゆらしていた。

 最近ぽちは、うれしいと体をふわふわさせたり、頭をゆらゆらゆするようになったのだ。
 なんだかそんな仕草は、犬のしっぽを思い起こさせるなあとあち子は思っている。

 坂村は本を読みながらなでているので、たぶん読んでいる最中に本の上にのったりして、さわってアピールをしてたんだろう。

 「ごめんね、ぽちが邪魔しちゃって」

 「いいよ、本読みながらでもなでられるしさ」

 坂村はあち子のほうをむいて、柔らかな笑顔で言った。
 ぽちが癒しになってるのだろう。
 いつものクールな顔じゃない坂村に、ちょっとだけドキドキした。

 ふと横を見ると、ちょっと離れたところに座っているほかの人たちも、坂村をぼーと見つめており、坂村のやわらかい笑顔にやられてしまったようだった。

 お昼のチャイムが聞こえたので、二人は帰る支度を始めた。

 あち子は結局本をだけ二冊借り、後の二冊は次回に借りることにした。

 「そんなに悩んでるんなら全部借りたら。ここ10冊まで借りれるんだから」

 「そうなんだけど借りたら借りですぐ読んじゃいたくなるんだよね。それに寝不足で、またこの前みたいなこと起こっても困るしね~」

 あち子の顔が、さそ情けない顔になっていたのだろう。

 坂村は、思わす吹き出していた。
 そしてぽちをなでながら、小声で言ったのだった。

 「もう大丈夫だよなぽち。ずいぶん成長したもんな」

 坂村はずいぶんぽちに肩入れしたものだ。何を基準に成長したってわかるのか、思わずあち子は坂村に聞き返したくなった。
 しかしぽちがなでられて嬉しそうに頭を揺らしていたのでやめておいたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

まほカン

jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。 今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル! ※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...