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番外編 ランダル・レリフォルの婚約者パメラ
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「なんですって!」
パメラ・チェイスは、今猛烈に怒っている。もし誰か知らない人が今パメラの顔を見たら、きっと二、三歩は後ずさるだろう。怒った顔と相まって真っ赤な髪が燃えているようだ。真っ赤な髪はパメラ実家であるチェイス家のシンボルともいえる。
そのパメラが今猛烈に怒っているのは、実の妹のようにかわいがっているナリス・レリフォルの事だ。ナリスはパメラの婚約者であるランダル・レリフォルの妹だ。そのナリスが今悲しい思いをしていると聞いた日には、怒るに決まっているのだ。そのパメラには幼い頃より婚約者がいる。サクリウ国の頭脳とも呼ばれるレリフォル公爵家の嫡男であるランダル・レリフォルだ。
チェイス家はサクリウ国建国の頃より『国の剣』といわれている。それは、チェイス家が国で担っている役職から来たものだ。チェイス家は武の家柄であり、代々国を守り他国を圧倒するその力は、サクリウ国にはなくてはならないものだ。一応侯爵という爵位をいただいてはいるが、チェイス家にとって武こそがすべてであり、爵位にこだわる貴族とは一線を画している。
そのチェイス家に生まれたパメラは、チェイス家の象徴である燃えるような赤い髪は持っているものの、顔立ちはかわいらしく立ち姿も吹けば飛んでしまいそうな、はかなげな印象を人に与える。ただパメラにきちんと接したものならば、そんなことを思うものは誰一人としていないのだが。
パメラは幼いながらも自分の家が、ほかの貴族たちとは違うことを肌で感じていた。
パメラには兄がふたりいる。兄たちは貴族としての勉強を学ぶより剣の練習が一番であり、以前勉強を教わっている兄たちを見てびっくりした。目が死んでいたのだ。まるで浜に打ち上げられた死んだ魚のような目をしていた。
まあ父も母も勉強に身が入らない兄たちを見て、あきらめているフシがある。チェイス家のご先祖様に、勉強ができるものなどいたためしはないのだから。かくいう父も祖父も勉強は苦手だったようだ。今やチェイス家の生き字引とも呼ばれる、庭師のトリーが言っているのだから間違いはない。もともとチェイス家のものは皆大柄で筋肉隆々であり、机に座っている姿はあまりに似合わない。まあ筋肉が発達しているのは、体だけでなく脳もなのだが。
やはりというべきかパメラ自身、勉強は苦手だ。特に貴族女性が習うマナーやレースなど、パメラにとっては憂鬱でしかない。見た目とは違いやはりそこはチェイス家の血を引いているパメラだ。
パメラ家に嫁いだ母も祖母も見た目こそはかなげでなのに、パメラから見ても他の貴族女性とはちょっと違う気がする。やはりレース編みやマナーは苦手であったらしい。不思議なものでチェイス家に生まれた女性は、皆見た目は女性らしい体形、風貌になるらしい。嫁に来るものもまたしかりである。
チェイス家の男たちは、見た目はかなげな女性が好きだ。弱いものを守らなければという本能が強いらしい。そのためチェイス家に嫁ぐ女性は皆かよわそうな見た目だ。それが遺伝しているのだろう。
しかし面白いもので、パメラから見ても面白いぐらいチェイス家に嫁いできた女性たちの見た目と性格は大きく反比例している。
まあ筋肉命のチェイス家に嫁ぐ女性が、見た目通り繊細であったならとてもじゃないが、チェイス家の男性と結婚を続けられないだろう。チェイス家の男性は、よく言えば豪胆だが悪く言えばおおざっぱであり鈍感なのだ。こんな男たちに自分を察してほしいといっても、多分それをわかるのには少なくとも百年、いや一生わからないだろう。
だからか無意識にチェイス家の男たちは、はかなげな見た目でありながら内面は、自分に似たおおざっぱなそしてある意味豪快な女性を選んでいるのだろう。その選ばれた女性たちが母であり祖母である。
パメラもそんな見た目とはあまりに違う性格であることを自分で自覚している。たぶん自分が結婚するときは、騎士とすることになるだろうと思っていた。
「パメラの婚約者は、ランダル・レリフォル次期公爵に決まった!」
ある朝、朝食を家族で食べていたときだ。まるで天気の話でもするかのように言ったのは、チェイス侯爵当主でありパメラの父親だった。チェイス家では朝から肉を食べる。筋肉をつけるためだ。
「へえ~、すごいじゃないかパメラ」
「あのランダル?じゃあさっそく剣の稽古をつけてやろう」
パメラが驚きのあまり口も聞けずにいる中で、まず口を開いたのは一緒に食事をしている次期侯爵家当主の兄だった。上の兄は目の前の肉をきれいに切って次々に口に入れている。
次に声を上げたのは二番目の兄だ。大きな肉の塊を丸ごと口の中に入れている。同じ兄弟でも肉の食べ方が全く違う様に性格も違う。上の兄は豪胆さの中に少しばかりの繊細さを持っている。下の兄はその繊細さすべてを母親のお腹の中に忘れてきたらしい。ただ二人に共通しているのは、パメラの婚約者があのランダル・レリフォルだということを少しも気にしていないことだ。
「まあ。あの『ほほえみの貴公子』様が、パメラのお相手になったの?すごいわねえ」
かろうじてお茶会やパーティーで貴族社会を知っている母が、一番まともな感想を言った。ただその母もパメラが食事の最中にも関わらず、大声を出したことを注意しない。ましてや兄2人が、食事中口の中にものを入れたまましゃべっていてもだ。それぐらいチェイス家は、ほかの貴族の家とは程遠いマナーなのだ。
「お父様、どういうことですの?」
そういうわけなので、パメラが大声で怒鳴るように言っても家族の誰一人として注意する者はいなかった。
パメラ・チェイスは、今猛烈に怒っている。もし誰か知らない人が今パメラの顔を見たら、きっと二、三歩は後ずさるだろう。怒った顔と相まって真っ赤な髪が燃えているようだ。真っ赤な髪はパメラ実家であるチェイス家のシンボルともいえる。
そのパメラが今猛烈に怒っているのは、実の妹のようにかわいがっているナリス・レリフォルの事だ。ナリスはパメラの婚約者であるランダル・レリフォルの妹だ。そのナリスが今悲しい思いをしていると聞いた日には、怒るに決まっているのだ。そのパメラには幼い頃より婚約者がいる。サクリウ国の頭脳とも呼ばれるレリフォル公爵家の嫡男であるランダル・レリフォルだ。
チェイス家はサクリウ国建国の頃より『国の剣』といわれている。それは、チェイス家が国で担っている役職から来たものだ。チェイス家は武の家柄であり、代々国を守り他国を圧倒するその力は、サクリウ国にはなくてはならないものだ。一応侯爵という爵位をいただいてはいるが、チェイス家にとって武こそがすべてであり、爵位にこだわる貴族とは一線を画している。
そのチェイス家に生まれたパメラは、チェイス家の象徴である燃えるような赤い髪は持っているものの、顔立ちはかわいらしく立ち姿も吹けば飛んでしまいそうな、はかなげな印象を人に与える。ただパメラにきちんと接したものならば、そんなことを思うものは誰一人としていないのだが。
パメラは幼いながらも自分の家が、ほかの貴族たちとは違うことを肌で感じていた。
パメラには兄がふたりいる。兄たちは貴族としての勉強を学ぶより剣の練習が一番であり、以前勉強を教わっている兄たちを見てびっくりした。目が死んでいたのだ。まるで浜に打ち上げられた死んだ魚のような目をしていた。
まあ父も母も勉強に身が入らない兄たちを見て、あきらめているフシがある。チェイス家のご先祖様に、勉強ができるものなどいたためしはないのだから。かくいう父も祖父も勉強は苦手だったようだ。今やチェイス家の生き字引とも呼ばれる、庭師のトリーが言っているのだから間違いはない。もともとチェイス家のものは皆大柄で筋肉隆々であり、机に座っている姿はあまりに似合わない。まあ筋肉が発達しているのは、体だけでなく脳もなのだが。
やはりというべきかパメラ自身、勉強は苦手だ。特に貴族女性が習うマナーやレースなど、パメラにとっては憂鬱でしかない。見た目とは違いやはりそこはチェイス家の血を引いているパメラだ。
パメラ家に嫁いだ母も祖母も見た目こそはかなげでなのに、パメラから見ても他の貴族女性とはちょっと違う気がする。やはりレース編みやマナーは苦手であったらしい。不思議なものでチェイス家に生まれた女性は、皆見た目は女性らしい体形、風貌になるらしい。嫁に来るものもまたしかりである。
チェイス家の男たちは、見た目はかなげな女性が好きだ。弱いものを守らなければという本能が強いらしい。そのためチェイス家に嫁ぐ女性は皆かよわそうな見た目だ。それが遺伝しているのだろう。
しかし面白いもので、パメラから見ても面白いぐらいチェイス家に嫁いできた女性たちの見た目と性格は大きく反比例している。
まあ筋肉命のチェイス家に嫁ぐ女性が、見た目通り繊細であったならとてもじゃないが、チェイス家の男性と結婚を続けられないだろう。チェイス家の男性は、よく言えば豪胆だが悪く言えばおおざっぱであり鈍感なのだ。こんな男たちに自分を察してほしいといっても、多分それをわかるのには少なくとも百年、いや一生わからないだろう。
だからか無意識にチェイス家の男たちは、はかなげな見た目でありながら内面は、自分に似たおおざっぱなそしてある意味豪快な女性を選んでいるのだろう。その選ばれた女性たちが母であり祖母である。
パメラもそんな見た目とはあまりに違う性格であることを自分で自覚している。たぶん自分が結婚するときは、騎士とすることになるだろうと思っていた。
「パメラの婚約者は、ランダル・レリフォル次期公爵に決まった!」
ある朝、朝食を家族で食べていたときだ。まるで天気の話でもするかのように言ったのは、チェイス侯爵当主でありパメラの父親だった。チェイス家では朝から肉を食べる。筋肉をつけるためだ。
「へえ~、すごいじゃないかパメラ」
「あのランダル?じゃあさっそく剣の稽古をつけてやろう」
パメラが驚きのあまり口も聞けずにいる中で、まず口を開いたのは一緒に食事をしている次期侯爵家当主の兄だった。上の兄は目の前の肉をきれいに切って次々に口に入れている。
次に声を上げたのは二番目の兄だ。大きな肉の塊を丸ごと口の中に入れている。同じ兄弟でも肉の食べ方が全く違う様に性格も違う。上の兄は豪胆さの中に少しばかりの繊細さを持っている。下の兄はその繊細さすべてを母親のお腹の中に忘れてきたらしい。ただ二人に共通しているのは、パメラの婚約者があのランダル・レリフォルだということを少しも気にしていないことだ。
「まあ。あの『ほほえみの貴公子』様が、パメラのお相手になったの?すごいわねえ」
かろうじてお茶会やパーティーで貴族社会を知っている母が、一番まともな感想を言った。ただその母もパメラが食事の最中にも関わらず、大声を出したことを注意しない。ましてや兄2人が、食事中口の中にものを入れたまましゃべっていてもだ。それぐらいチェイス家は、ほかの貴族の家とは程遠いマナーなのだ。
「お父様、どういうことですの?」
そういうわけなので、パメラが大声で怒鳴るように言っても家族の誰一人として注意する者はいなかった。
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